可愛くてキュアキュアな その4
今日の僕は、コンビニおもてなし5号店の営業指揮を店長補佐のシャルンエッセンスに任せてコンビニおもてなし3号店に出向いています。
ここコンビニおもてなし3号店で働いているのは木人形のエレことエレクトラ=アンドゥトロワ店長を筆頭に、同じく木人形のスシス・ワザン・チカラン・デスワンの4人です。
エレとスシスは、僕がこの屋敷を王都から下賜される前からここに住んでいまして、屋敷の維持管理をしていました。
この屋敷は、以前は山賊に狙われていまして、その魔の手からエレとスシスが守っていたのです。
正確にいいますと、エレ・スアーラ・マッシマム・デレナミースの4人の木人形達が守っていたのですが、スアーラ・マッシマム・デレナミースの3人は山賊達の猛攻によって破壊されていたのです。
その使えそうなパーツをスアがどうにか組み立てて、スシスという名前の1体の木人形として蘇らせたわけです、はい。
ちなみに、その山賊達に捕まってこき使われていたのがパラナミオだったんですよね。
山賊を蹴散らして僕とスアが保護し、そのまま養女として迎えたわけです。
思えば、あれからもう1年近く経つんですよね……なんか、あっという間な感じです。
ワザン・チカラン・デスワンの3人は、スアが魔女魔法出版から発行している木人形制作キット全10巻を使って組みあげました。
ちなみにこの全10巻セットですが、お値段1000万円/僕が元いた世界換算だったりします……
木人形達は眠る必要はありませんが、体を洗浄したり、摩耗したパーツの手入れをする時間は必要です。
そのため、4人は交代で休憩を取りながら自らの体のメンテナンスを行っているそうです。
あまりにもひどい損傷が生じた場合は、スアの元を訪れて修理してもらっているんだとか。
で、そんな4人のおかげで、このコンビニおもてなし3号店は、コンビニおもてなし本支店の中で唯一24時間営業を行っています。
普通の辺境都市で24時間営業を行っても、夜間の時間帯にお客さんはほとんどきません。
と、いいますのも、この世界の人々は基本的に日が暮れると早めに寝てしまうからなんです。
中には酒を飲みに酒場へ行く人もいますけど、そういう方は酒場に直行し飲み明かすとそのまままっすぐ帰ってしまうのが常なんです。
ですが、この3号店は例外です。
と、いいますのも、この3号店が存在しているのは魔法使い集落のど真ん中なわけです。
魔法使いの皆さんは、だいたい魔法や魔法薬、魔石の研究に日々明け暮れておられまして時間感覚がおかしいところがあるんですよね。
何時だろうと、自分の研究が一段落したら休憩して買い物に来てくださるわけです。
なので、24時間営業していても常にそれなりのお客さんがいらしてくださるのです。
まぁ、そのお客さんの大半は、魔女魔法出版の書籍を販売しているコーナーで立ち読みなさっているんですけどね。
さて……そんな店内の清掃を、エレと一緒に行っていますと窓の向こうに定期魔導船の姿が見えてきました。
記念すべき第一便です。
屋敷の屋上にあります乗降タワーに定期魔道船が接岸すると、
「はい、魔法使い集落、コンビニおもてなし3号店に到着しました。子供服ならびに魔法少女戦隊キュアキュア5ランドにお越しの方はここでお降りください」
勇者ライアナがお客さんを誘導する声が聞こえてきました。
同時に、ガヤガヤわいわいといった声が聞こえてきます。
ほどなくして、魔導船乗降タワーの出入り口から大量のお客さん達の姿が出現しました。
僕は、その出口部分に立つと、
「子供服売り場並びに魔法少女戦隊キュアキュア5ランドは2階になります、こちらの階段からお上がりください」
魔法拡声器を片手にそう声を上げていきました。
すると、その指示に従って定期魔道船から降りてこられたお客さんのほぼ全員が2階へ上がる階段に向かって小走りに進んでいきました。
やはり、定期魔導船でここへ来られたお客さんのお目当ては子供服と魔法少女戦隊キュアキュア5ランドのようですね。
2階はあっという間にお客さんでいっぱいになっていきました。
とはいえ、魔法少女戦隊キュアキュア5ランドは魔女魔法出版の上級魔法使い達によって体験型のアトラクションが多数設営されているのですが、それらのアトラクションは外から見ると5m四方しかない箱状の小部屋の中に、一度に50人近く入れる仕様になっているのです。
そのため、魔法少女戦隊キュアキュア5ランド全体を見回すと若干狭く感じるものの、一度にすごい数の子供達を遊ばせることが出来る仕組みになっているんです。
ですので、結構な数やってきていた、この魔法少女戦隊キュアキュア5ランド目当ての子供さん達は、みんなほとんど待つことなくアトラクションを満喫することが出来ていたのです。
ちなみに、この魔法少女戦隊キュアキュア5ランドは時間制で料金が設定されているのですが、1時間で子供1人500円・保護者1人800円/僕が元いた世界換算と、リーズナブルな値段設定になっています。
それもあってか、初日から魔法少女戦隊キュアキュア5ランドは大盛況でした。
当然、併設されている絵本コーナーやグッズ販売コーナーも大勢の子供達や保護者の方達で賑わっていたのですが、そんな方々に混じって、いわゆる大きなお兄さん的な方々の姿もお見かけすることが出来たわけでして……こういうのって世界共通なんだなぁ、と思わず思った次第です、はい。
子供服売り場にもお客さんが殺到したのですが、先に魔法少女戦隊キュアキュア5ランドへ向かわれる方々も結構おられましたし、何より定期魔道船で一度にお越しになられる皆さんくらいでしたら十分に受け入れることが出来る広さになっていましたので、大きな混乱が起きることはありませんでした。
強いて言えば、試着コーナーが若干混雑していたぐらいですね。
で、このお客さん達は、次の定期魔道船がやってくるとほぼ全員それに乗って帰っていかれました。
同時に、その定期魔道船で新しいお客さんがやってくるわけです。
そんな感じで、お客さんがいい具合に入れ替わってくださるものですから、3号店は予想以上にスムーズに営業していくことが出来ました。
子供服売り場は、テトテ集落の皆さんと、接客に長けているデスワンが中心になって接客を行っています。
で、ここに今日は僕も加わったのですが、
「ねぇ、これの色違いはないの?」
「これをもう一着欲しいんだけど」
などといったお客さんからの要望に対応するのがメインの仕事でした。
商品の在庫はすべて隣室に保管してありますので、ご要望が有り次第僕達は隣室へ走っていって該当の商品を持ってくるという作業をひたすら繰り返しました。
夕方近くになりますと、学校から帰ってきたパラナミオ達が転移ドアをくぐってお手伝いにきてくれました。
「パパ、パラナミオ達も手伝います!」
「リョータも頑張るよ!」
「このアルトにおまかせくださいませ」
「ムツキも頑張るにゃしぃ」
子供達は、テトテ集落の皆さんが作った商品を、マネキンよろしく身につけて接客のお手伝いをしてくれたのですが、
「まぁ、可愛い!」
「ちょっと、このお子さんが来ている服を一式くださいな!」
今度はそんな要望が殺到し始めまして、僕達は嬉しい悲鳴をあげていきました。
◇◇
ようやく、本日最後の定期魔道船が乗降タワーを離岸し、ナカンコンベ方面へ向かって飛び去っていきました。
2階にお客さんはもうおられません。
3号店の中には、いつものように1階の書籍コーナーを中心に魔法使いのお客さんがおられるだけです。
「いやぁ、まさかこんなに大盛況になるとはね」
僕の言葉に、子供服売り場を担当したテトテ集落の皆さんと、魔法少女戦隊キュアキュア5ランドを担当した魔法使いのテレコ達と魔女魔法出版の社員の皆さんも笑顔を浮かべていました。
ちなみに、テレコ達と魔女魔法出版の社員の皆さんは全員魔法少女戦隊キュアキュア5の絵本に登場するキャラクターのコスチュームを着ておられます。
この絵本はパラナミオ達も大好きでして、接客の途中に時々その衣装を着用したりしていました。
ですが、女の子キャラの衣装を嬉々として着ようとしたリョータには、僕があえて男の子キャラの衣装を着させてあげた次第です。
将来的な黒歴史になってはあれですからね。
「皆様、今日はお疲れ様でした。よろしかったらこれをお召し上がりくださいませ」
そう言いながら、エレが大量の軽食とお茶を持ってきてくれました。
エレは元々メイド木人形ですからね、こういう作業はお手の物なわけです。
僕達は、早速それをいただきながら歓談していきました。
コンビニおもてなし3号店の2階に、みんなの楽しげな笑い声が響いていきました。