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セブの月といえば その2

 ナスア達に色々話を聞いたところ
「……じゃあ、このナカンコンベじゃ魚介類はあんまり食べないんだ」
 って話になりました。
「はい、まったく食べないことはないんですけど、一般的ではないですね……」
 ナスアの言葉にマーリアとライヘも頷いていました。
 
 これには、ナカンコンベの地理的状況が影響しているように思います。
 と、いいますのも、ナカンコンベはこの大陸の中でもかなり内陸に位置しています。
 しかも、近くには大きな河川も湖もありません。
 小川くらいならあるんですけど、魚がたくさんとれるほどじゃないそうなんですよね。
 それでいて、周辺の森の中には食用に適した魔獣がかなり多く生息していますし、それを狩って旅の資金にしようとする冒険者達も多数出入りしていますので、わざわざ魚介類を仕入れなくても困らないという土壌が出来上がっていたわけです。

 この件に関しましては、ドンタコスゥコ商会会長のドンタコスゥコにも話を聞いてみました。
 いえね、まだコンビニおもてなしがナカンコンベに進出していなくて、ガタコンベにまで仕入れにきてくれていた頃のドンタコスゥコ達は、僕達がティーケー海岸から仕入れた魚介類を結構購入してくれていたんです。
 それは今も同じでして、おもてなし商会ナカンコンベ支店を通して相変わらず魚介類を多く仕入れてくれているんですけど、これをこのナカンコンベで販売している様子がまったくないんですよ。
「あぁ、それでしたら簡単ですねぇ。ここナカンコンベよりももっと高値で売ることが出来るバトコンベにまで持って行っているんですよねぇ」
ドンタコスゥコはそう言って笑いました。
「ナカンコンベよりもガタコンベの方が高値で売れるのかい?」
「はい、そうですねぇ。街の規模はほぼ同じですけど、あちらは大きな河川や湖が近くにありまして魚が多く流通していますでねぇ、海の魚介類も受け入れられやすいんですよねぇ」
 ドンタコスゥコにそう言われて、僕は思い当たる節がありました。
 このナカンコンベで本格的に弁当販売を始める際にですね、このナカンコンベで長く食堂をやっていたナスア達に、その当時コンビニおもてなしで販売していた全お弁当を診てもらって、どれを販売したらいいかの意見を聞いたことがあったんですけど、その際にことごとく魚系のお弁当をよりわけていたんです。
 その時のナスアの説明では、確か
「ナカンコンベは動物のお肉の方がいいと思います」
 って言われたはずなんですけど、その言葉にはこういった事情が隠されていたってことなんでしょうね。

 さてさて、となるとこのナカンコンベで魚を売るのはどうなんだろう……
 僕は少し考えました。

 確かに、魚を食べる習慣がない地域で魚を使ったお弁当を販売するのはちょっと冒険かな、と思わないでもありません。
 ですが……さきほどのナスア達の食べっぷりをみるにつけ、うまく食べてもらえれば、それなりに需要を掘り起こせるんじゃないかって思えなくもないわけです。

 そこで、僕はウルムナギ弁当を販売するに際しまして3つの作戦を考えました。

 ます1つ目は、宣伝です。
 まぁ、これはいつもよくやっているあれです。ポスターとチラシです。
 今回は、魔導船の椅子に座ってパラナミオ・リョータ・アルト・ムツキの4人と、イエロ・セーテンの6人が楽しそうな笑顔でウルムナギ弁当を食べている様子をポスターにした次第です。
 例によって、デジカメで撮影したデータをパソコンで印刷して、その印刷した紙を魔女魔法出版で大量印刷してもらいました。
 全支店で同時大量発売開始しますので、ポスターもチラシも全支店に配布します。
 で、ナカンコンベの5号店では、お店の入り口やお弁当コーナーにチラシやポスターを貼りまして、宣伝に努めます。
 こういった戦略はありきたりですけど、やっぱり効果は大きいんですよね。

 2つ目は、ウルムナギ弁当だけじゃない作戦です。
 ウルムナギ弁当は、ウルムナギを蒲焼きにするわけですが、同時に、タテガミライオンの蒲焼き弁当と、デラマウントボアの蒲焼き弁当も同時に発売することにしました。
 ウルムナギ弁当の名称も、5号店では「ウルムナギの蒲焼き弁当」としまして、他の2種類の弁当と統一感を持たせてみた次第です。
 販売開始からしばらくは

 ウルムナギとタテガミライオンの蒲焼き弁当
 ウルムナギとデラマウントボアの蒲焼き弁当

 といった感じで弁当の中を半分ずつに区切ったお弁当も販売する予定にしています。

 これで、ウルムナギ弁当を始めて食べる人が
「あぁ、タテガミライオンやデラマウントボアに味が似ているのか、なら旨そうだな」
 そう思ってくれることを期待しているわけです。

 そして3つ目は、試食です
「はいはいはい! 試食と言えばこの私、ルービアスの出番ですね!」
 と、まぁ、いつものように試食販売になると当社費1.6倍は元気になるルービアスが、前日にも関わらず早くも『本日の主役』たすきを肩掛けして気合い満々な様子です。
 まず試食で味を知ってもらって、その上で本体の購入につなげる作戦は、以前から何度もやっていますし、輝かしい成果を上げ続けています。
 そのほとんどすべてで試食配布係を担当しているのがルービアスですからね。
 僕もとても期待しているわけです。

 ……しかし

 今回販売するのは、ウルムナギ弁当です。
 で……ルービアスはウルムナギ又と言って、ウルムナギが長年生き続けた結果、人に変化することが出来るようになったという、いわばウルムナギの亜種なんです。
 そんな、自分の仲間を販売するような行為をしてもらってもいいのかなぁ……と思わなくもないわけなんですが……
「いえいえいえ、私のようなウルムナギ又になれる種族は生まれた時から決まっておりますのです。コンビニおもてなしで使用されています養殖のウルムナギは、たとえ100年生きたとしても、ウルムナギ又にはなれない種族なのです。まったく別物ですので、全然気にしていただく必要はないのです、はい」
 そう言って胸を張ってくれましたので、まぁ、いいのかな?……う~ん……

 ちなみに、このルービアス以外にもウルムナギ又の方々をコンビニおもてなしでは保護させていただいておりまして、皆さんスアの使い魔の森でウルムナギ養殖の手伝いをしてくださっています。
 残念ながらルービアスのように人型に変化出来るまで進化出来たウルムナギ又の方はまだいないんですけど、ウルムナギとウルムナギ又の区別はすぐつきます。
 ウルムナギ又の皆さんは、見た目はウルムナギですけど、人の言葉が話せますので、
「おいおい、俺はウルムナギじゃないよ、ウルムナギ又の**だって」
 って自己主張してくれますので、間違いようがないわけです、はい。
 時折、輪になって、
「早く人型になりた~い!」
 って叫んでいる姿を見かけることがあるんですけど……なんかこの台詞、どっかで聞いたことがあるような、ないような……

◇◇

 そんなわけで、さぁセブの月になりました。

 今日からコンビニおもてなし全店でウルムナギ弁当フェアが始まります。
 本店から四号店では、数量は少ないですけど、毎日販売していましたので、その販売数を増やすわけです。
 5号店では、今日から始めてウルムナギ弁当を販売するわけです。
 ちなみに、定期魔道船の中にあるコンビニおもてなし出張所でも始めてウルムナギ弁当を販売いたします。

 さてさて、どうなっていきますやら。
『本日の主役』のたすきをかけて入念にアキレス腱を伸ばしているルービアスを見つめながら、僕は
「さぁ、今日も営業を始めようか」
 みんなにそう声をかけながら、お店のドアを開けていきました。

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