ドゴログマでわっしょい その2
コンビニおもてなし本店の裏に集まった僕達の前で、スアが水晶樹の杖をかざしていきました。
すると、その先に巨大な魔法陣が展開していきます。
結構見慣れてはいるものの、やはりなかなかなすごい光景です。
ほどなくして、魔法陣の中に巨大なドアが出現し、それをスアが開きました。
そして、そのドアの向こうにドゴログマの草原が広がっ……え?
そこで、僕は一瞬目を丸くしました。
ドアの真正面にですね、何やらでっかい生き物の顔があったのです。
「な、なんだありゃ?」
僕は、その生き物の顔を見つめながら唖然としていました。
すると、ドアの向こうの巨大な生き物の顔も、その目の部分をドアにあてがいながら僕の方へ視線を向けています。
しばらく僕と、その巨大な生き物は、転移ドアを挟んでにらみ合う格好になりました。
そんな、僕的クライマックス状態な状況下に割り込んできたスアが
「……邪魔」
と、言いながら水晶樹の杖を、まるで西遊記に出てくる孫悟空の如意棒のようにするするっと伸ばしていきまして、その目玉の中央を(残虐な表現を含むため割愛されました)
スアの容赦ない水晶樹の杖での一撃をくらったその巨大な生き物は、悲鳴にも似た叫び声を上げながら逃げ出していきました。
「……スア、あそこまでしなくてもよかったんじゃ……」
僕は、そう言いながらドアの方へ改めて視線を向けました。
すると……なんということでしょう……
そのドアの向こうには、新たに4,5匹の巨大な生き物の姿が見えているではありませんか。
すかさずスアが僕の前に立ち塞がりながら、再度水晶樹の杖を構えていきました。
その光景を前にしてピラミや、パラナミオ立ちがおびえながら後方に後ずさっています。
その時でした。
ピラミの横に立っていたファラさんがすさまじい勢いでダッシュしたかと思うと
「なぁに子供達を怖がらせとんじゃあああああああああああああああああああああああ」
そう絶叫しながら見事な跳び蹴りを巨大な生き物の眉間にたたき込んでいきました。
その衝撃で、巨大な生き物達が一斉に吹っ飛びました。
それに呼応するかのように、ファラさんはドアの向こうに飛び込んで行きました。
同時に、その姿を巨大な龍の姿へと変えていきます。
すさまじい咆哮をあげながら巨大な生き物達に1人で突っ込んでいくファラさん。
「むぅ、拙者達も行くでござる!」
「え、えぇ!? あ、は、はいでござる!」
ファラさんに続いて突っ込んでいくイエロとグリアーナ。
その後方で、スアは魔法の絨毯を出現させると、そこに残っているみんなをのせました。
「……じゃあ、行くの」
みんながその上に乗ったことを確認したスアは、そのまま転移ドアの中へと突っ込んでいきました。
ドアの向こう。
そこはドゴログマでした。
スアは、ドゴログマに魔法の絨毯で突っ込むと、そのまま上空高くに上昇しました。
「う、うわぁ……す、すごいです!?」
眼下の光景を見つめながら、パラナミオが目を丸くしていました。
転移ドアが出現した場所の周囲に、巨大な生き物がうじゃうじゃいるのです。
どうやら、この巨大な生き物の住処のど真ん中に転移ドアが出現してしまったようですね。
「……あれは、厄災の……イモリ……」
スアはそう言いながら眼下を見下ろしていました。
眼下では、ファラさんとイエロが大暴れしていました。
リヴァイアサン化しているファラさんですが、厄災のイモリ達より3回りくらい大きいのです。
そのファラさんは、周囲に水流を吐きまくり、爪と尻尾で厄災のイモリを叩き潰しまくっています。
その向こうでは、イエロが飛び回っています。
両手に剣を構えているイエロは、飛び上がっては厄災のイモリの頭を攻撃しています。
イエロが剣を振るう度に、厄災のイモリが数匹倒れていました。
その近くで、グリアーナも必死に剣を振るっているのですが、イエロほどの破壊力を有していないグリアーナの剣では、厄災のイモリを後退させるのがやっとのようです。
そんな状況を、上空から視認していたスアは、水晶樹の杖を掲げていきました。
「……邪魔」
スアがそう呟くと同時に、空からいきなり落雷が降り注いでいきました。
その落雷は、ファラさんとイエロ・グリアーナの周囲を巧みに避け、それ以外の位置にいる厄災のイモリに降り注いでいきました。
この一撃で、ほとんどの厄災のイモリが消し炭と化しました。
パラナミオ・リョータ・アルト・ムツキの4人は、そんなスアを見つめながら
「ママすごいです!」
「ママかっこいい!」
「母上様、素敵ですわ」
「ママ、すごいにゃしぃ」
そう賞賛の声を上げ続けていました。
そんな4人の前で、水晶樹の杖を構えたままの姿勢を保っているスアは、頬を染めながらその顔に照れ笑いを浮かべていました。
ちなみに、この時のピラミは魔法の絨毯から身を乗り出して
「ファラさん! すごかったコン~!」
そう言いながら笑顔で手を振っていました。
そんなピラミに応えるように、リヴァイアサン化しているファラさんは、その青い体で魔法の絨毯を見上げながら尻尾をひらひらと振り替えしていました。
◇◇
スアによりますと、この厄災のイモリは食用には適さないそうです。
ですが、その肉や骨は魔法薬の材料として使えるそうです。
しかも、かなり貴重な材料だそうでして、スアは嬉々として厄災のイモリの死体を魔法で解体しては魔法袋へ詰め込んでいました。
厄災のイモリが大挙して住み着いていた土地に転移ドアが出現してしまったわけなのですが、天界との取り決めで、今回の転移ドアの出現地点を変更することは出来ません。
ですので、ここに拠点を築く必要があります。
1泊2日ですけど、帰る時にまたこの一帯が厄災のイモリみたいな巨大な生き物に占拠されていたらめんどくさいことになってしまいますからね。
そこで、ファラさんやイエロ・グリアーナ達が周辺の木を切り倒しては、それで柵を作っていきました。
その真ん中に、簡易な小屋も作ってくれています。
厄災のイモリの収容作業が一段落したスアが、最後に結界を張ってくれましたので、これでもう万全でしょう。
早速僕達は簡易小屋の中へ集合しました。
「じゃあ、お昼ご飯にしようか」
僕は、そう言うと魔法袋に入れて持ってきていたお弁当をみんなに配っていきました。
コンビニおもてなしで販売しているお弁当の入れ物と同じ容器ですが、その中身はかなり豪勢になっています。
タテガミライオンの肉を使ったステーキやハンバーグ、野菜炒めなどがおかずとして詰め込まれています。いつもでしたら1品で弁当の主役になるおかずばかりです。
子供達は、簡易小屋の中でそれを美味しそうに食べていました。
「パパ、とっても美味しいです!」
満面の笑顔でそう言ってくれたパラナミオを筆頭に、他のみんなも笑顔です。
ファラさんも
「ホント、店長の料理の腕はすごいわねぇ」
と、びっくりした表情をうかべています。
その隣に座って弁当を食べているピラミも、一心不乱にそのお弁当を口に運んでいたのですが、
「……私だけ、こんなに美味しい物を食べていいコンかな……」
そう言い、食べる手を止めてしまいました。
すると、ファラさんがそんなピラミの肩をのせていきました。
「大丈夫よ、店長が集落のみんなにも作ってくれるわ」
そう言った後、僕の方へ視線を向けてきました。
その目は
『当然、作ってくれますよね?』
と、まるで脅迫するような威圧感で僕を見つめていたのです。
そんな視線を前にしたら、もう、頷くしかありませんよねぇ。
僕が頷いたのを確認したピラミは、嬉しそうに微笑みながら再びお弁当を口に運んでいきました。
でもまぁ、この笑顔のためななら頑張ってもいいかもしれませんね。
◇◇
食事を終えた僕達は、スアを先頭にして森の中へと入っていきました。
右をイエロとグリアーナが、左をファラさんが警護しています。
スアの横には僕がいます……が、まぁ、僕はどちらかといいますとスアに守られる側なんですけどね。
そんな僕達が森の中を進んでいくと、その眼前に川が現れました。
「うわぁ、綺麗ですねぇ」
パラナミオが歓声をあげました。
そんなパラナミオの前でスアが魔法を展開して周囲を警戒していきました。
「……うん、大丈夫」
スアは、そう言うと僕に向かって右手の親指をグッとたてました。
これを受けまして、僕達はこの川の周辺でしばらくのんびりすることにしました。