ドゴログマでわっしょい その4
バーベキューを終えると、子供達はあっという間にうとうとし始めました。
昼間、川でいっぱい遊んでいましたのでその疲れがでたのでしょう。
僕はまず、パラナミオを抱っこして簡易小屋の中へと運んでいきました。
すると、ファラさんもピラミを抱っこして僕の後についてきました。
リョータ・アルト・ムツキの3人は寝落ちすると同時に成長魔法が解けて赤ちゃん姿に戻ってしまったものですから、スアがダブルだっこにおんぶをして簡易小屋の中へ連れてきてくれています。
一見苦しそうですが、魔法で重さなどを調整していますので全然苦ではないそうなんですよね。
簡易小屋の中に作成してあった巨大なベッドに子供達を寝かせると、スアは昼間採取した薬草の処理をしたいとのことで、机に向かいました。
イエロとグリアーナの2人はと言いますと
「夜の魔獣と渡り合ってこそ、真の修行でござるよ」
と、気合い満々のイエロが、グリアーナを引き連れて森で狩りの真っ最中だったりします。
気のせいか、時々グリアーナの悲鳴じゃないかなって声が聞こえてくるような気がしないでもないのですが……まぁ、この世界にやって来ているみんなの行動は、スアがすべて監視してくれていますのでいざとなったらスアが魔法で強制的に連れ戻してくれる……
「どわああああああああああで、ござるぅ」
なんて思っていましたら、簡易小屋の中にいきなりグリアーナの姿が出現しました。
グリアーナは何かに追われていたようで、真っ青な顔をしながら周囲を見回していました。
で、そんなグリアーナを肩越しに見つめながらスアが
「……イエロにおいていかれて、魔獣に襲われてた」
そう言いました。
そんなスアの言葉を聞いたグリアーナは
「……め、面目次第もござらぬ」
そう言ってがっくりと肩を落としたのですが……この場合、グリアーナが弱いのではなくて、イエロが強すぎるってことだと思うんですけどね。
その後、グリアーナは、心配して戻って来たイエロに再び連れ出されていきました。
「今度は突っ走らないでござるよ」
「お、お手柔らかにお願いするでござる……」
イエロの前では終始弱気なグリアーナですけど、彼女も決して弱いわけではないんです。
実際、コンビニおもてなし5号店に時折出没されます、力に物を言わせて割り込みしようとなさる困ったお客様などは、指先一つでダウンさせてしまいますからね。
ただ、グリアーナ本人が限界なようだったらあれですので、
「グリアーナ大丈夫かい? 無理そうならイエロに言ってやめてもらうけど」
と言ったのですが、グリアーナは
「い、いえ……む、むしろ拙者がいかにぬるま湯で過ごしていたのかを実感しておりまする。このまま頑張らせてください」
そう言うと、剣を構えてイエロの後をついていきました。
その背中を見つめながら僕は、
「無理し過ぎるなよ」
と、一声かけておきました。
◇◇
子供達も寝静まっていますので、僕も子供達が寝ている巨大なベッドの端で寝させてもらおうかと思ったのですが、そんな僕にファラさんが声をかけてきました。
「店長殿、少し話をさせてもらってもよろしいか?」
「あ、うん。別にかまわないよ」
そう言った僕を、ファラさんは小屋のすぐ外へ連れ出しました。
しばらく夜空を見上げていたファラさんは、
「あなたには、一度きちんとお礼を言わせてもらわないと、と、いつも思っていたのです」
「お礼? それはむしろ僕の方が言いたいよ。いつも商会を切り盛りしてくれているだけじゃなくてお金の管理までしっかりしてくれて本当に助かっているんだから」
僕がそう言うと、ファラさんはにっこり微笑みながら僕を見つめてきました。
「それですよ……今までこの私のことをここまで信用してくれた人族はただの一人としておりませんでした。皆、龍人の私を恐れ、警戒し、お金を扱わせることなど皆無でしたからね……アルリズドグですら、私を集金と用心棒代わりに使っていたほどです」
ファラさんは、僕が商会を任せられるお金の扱いに長けた人を探していた際に、アルリズドグ商会のアルリズドグさんが紹介してくれたんですよね。
ただ、ファラさん本人がお金の扱いなら任せて欲しいと言っていたので、その通りのお仕事を任せただけ、というのが僕的な本音なわけです。
「いや、僕はただ、ファラさんの希望を聞いただけですし」
「その希望を聞いてくれた人族が、私の今までの龍生の中であなたが始めてなのですよ。感謝しても仕切れません」
そう言うと、ファラさんはクスクスと笑いました。
その笑顔は、お店で見せる威圧的なオーラが常に発せられているものではなく、ごく普通な笑顔でした。
「これで店長が独り身であれば、酒でも飲ませて籠絡するところなのですが……奥方様と相思相愛なお方に野暮はいたしません」
そう言うと、ファラさんは簡易小屋へと戻って行きました。
小屋に入る前に、
「これからも、末永くよろしくお願いしますね」
そう言って、もう一度にっこりと微笑んだファラさん。
そんなファラさんに、僕も笑顔で頷いていきました。
「こちらこそ、よろしく頼むよ」
◇◇
翌朝。
みんなで朝ご飯を食べた僕達は、今日は川の上流へ向かって行きました。
「……この先に、巨大な滝がある、よ」
スアがそう教えてくれたので、みんなで見に行こうということになったのです。
リヴァイアサン化したファラさんの背にのった僕達は、周囲の風景を眺めながら進んで行きました。
時間にして30分ほど川を遡ると、水が落下する音が聞こえ始めました。
すると、いきなり森が開けて、そこに巨大な湖が出現しました。
僕達が遡上してきた場所のちょうど反対側に、その滝がありました。
落差100m近くあるのではないでしょうか……結構な量の水が大音量とともに落下していく様子はなかなか壮観です。
ファラさんは、もう少し近くによろうとしてくださったのですが、そんな僕達の前にいきなり巨大な龍が出現しました。
その形状からして、どうやらファラさんと同じリヴァイアサンのようです。
しかも、空からワイバーンが、川岸からサラマンダーまで出現して僕達の方へ向かって駆け寄ってきたのです。
3匹の龍に囲まれてしまった格好になったファラさんですが、彼女も一歩も引こうとはしていません。
そんな僕の横で、スアも最初身構えていたのですが、しばらくすると
「……この龍達、誰かの使い魔、だね。私達の様子を見にきただけ、よ」
そう言いました。
そんなスアの言葉通り、リヴァイアサンがファラさんに向かって龍語みたいなうなり声で話かけてきまして、それにファラさんが返事を返していくと、程なくして3匹の龍達はそれぞれ元いた場所へと戻っていきました。
『あの滝の中に、あの使い魔達のご主人の別荘があるそうです。強力な守護魔法がかけられているのでこれ以上近寄らない方がいいと言われました』
ファラさんは、先ほどのリヴァイアサンとの会話内容を僕達に教えてくれました。
僕達はその警告に従いまして、この場所でしばらく遊ぶことにしました。
この周囲にも珍しい薬草が多く自生していたようで、スアも一心不乱に採取しまくっていました。
子供達も、昨日に引き続き水着に着替えて水遊びをしていきました。
すると、先ほどのリヴァイアサンが
「湖の中央までなら来てもいい。なんなら釣りでもするか?」
そう人語で語りかけてきました。
僕達はその申し出を受けまして、そのリヴァイアサンの背に乗せてもらって湖の中央まで連れて行ってもらい、そこで釣り糸を垂らしていきました。
釣り道具も、念のために持ってきておいてよかったです、はい。
途中、このリヴァイアサンの娘らしい子供のリヴァイアサンも近寄ってきたりしました。
そのリヴァイアサンは、サラマンダーのパラナミオの事が気に入ったらしく、パラナミオを背にのせて湖の中を泳ぎまくっていました。
「パパ~なんか楽しいです~」
そんな歓声をあげるパラナミオに、僕は笑顔で手を振りました。
その後、その子供のリヴァイアサンは他の子供達も乗せて、周囲を泳ぎまくってくれました。
……ただ、この子供のリヴァイアサンが泳ぎまくったせいか、釣りの成果はみんなさっぱりだったんですけどね。
でもまぁ、あの滝を少しでも近くで見ることが出来たので、みんなご満悦な様子でした。
その後、リヴァイアサン化したファラさんが湖に潜って仕留めてきた巨大な魔魚をお昼のおかずにしました。
イエロとグリアーナが剣でさばき、その肉を僕が急ごしらえの簡易竈で焼いていきます。
鱗や骨が異常に硬かったのですが
「……これ、いい薬の原料」
スアが、そう言いながら嬉々として収集していた次第です。
昼食を終えた僕達は、リヴァイアサンに別れを告げて簡易小屋まで戻りました。
名残は惜しいですけど、そろそろ戻らないといけません。
スアが魔法陣を展開している後方で、子供達は笑顔で会話を交わしていました。
「パラナミオちゃん、また一緒に遊ぼうコン」
「はい、私もピラミちゃんと一緒に遊びたいです!」
「リョータも一緒に遊びたい」
「そうですわね、ここで皆でまた遊ぶのも一興ですわね」
「ここ、ホントに楽しいにゃしぃ、にしし」
子供達のそんな会話を聞きながら、僕はまたみんなを連れてきてあげたいな、と思っていた次第です。
こうして僕達のドゴログマ一泊旅行は幕を閉じました。
さぁ、明日からまたコンビニおもてなしの営業です。