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魔法使い達の… その3

 ……と、いうわけで、魔法使い集落の皆さんの婚活に向けてのはじめの一歩的な活動が始まりました。

 その一環で、コンビニおもてなしの各支店に魔法使いのみなさん2人ずつをバイトとして配置させていただきました。

 キュアキュア5シアターは、この話を持って行った際に魔女魔法出版のダンダリンダが
「いくらでも人手が欲しいですわ」
 と、言ってくれましたので、10人一度にバイトとして入ってもらうことにしています。
 基本的には、お客さんの誘導業務をしてもらうそうですが、時にはアトラクションに参加してもらうこともあるかも、とダンダリンダが言っていました。
 まぁ、そこは本人達とよく相談した上でお願いしますね、と一応念押しをしておきました。

 テトテ集落も、長のネンドロさんが
「えぇ、若い方でしたら大歓迎ですニャあ。集落が賑わいますニャあ」
 と言ってくださったものですから、こちらも10人一度に受け入れてもらうことにしました。 
 こちらでは、主に農作業や衣服作成業務を手伝ってもらって、その作業を行いながら人とのコミュニケーションを取る練習をおこなっていく段取りになっています。

 で、キョルンさんとミュカンさん主導で行われます社交界のパーティ参加ですが
「では、今夜コンビニおもてなし本店に集合でよろしいですわ。転移ドアを使わせてくださいね」
 そうキョルンさんに言われていますので、参加希望の3人にはパーティ用の衣服を着てガタコンベのコンビニおもてなし本店に集合してもらうようにお願いしておきました。

◇◇

 僕が店長を務めていますコンビニおもてなし5号店にも、その流れで2人の魔法使いがやってきました。
「……あ、あの……ジュピ……で、です……」
「……そ、その……サータ……で、です……」
 2人は店にくるなり棚の影に隠れた状態で自己紹介をしまして……しかも、2人が手をかけている棚が倒れるんじゃないかってくらい派手に震えていました。
 ルービアスが、緊張をほぐそうとして
「私、ルービアスと申します。仲良くしてくださ……」
 満面の笑顔で自己紹介しながら2人に歩み寄っていったのですが、
「「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」」
 2人は悲鳴と同時にすさまじい勢いで後退していきまして、そのまま店の奥にあるお客様用トイレの中に入ったかと思うと籠城を始めてしまいまして……
 唖然としたまま固まっているルービアスと、天岩戸と化してしまったトイレの扉を交互に見つめながら、僕は、
「……こりゃ、骨が折れそうだ……」
 と、言いながら苦笑するしかありませんでした。

 で

 嫌な予感がして他の店にも通信魔石で状況を確認してみたのですが

本店店長代行:ブリリアン
「魔法使い集落の2人ですか? 今トイレに籠もっているところを引きずり出そうとしてます」

2号店店長:シルメール
「魔法使い集落の2人っすか? ちょっとさっきからトイレに籠もってまして……」

3号店店長:エレ
「魔法使い集落の2人でございますか? 先ほどトイレに籠もられましたのでただいまより強制的に出て来ていただくところでございます」

4号店店長:クローコ
「店長ちゃん、マジやばいってあの2人。トイレにチェックインしたままエンドレスステイ中みたいな?」

 通信魔石から帰ってきた返事を確認しながら、僕は大きなため息をつくことしか出来ませんでした。

◇◇

 とにもかくにも、これでは婚活どころではありません。
 普通に人と接することが出来ないわけですからね。

 ……とはいいましても、この皆さんは、勇気を振り絞ってこの規格に応募してこられたわけですし、その勇気を無碍には出来ないな、とも思うわけです。

 そこで僕はスアに相談しました。
「スア……以前さ、テトテ集落に行ってた時にスアが自分にかけてた自己暗示魔法、あれをみんなにかけてあげることは出来ないかな?」

 いえね……
 スアも、今僕が苦労している魔法使いの皆さんばりにひどい対人恐怖症を患っていた時期があるんです。
 スアは、その克服のために
『私は対人恐怖症じゃない』
 という暗示魔法を自分にかけてどうにか凌いでいたんです。
 スアは、その魔法を使用した状態でテトテ集落の皆さんと接している間に、徐々に症状が緩和していっている最中なんですよね。
 なので、今の魔法使いの皆さんにもとりあえずこの魔法を使ってみてはどうだろうと思ったわけです。

 僕の話を聞いたスアは、少し考えを巡らせた後に、いくつかの魔石を取り出しました。
 で、その魔石に向かって水晶樹の杖を向けながら詠唱をおこなっていきまして……その後、その魔石を台座にはめ込みました。
「……自己暗示魔法の魔石の指輪、よ」
 その指輪を手に取りながら、スアはそう言いました。

 スアによりますと、この魔石には例の自己暗示魔法が封じ込めてあるそうで、これを指にはめると同時に魔法が有効化し、
『私は対人恐怖症じゃない』
 との自己暗示魔法が、指輪を装着した人物にかかるんだそうです。

 僕は、その指輪を早速各支店の店長に配布しました。
 もちろん、僕もそれを2つ持って5号店へ戻りました。

 で、必死に説得して、トイレからかろうじて顔を半分だけ覗けてくれた2人に対しまして
「この指輪はスアが君達のために作ってくれた魔石の指輪でね、これをはめている間は対人恐怖症の症状が緩和されるんだ」
 そう説明していきました。
 すると「スア」が「君達のために」の部分に反応したらしい2人は、おずおずとトイレの隙間から左手を差し出してきまして、
「……あ、あの……店長さんがつけてください……」
 そう言いました。
 で、僕はそんな2人の左手の中指にそれをはめていきました。
 すると……
「……わぁ」
「……ほんとだ……なんともない」
 そう言いながらトイレからやっと出て来た2人は、僕の後方で事の次第を見守っていた店員達に向かって
「あ、改めまして」
「し、しばらくの間、よろしくお願いします」
 そう言いながら頭をさげてくれました。

 これで、ようやく接客作業を行える目処が立ったのに加えて、お客様用のトイレが使用可能になったわけです、はい。

 ……ちなみに、他の店の魔法使いの皆さんも、
「あの……で、出来たら店長さんにつけてほしい、です……」
 と、申し出てこられたもんですから、僕は全支店を駆け巡る羽目になりました。

◇◇

 コンビニおもてなしのバイトに入った魔法使いの皆さんは、こうしてどうにかバイト作業をこなすことが出来るようになりました。
 初日ですし、まだ慣れていない部分も多々ありましたけど、全員概ね及第点を差し上げてもいい出来だったようです。

 そしてその夜です。
 キョルンさんさんとミュカンさん主導での社交界のパーティへ参加する3人を本店で出迎えた僕なのですが……僕の前に姿を現した3人は……どう見てもいつもと同じ魔法使いの服ととんがり帽子にしか見えない服装で現れました。
「いや……あの、パーティ用の格好で来てくださいね、って言いましたよね、僕?」
 そう言う僕に、3人は
「ですから……おろしたての服を着てきました……」
 と、言いまして……

 どうも3人は、パーティに参加する衣装がどんなものかわかっていないようですね。

 そこで僕は、胸元が切れ込み、背中がバイーンとあいている、キラキラ光り輝いている衣装で現れたキョルンさんとミュカンさんにお願いして、3人にパーティ用の衣装を貸してもらうことにしました。

 で、待つこと30分

 キョルンさんとミュカンさんに連れてこられた3人は見違えていました。
 えぇ……キョルンさんとミュカンさんが着ている物と同じ、前面が胸元からおへそのあたりまで切れ込んでいて、背中も大胆にあいている衣装を身にまとっていました。
「は、は、は、恥ずかしい……」
「し、し、し、死んじゃう……」
 3人は顔を真っ赤にしながら露出している部分を覆っていたのですが、
「はい、背中はビシッと、手は腰に、下を向かない」
 と、キョルンさんとミュカンさんによる指導を受けながら、そのまま転移ドアの向こうへと消えていきました。
「……3人、大丈夫かな……」
 その後ろ姿を見送りながら、僕は苦笑することしか出来ませんでした。

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