魔獣のお肉を仕入れよう その3
今回の魔獣討伐はガタコンベからナカンコンベまでの間と、ちょっと距離があります。
ですので、1日ですべて終わらせることが出来ません、
「とりあえず今日は行けるところまで行ったらスアの転移魔法でガタコンベまで戻ることにしましょう」
僕の提案で、今日はその方向で狩りを行っていくことになりました。
街道といいましても、都市から離れていくにつれて徐々に道幅は狭くなっていきます。
周囲は森の木々に覆われていて見通しも悪いです。
僕がもといた世界では、こんな状態でしたらいつの間にか行政から依頼された伐採業者がやってきて見通しよくなるようにしてくれていたと思います。
こういうところでも、僕が元いた世界がいかにすごいのかっていうことを改めて実感することしきりです。
そんな中、みんなで街道を進んでいるわけですが……確かにこれだけ見通しが悪い中、森の中からいきなり魔獣に襲いかかられてしまいますと、そりゃ危ないと思います。
しかも、魔獣の中にはタテガミライオンのように群れで狩りをする種族もいますしね。
ですが
今日の僕達にはスアがいます。
みんなの先頭を、魔法の絨毯の一番前に座って進んでいるスアは、魔獣が迫ってくると、
「……あっち」
「……今度はこっち」
と、的確に指示をだしてくれます。
で、それを受けると、イエロとセーテンが待ってましたとばかりに、森につっこんでいきます。
一歩遅れてグリアーナが、
「し、師匠、お待ちくだされ!」
イエロ達の後を追いかけています。
最初こそ、こんな感じで一歩出遅れていたグリアーナですが、お昼近くになりますと、イエロ達と並ぶようにして森に突っ込んでいけるようになっていました。
なんのかんのいいましても、グリアーナも鬼人の剣士ですからね。
素質は十分で、今はイエロの指導を受けながら経験を積んでいる……そんな感じでしょうか。
そういえば、去年の夏頃でしたか、辺境都市バトコンベという都市で大武闘大会が開かれていたように思いますけど、イエロ達が参加するようでしたらグリアーナも連れていってあげるような気がしています。
その時は、コンビニおもてなしの屋台もまた出したいなと思ったりしています。
◇◇
木人形のチカランは、イエロ達に比べてかなり足が遅いため、みんなに比べて二歩も三歩も遅れてしまっています。
ですが、その代わりと行ってはなんですが、イエロ達が仕留た魔獣を
「どっこいしょ!ですわん」
と、担ぎ上げて戻って来ています。
ある意味、適材適所な状況が出来ているように思います。
……そんな中ですが……
「……はぁ」
辺境駐屯地部隊のゴルアは、ため息をつき続けています。
それもそうでしょう。
現在お昼前ですが、これまで僕達は13回魔獣に遭遇しています。
その間、辺境駐屯地部隊の皆さんが戦闘に参加出来た回数は1回です。
何しろ、魔獣と遭遇する度に大半の皆さんが回れ右して逃げ出すものですから、ゴルアとメルアはそんな皆を落ち着かせるのに必死で、魔獣退治どころではありません。
1回だけの戦闘にしても、混乱している仲間達を落ち着かせようとしているゴルア達のところに魔獣が突っ込んで来た結果だったりします。
ちなみにその一匹は、ゴルアが一刀両断で仕留めています。
やはりさすがは隊長というところですね。
◇◇
そんな中、僕達は少し開けた場所で昼食を取ることにしました。
「さぁ、皆さんしっかり食べてくださいね」
僕は魔法袋に入れて持ってきていた弁当を皆さんに配っていきました。
一番人数の多い辺境駐屯地部隊の皆さんが僕の前に列を作っておられています。
「なんかすいません……」
「全然役に立ってないのに……」
皆さん、恐縮しきりな様子で弁当を受け取っていかれます。
そんな皆さんに僕は、
「まだ半日ですし」
「午後から頑張ってください」
そんな感じで励ましの言葉をかけています。
ですが……木陰に集まってお弁当を食べている辺境駐屯地部隊の皆さんは一様にズーンと沈んだ感じです。
なんとかしてあげたいのは山々ですが、こればっかりはどうにもなりません。
そして、我が家の方もですね……
「パパ、パラナミオもお役に立ちたいです!」
「リョータもです」
「アルトもですわ」
「ムツキもにゃしぃ」
ここまで戦闘に参加出来ていない子供達が、役に立ちたいと訴えています。
とは言いましても、お口いっぱいに弁当を頬張りながら言っているもんですから、可愛いことこの上ないんですけどね。
ただ、相手は魔獣ですからね……
パラナミオがサラマンダーで、リョータ達が魔法を使えるといっても危ないことには間違いありません。
「いいかいみんな、今日は遊びにきているわけじゃないんだ。気持ちはわかるけど、無理をさせたくはないんだ。わかってくれるかい?」
僕がそんな感じでみんなにお話をしましたところ、
「パパ、わかりました」
と、まずパラナミオが納得してくれまして、それにリョータ達も続いてくれました。
そんな感じでお昼をすませた僕達は再び街道を進んでいきました。
すると、ここでびっくりするような事がおきました。
午前中は常に最後尾を、びくびくしながらついてきていた辺境駐屯地部隊の皆さんが率先して先頭に出向いてこられたんです。
「ど、どうしたんです、皆さん……」
僕も、思わずそんな声をあげてしまいました。
すると、辺境駐屯地部隊の皆さんは、
「て、店長さんの子供さん達まで戦いたいって言われているんです」
「わ、私達がこんなんじゃ……だ、駄目過ぎますもんね……」
皆さん、そんな言葉を返してこられました。
まったく予想外だったのですが、お昼の時のパラナミオ達の言葉が、辺境駐屯地部隊の皆さんの勇気を奮い起こした格好になったようなんです。
その後、辺境駐屯地部隊の皆さんは出くわした魔物にも、率先して突っ込んでいかれました。
最初の頃は、なんといいますか、目をつぶって突っ込んでいる感じだったのですが、徐々に慣れてきたのか、しばらくすると害獣達を仕留める事が出来るようになってきたのです。
ランク的には、Dランクの魔獣ばかりですが、大きな進歩といえるのではないでしょうか。
一生懸命頑張っている辺境駐屯地部隊の皆さんに、パラナミオ達も
「お姉ちゃん達、がんばってください!」
「がんばれー!」
と、声援を送り始めまして、
「うん、頑張るよ!」
「行きます~!」
その声援に後押しされるように、辺境駐屯地部隊の皆さんも頑張ってました。
この変化に、ゴルアとメルア、それにイエロ達も嬉しそうに微笑みながら、あえて隊員の皆さんのフォローに回っていました。
そんな、思いがけない出来事がありながら、夕暮れ時になりました。
「じゃ、今日はここまでにしましょう」
そんな僕の一言で、スアが転移ドアを作成しまして、みんなそれをくぐってガタコンベへと戻っていきました。
「今日はありがとうございました」
ゴルアが嬉しそうな笑顔を浮かべながら僕に右手を差し出してきました。
「お疲れ様でした」
僕はそう言いながらその手を握り返していきました。
そんな僕達の後方では、パラナミオ達が辺境駐屯地部隊の皆さんと握手を交わしまくっていました。
「お姉ちゃん達かっこよかったです!」
「ありがとう、みんなのおかげだよ~」
そんな会話を交わしあっている皆さんを、僕とゴルアとメルア、それにイエロ達は笑顔で見守っていました。
ちなみに……
今回の討伐で仕留めた魔獣のうち、食材として使用出来そうなのは最初に仕留めた半月熊だけでした。
あとは、蜘蛛や甲殻類ばかりで食用に適していない魔獣ばかりだったんです。
ただ、これらの魔獣の殻などは武具に使用出来るそうなので、あとでルアの工房に届けておこうと思います。
◇◇
夕食を終えた僕達は、いつものようにみんなでお風呂に入っていました。
結局、戦闘には一度も参加しなかったパラナミオ達ですが、辺境駐屯地部隊の皆さんを一生懸命応援していましたので、その疲れが出たんでしょうね、湯船につかりながらみんなうつらうつらとしています。
リョータ・アルト・ムツキの3人は、寝落ちしてしまうと赤ちゃん姿になってしまいますので、ちょっと危険です。
僕は、一緒に入っていたスアと2人して、みんなをすぐにお風呂から出していきました。
体を拭いて、寝間着を着せてベッドへと運んでいきます。
すでに完全に寝落ちして、赤ちゃん姿に戻ってしまったリョータ・アルト・ムツキは、スアが魔法で宙に浮かせて移動させています。
パラナミオをお姫様抱っこしている僕は、
「みんなお疲れ様」
みんなに笑顔で声をかけていきました。