26章 新しい仕事(水中探索)
アカネはゆっくりと横になっていると、ドアをノックされる音がした。
「マツリさん、どうかしましたか」
アカネにとっては悪魔の種といえる存在がやってきた。彼女がやってくる=仕事を押し付けられて、スローライフ崩壊になる。
仕事の依頼ではないことを祈ったものの、そういう展開にはならなかった。
「アカネさんに次の仕事の依頼です。今回も一人でおこなっていただくことになります」
仕事をもらえるのはありがたいけど、少しくらいはゆったりとしたセカンドライフを満喫したい。次から次に依頼されては、のんびりとするのは難しくなる。
「今回はどんな依頼ですか」
仕事を受ける前に、依頼内容を知っておきたい。簡単に返事をしてしまうと、後戻りはできなくなってしまう。事後承諾はビジネス界の常識である。
「水の中をくまなく詮索して、セカンドライフの街の生態調査を行っていただきたいです」
人間は基本的に水の中を潜れないので、第三者が仕事をするのは不可能だ。アカネ専用の依頼内容といえる。
「アカネさんは空気を吸わなくても生きられるスキルを所持しています。私は信じられないですけど、実際にそうなのでしょう」
「セカンドライフの街」にやってきてから、息苦しいと思ったことは一度もなかった。発動しているかはわからないものの、スキルによるものだと考えるのが自然だ。
「成果報酬は最大で500億ゴールドとなっています。やっていただけませんか」
大金をもらえるのはいいけど、メンタルの負担の軽い仕事をしたい。身体は大丈夫だったとしても、心を病んでしまっては元も子もない。
「仕事の納期はいつですか?」
「依頼主の式典が二ヵ月後に迫っています。それまでに仕事を終了させてください」
納期が二ヵ月もあるなら、問題なくできそうだ。アカネは仕事の依頼を引き受けることにした。
「わかりました。仕事を引き受けます」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
マツリは手提げかばんの中から、よくわからない機械を取り出す。
「これはなんですか?」
「生物を納める道具です」
機械の厚さは6ミリほどしかなかった。これでどうやって、写真を撮るのだろうか。
「右上にボタンがあります。これを押すと、写真を納めることができます。枚数については最大で、5万枚までとれます。防水体制もあるので、水の中で使用できます」
薄っぺらい機会なのに、性能は抜群だ。自分用として、一台ほしくなってしまった。
「試しに一枚とっていただけますか」
機械のボタンを押すと、わずかながらに光っていた。
「キャンキャッチは問題なさそうです」
機械の正式名称は「キャンキャッチ」なのか。日本語にすると、とることができるという意味になる。
仕事に気持ちを切り替えようとしていると、マツリから声をかけられた。
「アカネさんにはいろいろとやっていただきたいことがあるんです。裏世界の生態調査、サンゾ
層の調査、安全パトロール、インタビューといった依頼がなされています。ざっと見ただけで、
1000件くらいありますね」
前回は300件くらいだったと記憶している。わずか数日の間に、700軒も仕事が増えたことになる。
仕事はこれからも増え続けていくのは確実。アカネの夢見ていたスローライフは、完全に崩れ去ることとなった。
「アカネさん、パソコンには空を飛べると書かれていました。自身の力を使用して、仕事場まで飛んでいってください」
「そうなんですか。その能力はしらないです」
「パソコンには嘘は書かれていません。正真正銘、空を飛ぶことができます」
魔法を使えるだけでなく、空を飛べるようになっているのか。メイホウは転生させる前に、ありとあらゆる能力を付与したようだ。
空を飛べるスキルを持つものの、どのようにすれば飛べるのかはわからない。ここを解決しないことには、仕事場にたどり着くのは無理だ。
どうしたら空を飛べるのかを考えていると、宙に体が浮いている感覚があった。念力を唱えるだけで、空を飛ぶことができるようだ。
「空を飛んでいる人間は初めて見ました」
人間は空を飛ぶ生き物ではない。アカネが空を飛んでいることは、本来ならおかしいことなのである。
「アカネさん、仕事をおねがいします」
空を飛べたことに感動してしまい、仕事のことを忘れてしまっていた。アカネは水中探索の仕事をする必要がある。