セブの月といえば その1
先日、魔獣討伐のお手伝いをすることになった僕達コンビニおもてなしだったのですが、結局お手伝いを行ったのはあの日1日だけでした。
そもそも僕達が辺境駐屯地のみなさんのお手伝いとして魔獣討伐に加わることになったのは、ゴルアとメルア以外の辺境駐屯地の皆さんがあまりにもふがいなかったからだったわけなんです。
ですがあの日、パラナミオを筆頭とした我が家の子供達の声援を受けまくったおかげで勇気を振り絞った皆さんが奮闘されまして、かなりの成果をあげられました。
その結果で自信を深められた辺境駐屯地の皆さんは、あの日以降それまでの情けなさが嘘のように逞しくなられたそうで、
「逆に私やメルアが引っ張られている感じですよ」
隊長のゴルアが笑顔でそう言う程にまで変貌されたそうなんです。
そんなわけで、街道の魔獣退治は、あの日以降辺境駐屯地の皆さんだけで行われています。
ただ、街道の途中まで出向くのに時間がかかってしまいますので、そこまでの移動のお手伝いをスアが行っています。
朝、ガタコンベにありますコンビニおもてなし本店へやってきたゴルア達辺境駐屯地の皆さんを、スアが転移ドアで前日辺境駐屯地の皆さんが討伐を終了された場所まで送り届けます。
で、その日の夕方、コンビニおもてなしの閉店時間になると、スアが皆さんの現在位置を魔法で察知し、そこに転移ドアを作り、こちらへ連れて帰ってきています。
それを繰り返して、現在は街道の半分くらいまでの魔獣討伐を終えている状況です。
その途上で仕留めた魔獣達は、転移ドアのお礼ということですべてコンビニおもてなしに提供してもらっています。
相変わらず、この街道に出没する魔獣の大半は甲殻系の魔獣のため、そのほとんどをルア工房へ提供しています。
で、これを受けたルアは
「へぇ、結構いい素材だねぇ。助かるよ」
と、笑顔でこれを受け取ってくれています。
で、この甲殻を利用した武具がどんどん出来上がっていまして、コンビニおもてなしの各店に並んで好評を博している状況だったりします。
◇◇
そんなわけで、コンビニおもてなしは通常営業に戻っています。
そんな中、イエロとセーテンは、以前はガタコンベ周辺だけで狩りを行っていたのですが、最近はナカンコンベ周辺でも狩りを行っています。
その際には、5号店のグリアーナも引き連れて狩りに出かけているのですが、
「いやぁ、最近のグリアーナはめざましい成長を遂げておりますぞ」
と、イエロが嬉しそうに話しています。
グリアーナは
「いえいえ、師匠に比べましたらまだまだでござる」
と謙遜しきりですけど、イエロの様子から判断してもかなり成長しているんだろうということが伝わってきます。
このイエロ・セーテン、加えてグリアーナの3人で狩りで、コンビニおもてなしのお肉関係の仕入れがまかなわれているのですが、最近は少し変わったことも始めているんです。
スアの使い魔の森の中に放牧場を作りまして魔獣の放牧を始めているんです。
以前からこのスアの使い魔の森ではウルムナギというウナギもどきな魚の養殖を行っているのですが、そんな感じで食用に適した比較的おとなしい魔獣を飼育してみようと思っているわけです。
さすがにタテガミライオンのように獰猛な魔獣は飼育に適しませんが、先日街道で捕縛したような半月熊のような魔獣であれば飼育出来るんじゃないかな、と思ったわけです。
あくまでもまだ試験的ではありますけど、イエロ達が適当な魔獣を捕縛してスアの使い魔の森へ連れて行ってくれている次第です。
◇◇
そんな中、そろそろ夏がやってきます。
もうじき僕が元いた世界でいうところの7月にあたりますセブの月が訪れます。
こちらの世界は、僕が元いた世界ほど気温が上下はしません。
夏でも30度手前くらいまでしか気温はあがりませんし、冬でも15度くらいまでしか気温は下がりません。
とはいえ、その気温になれている皆さんにとっては、その気温でも暑いと感じる季節なわけです、はい。
そこで、今年もコンビニおもてなしでは土用の丑の日フェアとしまして、ウルムナギ弁当を大々的に売り出す予定にしています。
それに合わせまして、スアの使い魔の森ではタルトス爺が中心になって、すでに準備を進めてくれていますので材料には事欠きません。
ナカンコンベの食堂ピアーグのナスアにもウルムナギの調理の仕方を勉強してもらおうと思っています。
この日の食堂ピアーグの営業が終了してから、僕はウルムナギを持って食堂ピアーグへ出向きました。
僕の到着を待ちかねていたナスア達は、ウルムナギを見ながら目を丸くしています。
「うわぁ……なんですこれ、なんか長くてニョロニョロしてて……」
このウルムナギは、ナカンコンベ周辺には存在していないそうです。
ナスア達も生まれて初めて見るんだそうです。
コンビニおもてなしでは、数は減らしていますけど毎日ウルムナギ弁当を作成して各店で販売しているんですけど、数が少ないですので今の製造はすべて本店の魔王ビナスさんにお任せしています。
と、いうわけで、早速僕はナスアにウルムナギの調理方法を指導していきました。
コンビニおもてなしの弁当作成を手伝ってくれている関係で、魚などはよくさばいているもんですから、基本的な知識と技術には問題のないナスアは、最初こそウルムナギのヌルヌル感に手間取っていたのですが、3匹目あたりからコツを掴めたみたいでして、見るからに手際が良くなってきました。
「ふはぁ……これ、美味しいんですか?」
さばくのには慣れてきたものの、ウルムナギをまだ体験したことがないナスアは若干半信半疑な様子です。
そんなナスアのために、僕は早速ウルムナギを焼いてみることにしました。
本店からツボに取り分けてきたタレを使って、開いて串で刺したウルムナギを炭火で焼いていきます。
この炭焼きの施設ですが、炭焼き焼き鳥弁当を作成するために、ルアにお願いして設備を作ってもらっていたんですよね。
で、ここでタレに付けて焼き、またタレを付けて……
それを繰り返していると、すぐに厨房内にいい匂いが充満していきます。
「うわぁ……いい匂い」
「お腹が減ってくるような……」
食堂ピアーグの店員マーリアとライヘも、思わずそんな声をあげています。
で、焼き上がったウルムナギを、僕は丼飯にのせてうな丼ならぬウルムナギ丼に仕上げて3人に振る舞いました。
「このウルムナギはこんな感じで調理するんだ。お弁当にする際にはこれを……」
と、僕は説明を続けようとしたのですが……
そんな僕の前で、3人はすごい勢いでウルムナギ丼を食べ始めていました。
もう、話をする時間も惜しいとでもいわんばかりの勢いです。
いつもでしたら、新しい料理を前にしたら、
「これはどんな調理方法を……隠し味は……」
と、分析しながらゆっくり味わって食べるナスアまでもが、
「もぐ……もぐ……」
と、ひたすらウルムナギ丼をかき込み続けていました。
それを見た僕は、とりあえず3人が食べ終わって落ち着くまで待つことにしました。
で、5分後……
すべて平らげ終わった3人は、空っぽになった丼を見つめながら、どこか放心したような表情をしています。
「……美味しかったです……」
「すごい……」
「ふわぁ……」
3人とも、目がキラキラしている感じですね。
このナカンコンベで以前から食堂を経営していた3人がこの状態なわけです。
このナカンコンベでもウルムナギ弁当はヒットしそうな予感がします。
で、まぁ、その前に、僕は3人にお代わりを作ってあげようかな、と思い、再び厨房へ移動していきました。