第0話 プロローグ:幸せを掴むまでの物語
「こいつらが討伐依頼にあったドラゴンたちか...」
目の前に立ち塞がる総勢10体のドラゴンたち。
その一体一体から膨大な量の魔力を感じることが出来る。
おそらく1体でもAランク冒険者のパーティが相手してやっと勝てるかどうかぐらいの強さだろう。
それが10体も集団でいるのだから誰も対処できないというのは納得できる。
「そこの人族、何用だ?我らの前に立つというのがどういう意味か分かっているのか?」
先頭にいた一体のドラゴンが話しかけてくる。
他のドラゴンたちは俺に聞こえるぐらいの声で完全に馬鹿にしたような発言をしている。
「おい、馬鹿な人族がやってきたぞ~!」
「わざわざ俺たちに喰われに来たのか???」
呆れているものや俺を見て爆笑しているもの、反応は様々だったがどいつも完全に俺を見下している。
まあドラゴンたち龍族は人族とは比べ物にならないくらい基礎ステータスが高い。それにプライドも非常に高い種族であるのでこうやって他種族を見下すものも多いと聞く。もちろん例外もいるが。
「俺は冒険者ギルドからお前たちの討伐を依頼された者だ」
俺がここに来た理由を話すと、ドラゴンたちはしばらくキョトンとした顔でこちらを見ていた。その次の瞬間、一斉に大声で笑いだした。笑いすぎて口から炎を噴き出しているものさえいた。
「我々を討伐するだ~?おい聞いたか、こいつ我らを倒すんだとよ~!!」
「フハハハハハ!!久しぶりにこんな面白い話を聞いたわ。お主、我ら龍族を笑わせる才能があるぞ!」
...こいつらと話すのかなり面倒になってきたんだけど。
さっさと終わらせて帰りたい。
「...一応聞くが、お前たち周辺の集落を襲うのをやめる気はないか?」
意思疎通出来るなら一回は言葉で交渉する。
これは出来る限り無駄な殺生をしたくないという俺なりの決め事である。
「グハハハハッ!!何故我らが下等種族である人族の頼みを聞かねばならんのだ?」
「ここは我らの領域ぞ!我らが何をしようと我らの勝手であろう!!」
そうだそうだ!と他のドラゴンたちも炎を吐き散らしてこれでもかとドラゴンの威厳を見せつける。これは交渉決裂ということでいいだろう。それでは遠慮はいらないな。
「そうか、それは残念だ」
俺はそう言いながらおもむろに背中に背負っている鞘から剣を抜く。戦闘態勢に入った俺の姿を見てもドラゴンたちは顔色一つ変えずに笑みを浮かべている。
「愚かな冒険者よ、せめて痛みも感じることなく一瞬で灰にしてやろう!!」
この期に及んでも俺を格下と侮っているとは。
まあ、こちらとしては簡単に片付くから楽でいいけれど。
俺は剣を構えることなく地面を思いっきり蹴り出す。
ドラゴンたちでさえ認識できないスピードで先頭にいたドラゴンの喉元へと移動する。
「なっ...!」
俺が移動したことに何とか気が付いたらしいが、もう遅い。
右手に構えた剣を音速を超えた速さで水平に振り抜く。
俺が着地した直後、一体のドラゴンの頭が血しぶきをあげて地面へと転がり落ちる。声を上げることもなく首を斬られたドラゴンは一撃で絶命へと至った。
物理攻撃にも魔法攻撃にも絶大な耐性を誇るとされるご自慢の鱗も意味を成すこともなく、まるで豆腐でも切ったかのような綺麗な断面で斬られている。
これで残るは9体だ。
一連の事態を見ていた他のドラゴンたちは目の前で起きたことが理解できずにフリーズしていた。先ほどまで下等生物だと見下していたやつに同胞が一瞬で殺されてしまったのだから当然の反応だろう。何とか状況が飲み込めた一体のドラゴンが怒りをあらわにして声を荒げる。
「き、き、貴様ァ!!!よくも、よくも同胞を!!!!!」
その怒声で他のドラゴンたちもようやく状況を飲み込めたのか、全員の巨体から発せられる魔力量が爆発的に増加する、仲間をやられた怒りによってようやく本気で俺を敵と認識したようだ。
残る9体のドラゴンたちは一斉に戦闘態勢へと入り、攻撃を仕掛けてきた。
しかし、超高温のブレスだろうが鋭い爪による攻撃だろうが俺にダメージを与えることは出来なかった。それどころか俺の周囲に展開された魔法障壁すら破壊するまでにも至らなかったのである。そんな状況を見た彼らは焦りの色を顔に浮かべる。
「なぜだ...!?なぜ人族の分際でこれほどの力を...!!!」
今更になってようやく実力の差を理解したようだ。
最初からしっかり相手のことを観察しておけばこうはならなかっただろうに。
「お前たちは傲慢が過ぎた。この世界にはな、上には上がいるんだよ」
俺はそう言い放つと再び地面を強く蹴りだし、残り9体のドラゴンの首をものの一瞬で斬り飛ばす。こうして10体のドラゴンの討伐依頼は3分にも満たない短時間で完了した。
「ふぅ...、さて素材を回収してとっとと帰るとしますか」
正直、討伐よりも素材回収の方が面倒だと思いながらもドラゴンの素材は貴重であるため慎重にそれらをインベントリ内に収納する。回収を終え、すぐさま俺は依頼報告のためにギルドへと戻る。
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「ただいま~」
ギルドで報告を済ませ、すぐに大切な人たちが待つ家へと帰ってきた。のどかな平原にポツンと建つ俺たちのマイホーム。俺にとっては幸せの象徴でもある。
「おかえりなさい!」
そういって笑顔で出迎えてくれる彼女たち。
ああ、俺は前世で得られなかった『幸せ』というものを手に入れたんだと実感する。
前世で苦しみ、この世界でここまで頑張ってきた甲斐があったと心の底から思う。
「ユウトさん、どうしたんですか?」
「いや、何か幸せだな~と思って」
「フフッ、もちろん私たちも幸せですよ!」
そういうと俺の腕へと飛びついてくる。
以前の俺からは想像もつかないような光景...
この世界へと転生してくれた女神様には心の底から感謝しないとな。
「今まで本当に大変だったけど、こうして振り返ってみればいい思い出かもな」
「ユウトさんは本当にいろんなことに巻き込まれてきましたからね」
「最終的にユウトさんは世界の命運を賭けた大戦にまで巻き込まれちゃいましたからね。本当にあの時はどうなるかと思いましたよ」
「そうだな...、大変なことばかりだったけれど全てが嫌なことばかりじゃなかったな。その一つとして今こうやって幸せに暮らしているわけだし」
今の暮らしがあるのはもしかしたら前世も含めて今まで苦労してきたご褒美なのかもしれない。それをいうと女神様からもらったチートスキルやチート称号がご褒美だったのだろうけれど。結果的にはそれらのおかげで今があるのだから、全てがご褒美だろうな。
「そうだ!よかったらユウトさんの今までの冒険を語ってくれませんか?」
「私もちゃんと聞いたことはなかったので改めて聞いてみたいです!!」
「そうだな、改めて振り返ってみるのもいいかもしれないな」
やった~!と無邪気に喜ぶ彼女たち。
俺たちはゆっくりと落ち着いて話せるようにテラスへと向かう。
「そうだな、どこから話そうかな」
「やっぱりユウトさんがこの世界にやってくるところからじゃないですか?」
「そういえば、この世界へ来た時のお話って詳しく聞いたことないかも...」
「うっ、そこから話すの?!....まあいいか」
そういうと俺は目の前のテーブルに置かれたコーヒーを一口頂く。
俺自身も転生時のことを思い出すのは久しぶりかもしれない。
「これから俺が話すのは、言うなれば俺が...
『幸せを掴むまでの物語』、かな。」