24章 望まぬ仕事
「アカネさんの回復魔法を一度でいいから目撃しよう」
仕事を押し付けられたからか、モチベーションは著しく低かった。できることなら、仕事を放棄してしまいたい。
回復魔法を目に焼き付けるためなのか、大勢の人数が集まっていた。ざっくばらんに数えて、一万は超えていると思われる。
アカネのところに、仕事を依頼した疫病神がやってきた。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
一〇人くらいなら、三〇分もあれば終わる。回復魔法を必要とする人数が、少ないことを切に祈る。
「アカネさんが病気で悩んでいる人たちに、回復魔法をかけてくれます。危篤だった宿屋の娘が、完全に回復するほどの効果があります」
宿屋の娘が足を運んでいた。植物状態の面影は一ミリもなく、ごくごく普通に生活している女の子だった。魔法の効果は圧倒的レベルに達している。
一人目は全身に包帯を巻いている、六〇代の初老の男。見た目だけなら、化け物以外の何物でもなかった。仕事の依頼でなければ、近づくことはない。
とっととイベントを終わらせて、自宅で休みたいところ。アカネは初老の男に、回復魔法をかけることにした。
魔法の威力は絶大で、三秒としないうちに効果が現れる。身体にまかれている包帯は、役目を終えたかのようにはがれていった。
初老の男性は身体を動かす。回復魔法をかけたからか、20代を思わせるような機敏な動きをしている。怪我を治療するだけでなく、体内の細胞を活性化する効果もあるのかな。
「アカネ様、ありがとうございます」
初老の男は満足げな顔をして、会場からいなくなった。自分の病気さえ治れば、他人はどうでもいいようだ。
全身包帯男がピンピンとしていることで、会場からは大きなどよめきがあがることとなった。回復魔法の治癒力に驚いているようだ。
二人目の登場者は全身に火傷を負った女性。セカンドライフの街に医者が駐在していたとしても、治療するのは難しそうだ。
アカネはこちらにも回復魔法をかける。業火に焼かれた身体は、みるみるうちに白くなっていく。回復魔法には火傷を治癒する効果もあるようだ。
「回復魔法は終了です」
「傷を治していただき、ありがとうございます。心より感謝します」
三人目は右目を失った20代の女性だった。現代医療では到底立ち向かうことのできない難病であり、魔法以外で治療するのは不可能だ。
回復魔法を使用したあと、女性が右目を開ける。
「アカネ様のおかげで、右目が見えるようになりました。ありがとうございます」
アカネはこのときに、回復魔法の偉大さを知ることとなった。失った片目を元通りにできるとは思わなかった。
四人目は片足を失った男性だった。
「アカネ様、よろしくお願いいたします」
アカネはダメもとで、回復魔法をかける。失われたはずの足がぐんぐんと伸びていき、数十秒
後には元通りとなった。回復魔法には人間の機能を回復させる効果もあるようだ。
回復魔法で足が戻ったことに対して、会場からはさらなるどよめきが上がっていた。ここまでの効果があるとは思っていなかったようだ。
足を取り戻した男性は、二本足で歩行できることに大いなる喜びを感じているようだった。アカネにとっては当たり前だったので、二本足移動に幸せを感じられる男の人が異次元に映った。
5人目は髪の毛がまったくない男性だった。
「アカネ様、頭髪を元通りにしてください」
ハゲは病気ではないのではなかろうか。個人的な欲望だけで、参加しないでほしい。
アカネはツルピカの男性に、回復魔法を使用する。数分ほどで、失われた髪の毛が生えてきた。頭髪を元通りにする効果もあるようだ。
「アカネ様、ありがとうございます」
回復魔法は莫大なエネルギーを使用するはずなのだが、アカネはピンピンとしていた。非常に疲れにくくなるスキルは健在のようだ。
アカネは難聴、視力を失った、腕がないといった人たちに対して、回復魔法を使用する。いずれも病気にかかっていたのが嘘にしか思えないくらいに、元気な姿を取り戻していた。