電気自動車おもてなし2号ただいま出動! その1
コンビニおもてなし3号店での子供服の販売が始まって1週間が経ちました。
定期魔道船の運行がスムーズなおかげで、お店の方もスムーズにお客さんを迎え入れることが出来ています。
何より予想外というか、予想を遙かに超えていたのが魔法少女戦隊キュアキュア5の人気ぶりです。
この絵本は王都でも販売されているそうなのですが、そのグッズが買えたり世界観を体感出来るアトラクションを楽しめるお店があるとの噂があっという間に広まっていきました、周辺都市からの問い合わせのみならず、王都にある商会からパックツアーの申し込みが来たりしています。
具体的には、王都からナカンコンベまで10日程かけて駅馬車で移動。
ナカンコンベで数日過ごしながら、定期魔道船を利用して滞在期間中毎日コンビニおもてなし3号店へ行って買い物やアトラクションを満喫するといった感じのものでした。
これに関しては、王都ーナカンコンベ間を結ぶ駅馬車の手配なども絡んできますので、ドンタコスゥコ商会のドンタコスゥコとおもてなし商会のファラさんで協力して検討してもらうことにしています。
もう一方の子供服の方も売れ行き好調です。
当初はドンタコスゥコが
「売れ残ったらウチの店が全部買い取りますからねぇ」
と言っていたのですが、販売開始からわずか2日で在庫が全部売り切れてしまうほどですので、とてもドンタコスゥコ商会へ回す余裕などありませんでした。
とはいえ、いつも何かとお世話になっているドンタコスゥコ商会ですからね、ある程度ずつは意図的にドンタコスゥコ商会へ回してあげるようにしています。
ちなみに、ドンタコスゥコ商会はコンビニおもてなしから仕入れた子供服は、西方にあるバトコンベという辺境都市で販売する予定にしているそうです。
「あの辺境都市はナカンコンベよりも住人が多いですからねぇ、近くにあるグリーンコンベとリバティコンベもとても人口が多いですしねぇ」
ドンタコスゥコはそんな事を教えてくれました。
バトコンベは以前剣闘大会にイエロ達が参加した際に行ったことがありますけど、他の2つの都市は行ったことがありません。
いつか行ってみたいものです。
◇◇
3号店の営業は、2階部分をデスワンがテトテ集落の皆さんとテレコ達と一緒に行い、1階部分はいままでどおりエレが中心になって木人形達と一緒に行っていますが、この1週間いずれも問題なくスムーズに行われていきました。
これを受けまして、僕も1週間で5号店の営業に戻りました。
僕がいない間の5号店は、2号店に勤務している元シャルンエッセンスのメイド達が2人づつ交代に手伝いに来てくれていたおかげで特に問題なく営業することが出来ていました。
「何か変わったことはあったかい?」
「そうですわね……一番変わったのは……」
そう言うと、シャルンエッセンスは僕を店の外へと連れて行きました。
そこでシャルンエッセンスは店の屋上を指さしたのですが……
そこには10個のデラマウントボアの頭が並んでいたのです。
「……え? ひょ、ひょっとしてイエロ達がまた仕留めたのかい」
「えぇ、そうでございますわ」
僕の言葉に、シャルンエッセンスは苦笑しながら頷きました。
さすがにこれだけ何頭もさばいていますとイエロ達も手慣れてきましてですね、仕留めたデラマウントボアを街の外でさばききって魔法袋につめてから持ち帰ってこれるようになったそうでして、おかげで宴を開かずに済むようになったそうです。
で、店の屋上にこうして戦利品の頭だけが増えていくという……
ちなみに、このデラマウントボアはコンビニおもてなし関連の店に好影響をもたらしています。
デラマウントボアの肉を使ったデラマウントボア弁当は、コンビニおもてなし全店にて連日数量限定販売を行っていますが、連日お昼前には売り切れています。
数量限定とはいえ、あくまでも追加生産しないというだけで、結構な数準備しているんですけど、それが真っ先に売り切れているわけです、はい。
そして、デラマウントボアの肉はピアーグにも卸売りしていまして、その肉を使ったメニューが、ピアーグに登場しています。
デラマウントボア鍋定食と、デラマウントボアの串焼き定食、デラマウントボアの肉野菜炒め定食の3つが定番メニュー化しています。
デラマウントボア鍋は、いわゆるぼたん鍋です。
味噌玉を使用して味を調えて、野菜と一緒に一人用の土鍋で煮込んだ物をご飯と一緒に提供しています。
串焼きと肉野菜炒めは、どちらも文字通りの品です。
串焼きは、細切れにして焼いたデラマウントボアの肉を串に刺した物を、肉野菜炒めは、同じく細切れにして焼いたデラマウントボアの肉を野菜と一緒に炒めた物をメインのおかずとして提供しています。
調理に使う細切れ肉は、僕が元いた世界で言うところのタマネギによく似た野菜になりますタルマネーギを輪切りにしたものと一緒につけ込んで臭みをとっています。
このおかげで、そのまま食べるとかなりアクが強くて筋ばっているデラマウントボアの肉が、臭みもアクも取れ、筋張り感も軽減されています。
そのおかげで、これらのメニューはピアーグの中でも1,2を争う人気メニューになっている次第です。
また、デラマウントボアの皮を使用した武具の作成研究を行っていたルア工房でも、その作成に成功しています。
デラマウントボアの皮をうまくなめして鎧全体をコーティングした鎧や盾が出来上がりまして、早速コンビニおもてなしの店頭に並んでいるのですが、冒険者や衛兵の皆さんを中心に売れ続けています。
高価な品物だけに飛ぶようにというわけにはいきませんが、中には
「私の体に合わせたオーダーメイドをお願いしたい」
と申し出てこられた騎士の方も数名おられる程です。
ちなみに、ルアが最初に試作したデラマウントボアの鎧と盾は、現在ルアの旦那さんでありますオデン六世さん愛用の一品になっていまして、それを着用して街中を闊歩していくオデン六世さんの姿はいい宣伝にもなっているようです。
そんなある日のことでした。
僕は手続きの関係でナカンコンベ商店街組合へ行きました。
そこで定期的な書類の提出を行ってから店に戻るべく街道に出たのですが、何やらもめている声が聞こえてきました。
「そんな……いきなりそんなことを言われても困るコン……」
「しょうがねぇだろ。こっちも商売なんだからよ」
ちょっと言い争っているような感じですね。
僕は、ちょっと気になったもんですから声がする方へ向かってみました。
よく見ると、そこは青物屋のようですね。
野菜を中心に扱っている店なのですが、その店頭で1人の女の子とその店の店主が言い合いをしているようです。
「とにかく、今回はこの金じゃ今まで通りの量の野菜は売れないんだ。この金で買えるだけでいいっていうのなら売ってやるけどよ」
「そんな、困るコン。それじゃあ今までの半分にもならないコン……」
「じゃあ帰ってくれ、いいな」
「あ、ちょ、ちょっと待ってほしいコン……」
そう言うと、店主は女の子を残して店の奥に引っ込んでしまいました。
その後ろ姿を追いかけようとした女の子ですが、それを店員が数人がかりで止めてしまいました。
それでも、諦めきれない様子で女の子は店の奥に向かって声をかけていたのですが、店主が出てくる気配がないのを悟ると、がっくりと肩を落としながら引き返していきました。
店の前においてあった大きな荷車を引っ張りながら、女の子はとぼとぼと歩いていきます。
僕は、どうにもその女の子の事が気になったもんですから、
「あの……」
そう声をかけました。
すると、女の子は、僕の方へ視線を向けました。
パラナミオより少し年上といったくらいでしょうか。
狐人らしいその女の子は、しょぼんとした様子で僕の方へ視線を向けてきました。
「あの……失礼だけど、さっきの話を聞いていたんだけど、何かあったのかい?」
「……あの……野菜を売ってもらえなかったコン……」
「野菜を?」
「コン……なんか、最近値上がりしたからって……いつもの倍近い値段を言われたコン……」
そう言うと、女の子は再びしょぼんとした様子でうなだれていきました。
そういえばさっき商店街組合でも話題になっていました。
ナカンコンベに入ってくる野菜の量がいきなり減ったとかで、値段が急騰しているんだとか。
もっとも、コンビニおもてなしで使用している野菜はすべてテトテ集落から仕入れていますので、ナカンコンベの野菜のように取扱量が特に減ってはいないわけです。
コンビニおもてなしは青物販売の届け出をしていませんので、加工した弁当とかしか売ることが出来ません。例外として認められているのはヤルメキススイーツの一環として認められている果物類だけですね。
(あ、でも……おもてなし商会で取引をするのなら問題なかったんじゃなかったっけ)
僕は、その事を思い出すと、
「あの、もしよかったら僕の店にこない? ひょっとしたら力になれるかもしれない」
「コン!?」
僕の言葉に、女の子は目を丸くしました。