魔法使い達の… その2
魔法使いの皆さんには一度お帰り願いまして、ガタコンベにある自宅へ戻った僕はこのことをスアに相談してみました。
……いえね
確かにスアに相談するのもどうか、とは思ったんですよ。
何しろ、僕と出会うまで彼氏いない歴年齢と同じだったスアですからね。
ただ、魔法使いの恋愛となると、僕達のような一般的な人と同じに考えていいのかどうかちょっと判断出来かねる部分もあったもんですから、
……と思って聞いてみたものの……
「……と、いうわけで、今日魔法使い集落の人が来てさ、どうやったら素敵な旦那様を見つけることが出来るのかって相談をされちゃったんだけど……」
と、僕が一通り事情を説明し終えると、スアはおもむろに僕の横に歩み寄ってきてですね、
「……私のだから」
「はい?」
「……誰にもあげないから」
スアはそう言いながら僕の腕にしっかりと抱きつきました。
心なしか目がうるうるしているように見えなくもありません。
僕は慌てて
「いや、僕はスアの旦那様だから。そもそもこの話は僕を旦那さんにって話じゃないし」
そうスアに伝えました。
それでもしばらく頬を膨らませていたスアですが、僕がキスをすると、
「……なら、いい」
スアは、ようやく心から安堵した表情をその顔に浮かべながら僕に改めて抱きついてきまして、そのまま動かなくなってしまいました。
◇◇
結局、スアから有益な情報は何一つ提供してもらうことは出来ませんでした。
何しろ、僕に抱きついて落ち着いた後は
「……運命の出会いを待てばいい、の」
と、幸せそうな笑顔で言うばかりでしたので……
と、言うわけで……
次に僕は、コンビニおもてなしの中で、そういった色濃い沙汰に強そうなメンバーを集めてみまして、その皆さんから情報を提供して頂こうと考えました。
この日の仕事後、5号店の応接室に集まっていただいたのは、
魔王ビナスさんー本店バイト店員
……元魔王の奥さんで、現在元勇者の内縁の奥さん
クマンコさんー4号店店員
……大勢の子供達のシングルマザー
キョルンさんとミュカンさんー本店のバイト……じゃなくて、ゴージャスサポートメンバー
……自称恋多き乙女姉妹
ペリクドさんーナカンコンベ:ペリクドガラス工房の親方
……妻帯者で子供さん有り
以上の5名になります。
一応、結婚しているルア工房のルアにも声をかけたのですが
「ぶ、ぶぁか言ってんじゃねぇってば。あ、あ、あ、アタシだってな、自慢じゃねぇけど、旦那と出会うまで彼氏いない歴年齢と同じだったんだぞ、馬鹿にすんな」
と、テンパりまくってよくわからないお断りの仕方をされた次第です。
「……と、いうわけで、魔法使い集落の皆さんが素敵な旦那様を娶るにはどうしたらいいか、経験者の皆様から参考意見をうかがえたらと思いまして……」
僕がそう言うと、ペリクドさんがまず手を上げられました。
「あ~、そういう話だと、俺ぁ無理だわ。かみさんとは昔っからの腐れ縁でさぁ」
そう言いながら、照れくさそうに頬をポリポリとかきながら退室なさろうとされました。
すると
それを聞いた魔王ビナスさんとクマンコさんが、いきなりペリクドさんの左右に座り、立ち上がろうとなさっていたペリクドさんを押さえつけました。
「あらあらあら、とても素敵なお話ではありあせんか」
「こンれはぁ、ぜひとも詳しいことをお聞きスないとぉ、ねぇ」
そう言い、ペリクドさんに向かって満面の笑みを向けていく魔王ビナスさんとクマンコさん。
「え? あ、あれ? い、言わなきゃならねぇの?……いや……」
2人に取り囲まれたペリクドさんは、脂汗をダラダラ流しながら、その2人を交互に見つめていました。
……まさか、魔王ビナスさんと、クマンコさんが、ここまでこの手の話にくいつかれるとは思いもしませんでした。
「あら、何をおっしゃるのですか、店長さん」
「そうダス。女はいつまでたっても、こういう話は大好きなんダス」
僕に向かって大きく頷くと、2人はすぐにその顔をペリクドさんへ戻していきまして、
「さ、では続きを……」
「よンろしくお願いスまスぅ」
満面の笑顔を向けています。
そんな2人を、ペリクドさんは引きつった笑顔で見つめながら、しどろもどろになりつつも、お話を続けておられました。
……と、まぁ、いきなり3人が戦力外になってしまい、ため息をついた僕なのですが、そんな僕に向かってキョルンさんとミュカンさんが優雅に挙手なさいました。
「店長さん、よろしいですか?」
「あ、はい」
「私、そのお話をお聞きして思いまするに、魔法使い集落の皆様はもっと積極的に外へ出るべきだと思うのですわ。ね、ミュカンさん、あなたもそう思うでしょ?」
「えぇ、キョルンお姉様。私もそう思いますわ」
そう言って、頷き合うお2人。
「外に……ねぇ。確かに、一理あるかもしれないですね。そもそもあの集落の皆さんは定期魔道船が就航したっていうのに、外へ出向くことに全然興味を示されていないしね」
「そこで、私考えましたの。私達と一緒に、魔法使い集落の皆さんを社交界にデビューさせてはいかがかと……」
「は?」
その言葉に、僕は目が点になるのを感じていました。
……そういえば、キョルンさんとミュカンさんって、オルモーリの叔母ちゃまの知り合いなんですよね。
そのオルモーリの叔母ちゃまって、王都の社交界に顔が利くすごい人らしいですし、その友人ともなると、やはりそれなりにすごいんだろうな、と、思うわけです。
……とはいえ、超ご高齢なオルモーリの叔母ちゃまのお知り合いというか、長年のお友達のお2人……いったい実年齢はいくつなんでしょうね……
と、余計なことはおいておいて……
社交界はともかく、魔法使い集落の皆さんに魔法使い集落の外に出ることをお勧めしてみるのはいいことかもしれません。
僕は、とりあえずその方向で何か考えてみることにしました。
……そんな感じで話し合いがまとまったわけですが、そんな僕の斜め前では、
「それでそれで? 告白はどちらから?」
「どんなスツエーションだったんダス?」
「も、もう勘弁してくれ、恥ずかし過ぎるぜ」
ペリクドさんがいまだに魔王ビナスさんとクマンコさんに囲まれて根掘り葉掘り奥さんとの馴れ初めについて聞き出され続けていました。
……ペリクドさん、なんかお呼びだてしちゃってすいませんでした。
◇◇
一晩考えた後、僕は改めて魔法使い集落を代表してやってきた、あの3人の魔法使いの皆さんとお会いいたしました。
5号店の応接室で3人とお話をしていったのですが……
「……と、いうわけで、魔法使い集落の皆さんに、魔法使い集落を少し出てみることをお勧めさせていただきます」
僕はそう切り出しました。
それを聞いた3人は、困惑した表情を浮かべながら顔を見合わせておられます。
「た、確かにそうですけど……」
「そ、それがそう簡単に出来ないから困っているわけで……」
まぁ、そう言われるのは、ある意味想定内です。
魔法使いの皆さんって、魔法や魔法薬、魔石の研究に何年も何十年も兵器で没頭してしまうんですよね。その間の身の回りの世話をさせるために使い魔と契約していて、自分はずっと研究室にこもりきりの生活を送っていくんです。
その結果、気がついたら出不精で対人恐怖症な……そんな魔法使いさんが培養されてしまっていくわけです、はい。
で、そんな皆さんに、僕はいくつかの案を提示しました。
・コンビニおもてなしでバイトをしてみる
・魔法使い戦隊キュアキュア5シアターでバイトしてみる
・テトテ集落で農業体験をしてみる
・社交界をちょっと覗いてみる
コンビニおもてなしと、キュアキュア5シアターの案は、単純に多くの人と接してみてはいかがでしょう的な意味合いでの提案です。
テトテ集落の案は、テトテ集落はお年寄りが多いですから、皆さん気さくな方ばかりですので事情を話しておけば魔法使いの皆さんに積極的に話しかけてくださると思うんです。だから、魔法使いの皆さんも何かと話しやすいじゃないかな、と思いまして……要は異性とお話する練習的な意味合いでの提案です。
社交界というのは、もちろんキョルンさんとミュカンさんと一緒にってことですけど、まぁこれはあくまでもそういう案もありますよ、的な提案です、はい。
3人は、僕が提案とその意図を説明すると、
「なるほど……これならみんなもやってみようと思うかも」
「まずは第一歩ってことですね」
と、まぁ、概ね前向きに捕らえてくれたようでした。
とりあえず3人は、この案を魔法使い集落に持ち帰ってみんなで相談してくると言って、この日は帰っていきました。
◇◇
数日後。
3人が再び5号店を尋ねてきました。
「結構、賛同してくれる人がいました」
3人はそう言って嬉しそうに笑っていました。
で、3人は、参加希望のアンケートも取ってきていたのですが、コンビニおもてなし・キュアキュア5シアター・テトテ集落の3案件にはそれぞれ10人ずつの希望者がありました。
びっくりしたのが、社交界案件にも3人の希望者がいたことですね。
とりあえず僕は、魔法使い集落の皆さんの希望に沿って、調整作業を行うことにしました。