第1章ー5 ”ルリタテハの踊る巨大爆薬庫”本領発揮
モノノフ隊が8機、4機、12機で3方向から風姫達へと迫る。
アキトは定石通り少ない敵を相手する・・・のではなく、ジンの指示に通り時間稼ぎする為、一番早く風姫達に接敵する8機のモノノフ隊を迎撃する。
アキトのカミカゼがモノノフに優っているのは、後ろの2枚のオリハルコンボードに装備している幽谷レーザービームのみ。最高速度、加速力はモノノフ。機動力では、各稼働部にジェットスラスターを搭載しているモノノフと、小回りの効くカミカゼで互角となるだろう。
普通であれば死地に飛び込む自殺志願者なのだろうが、ジンと出会ってしまってから約4年。今のアキトは、ルリタテハ王国軍の平均的なパイロットを超える水準まで、操縦技術を鍛え上げられていた。それは人型兵器”サムライ”だけでなく、全ての機動兵器でだ。
因みに翔太は、サムライ以外の機動兵器ではベテランパイロット並みで、サムライの操縦技術ではエースパイロットの水準にある。
アキトは幽谷レーザービームを自動照準で8機のモノノフを攻撃しながら、部隊の中央に突っ込んだ。遠距離攻撃手段のないモノノフから離れ、一方的に幽谷レーザービームを浴びせるのが理想的だ。しかし幽谷レーザービームとはいえ、遠距離からの自動照準ではモノノフの弱点を狙い撃てない。
戦闘が長引けば、最高速度と加速力に優る8機のモノノフが、連携して一方的にカミカゼを攻撃するだろう。
部隊の懐に入り込み、アキトの操縦技術と空間把握能力と先読みをフル活用し、縦横無尽にカミカゼを操る。アクロバティックな動きにもかかわらず、カミカゼは滑らかな軌道を描き、一時たりとも停止しない。
しかも近距離からの幽谷レーザービームによる攻撃は、モノノフの弱点を狙撃できなくとも、装甲に穴を穿つぐらいの威力がある。
積み重ねればモノノフを撃破するのも容易いのだが、カミカゼに搭載している自動照準は命中精度を優先している。高性能な自動照準装置はデータベースに各種兵器の情報を保管し、対象兵器の弱点を精度よく命中させるためのターゲッティングシステムが搭載されている。
モノノフに乗り慣れていないパイロットが、人の動きの延長で2本の警棒を振り回すと、アキトは警棒の間をすり抜ける。
モノノフに乗り慣れているパイロットが、空中で腕脚を人の肉体や関節では不可能なバラバラな動きでカミカゼを追い詰めようとする。先読みしづらいため、アキトはそのモノノフからは距離をとり、動きの単調なモノノフへと近づき纏わりつく。
カミカゼは水平方向の動きから、すぐに垂直方向の走行へとスムーズに変化していった。人間、横の動きは対応し易いが、縦の動き・・・特に頭上への対応は遅延する。日常生活で、頭上に注意を払うことがないからだ。
宇宙空間でサムライを操縦するベテランパイロットなら、機体を縦回転や横回転させ、上下左右の意味をなくす。しかし惑星上で、かつモノノフに乗り慣れていないパイロットが、アキトの操縦するカミカゼの縦の動きに対応するのは不可能。
アキトはモノノフの頭上から背後へと疾走しながら、10ヶ所以上に幽谷レーザービームを叩き込んだ。残念ながら撃破とまではいかなかったが、戦闘能力を半減させるぐらいのダメージを与えたのだ。
アキトが7機目のモノノフに纏わりついている時、ジンから通信が入った。
『2人確保した』
テロ組織を暴くため、テロリスト2名を確保した。
つまり今からジンは、テロリストの命を護らない攻撃を実行できる。
ジンからの連絡を聴いた瞬間、アキトはカミカゼをモノノフ隊から離脱し、安全を確保するためハンガーの後ろに回り込む。無論、自動照準による幽谷レーザービームをオマケとして残し・・・。
モノノフ8機編隊をオレは2機大破、1機中破、4機小破した。カミカゼ1機としては、充分な戦果を挙げたと胸を張れる。
ハンガー裏で一息つき、クールグラスに素早く戦況を映し、次の行動を考える。
決断を下す前に、轟音がハンガーをものともせず駆け抜けていった。
クールグラスには、オレが苦労して足止めしていたモノノフ8機のマークに×印がつけられている。戦況が全く変化したのだ。決断を下す前で良かったというべきだろうか。
カミカゼ”エレハン”モデルの暗号通信機能で、オレは宝船に連絡を入れた。
翔太は七福神ロボのオペレーションルームに飛び込み、重力波通信機能をオンにした。新開グループの拡張通信フレームワークにより、最大32の操縦系統を統合したオペレーションルームだが、重力波通信機能を使用した状態では最大8となる。
両手両足のルーラーリングにケーブルを接続し、重力波通信機能を使用可能な”弁才天”、”福禄寿”、”毘沙門天”、”恵比寿”を同時起動する。ただ、他の3機に重力波通信機能搭載する予定だったので、4機とも武装していなかった。要は、変わった形のコウゲイシ4機でしかない。
宝船から福禄寿、恵比寿、毘沙門天、弁才天の順番に出撃する。
翔太は、まず敵の攪乱に防御力の高い福禄寿を4機編隊の中央に突入させ、モノノフの警棒を避けて包囲を抜けた。モノノフの編隊に乱れが生じ、その隙を翔太は見逃さなかった。恵比寿が巨体を活かしてモノノフ1機に体当たりを敢行し、毘沙門天はモノノフの頭を両手で掴み膝蹴りを叩き込んだ。
弁才天は8本腕を活用する。モノノフの両脚と両腕を1本につき2本ずつの腕で拘束し、持ち上げ地面に叩きつけた。
「ゴウ兄、僕一人で解決しちゃえそうだけど」
『あと何分だ?』
「うーん、15分もあれば問題ないさ」
『宝船の活躍の場がなくなるのは問題だな。千沙、緊急発進の緊急発進するぞ。取り敢えず滑走路に出て、レーザービームが放てればいい』
『ゴウにぃ、重力発生装置を全開にするには20分ぐらい掛かるんだよね~』
『そうか、ならば推進エンジンを全開して、進むだけだ。お宝屋の道を邪魔するものは全て排除するぞ』
『それだと、滑走路と宝船の船底が酷いことになりそうだよ~ 修理代はどうするの?』
『うむ・・・ジンに全額請求する。いっけー』
『しょうがないな~』
宝船がガレージから地面に一本の線路を描き、船底が削れる音を立てて顕れたのだ。
両舷側から外へとスライドして配置された幽谷レーザービーム砲4門は、既に発射準備が完了している。照準をすると同時に、アキトがさっきまで苦労して相手をしていたモノノフを消滅させたのだった。
「ゴウ兄、ちょーっと大人気ないと思うな。こっちのセミコントロールに影響がでる操船は控えて欲しいんだよね」
『ん? 体をオペレーションルームに固定していない翔太の責任だぞ』
「ゴウ兄が急がせたんだよね」
『我が弟ながら優秀で兄としては嬉しいぞ。だがな、お宝屋として出番がなくなるのは我慢できん』
千沙が仲裁の言葉をかける。
『翔太ぁ、ゴウにぃの理屈が正しいと思うな。あたしたちは、トレジャーハンティングユニット”お宝屋”なんだし~』
世間一般とお宝屋の常識に乖離しているのが良く分かる千沙のセリフだった。
「・・・いいけどさ」
それに納得する翔太も、やはりお宝屋だった。