電気自動車おもてなし2号ただいま出動! その2
「デラマウントボアですよ」
おもてなし商会に到着した僕から事情を聞いたファラさんはそう言いながら大きなため息をつきました。
「なんでもデラマウントボアがこの周辺に住み着いたらしくてですね、ナカンコンベの城壁の外にある畑が軒並み被害にあってるって話ですわ」
「でも、イエロとセーテンが結構狩ってくれてないかい?」
「あれで随分減ったので、これから徐々に回復していくでしょうけど……イエロ達が狩りを始める前からあいつらはこの一帯を荒らし回っていたようですわ」
ファラさんはそう言うと、
「まぁ、ウチはテトテ集落から品物を購入していますので、特に影響はないのですけどね」
そう言ったファラさんですが、その顔には若干忌々しそうと言いますか、ちょっといらついた表情が浮かんでいました。
でもまぁ、これは仕方ありません。
ナカンコンベは市場規模がブラコンベなどに比べましても格段に大きいです。
ですので、当初はファラさんも
「卸売市場で取引出来るようになれば結構な収益が見込めますわ」
とまぁ、気合い満々だったんですけど……これがうまくいっていないのです。
と、いうのもですね……
このナカンコンベの卸売市場は取引に参加出来る業者の総数があらかじめ決められているんです。
で、当然ですがその枠は常にいっぱいなんです。
当然、新参者のおもてなし商会には、その枠は回してもらえていないんです、はい。
「……まったく、行きたくもない懇親会に顔を出して、エロ商店街組合長の隣に座らされてお酌させられまくったってのに……これじゃあ触られ損じゃないの」
忌々しそうに言いながら、ファラさんは舌打ちを続けていました。
と、まぁ、そんなわけで、ファラさんがあれこれ手を打ってくれてはいるのですが、なかなかいい話にはなっていないわけです、はい。
……とはいいましても、コンビニおもてなしの商品を扱いたいという商店や商会、食堂なんかはそれなりの数おられますので、おもてなし商会ナカンコンベ店は徐々にですがその取引先を増やしていまして、収益も上がりつつはあるんですよね。
なので、僕としてもここは焦ることなくじっくり腰を落ち着けていけばいいかなと思っている次第です、はい。
そんな事を思い出している僕の前で、ファラさんは
「……さて、いつまでも愚痴ばっか言ってちゃ駄目ですね」
そう言い、大きく息を吐き出すと、その表情をいつもの表情へと変化させました。
このあたりの切り替えの早さはさすがファラさんですね。
そして、その視線を僕の横に立っている女の子へと向けました。
「で、店長さん、そちらの方は?」
「あぁ、ナカンコンベの南にあるフク集落からやってきたピラミさんだよ」
「ぴ、ピラミですコン。始めましてコン」
狐人のピラミは若干緊張した面持ちで挨拶し、ぺこりと頭を下げました。
「ふぅん……店長が連れてきたってことは、ウチと取引したいってことかしら?」
「そうなんだ。野菜の値段が急騰したせいで、予定した量を変えなくて困っているそうなんだよ。ピラミは集落みんなの食料を購入してくる役目を任されているらしくてね」
「ふぅん」
僕の言葉を聞いたファラさんは、しばらくピラミを見つめていました。
その視線の先で、ピラミは緊張した面持ちで直立不動の姿勢をとっています。
「……売るのはいいけどさ。ピラミ、わかってる?」
「こ、コン?」
「ウチと取引すると、今後は卸売市場で取引している店では大口の買い物は出来なくなるわよ?」
「コン!?」
ピラミは、ファラさんの言葉に飛び上がりました。
「そ……それは困るコン……野菜の値段が戻ったら、またいつもの店で買えないと……集落のみんなが困るコン」
しどろもどろになりながら、うつむいて考えこんでいくピラミ。
ですが、僕はそんなピラミの肩をポンと叩きました。
「要は、今後も野菜を定期的に購入出来ればいいんじゃないのかい?」
「そ、それはそうコンけど……このナカンコンベで青物を大量に扱っているお店はそんなに多くは……」
「……ふぅん」
ピラミの言葉に、ファラさんは不適な笑みをその顔に浮かべました。
「おもてなし商会もなめられたもんねぇ……ちょっとこっちにいらっしゃいな」
「こ、コン?」
怪訝そうな表情を浮かべているピラミを連れて、ファラさんは倉庫へ歩いていきました。
そして、その扉を開け
「さ、見てごらんなさいな」
そう言って、ピラミをその入り口へ誘いました。
そこで、ピラミは目を丸くしながら飛び上がりました。
それはそうでしょう。
その倉庫の中には、テトテ集落から仕入れた新鮮な野菜が詰まった木箱が天井高く積み上がっているのですから。
この大半は、コンビニおもてなし5号店で販売する弁当やホットデリカ、サンドイッチや惣菜パンの材料になる予定です。食堂ピアーグへ卸売る分も含まれています。
「ウチの商会は、これだけの量を毎日仕入れてるのよ? あなたの集落で必要な量に不足かしら?」
ファラさんの言葉に、ピラミは
「じ、じ、じ、十分コン! この中の一部を売って頂くだけで十分コン」
そう言いながら何度も頷いていました。
そんなピラミを見つめながら、ファラさんはここでようやく優しい笑みを浮かべました。
「ま、ウチと契約しちゃうと卸売市場とその関連企業とは取引出来なくなっちゃうけどさ。絶対に損はさせないわよ。どう? この話にのってみない?」
ファラさんにそう言われて、ピラミはたすき掛けしているバッグの中から封筒と書類を取り出しました。
その書類には購入したい野菜の種類と量が書かれているようです。
封筒の中身はおそらく購入資金なのでしょう。
で、それを確認しながら、ピアグは不安そうな表情を浮かべました。
さっきのお店で「この金額じゃいままでの半分くらいしか売れない」みたいな事を言われていましたから、当然といえば当然でしょう。
すると、その紙を横から覗き込んでいたファラさんが
「ちょっと失礼」
そう言いながらお金の入った封筒を取り上げました。
そして、その中身を確認すると、
「これだけあれば、その紙に書かれている野菜を全部購入してもお釣りを返してあげられるわよ」
そう言い、にっこり微笑みました。
その言葉に、ピラミは満面の笑みを浮かべていきました。
ピアグはすぐにファラさんと契約を交わし、早速野菜を購入していきました。
ファラさんは倉庫の中身を完璧に把握していますので、準備するのにほとんど時間はかかりませんでした。
あっという間に、ピラミの持ってきた荷馬車は荷物でいっぱいになりました。
「ありがとうございますコン。これからもよろしくコン」
ピラミは何度もお礼を言いながら、その荷馬車を引っ張り始めました。
しかし、かなりの量ですから、ピアグはすごく辛そうです。
「大丈夫かい、ピアグ」
「あ、はい……週に一度はやっていますコン、大丈夫コン」
そう言って、さらに力を込めるピアグですが……パラナミオとちょっとしか年齢が違わない女の子が苦しそうにしている姿を見て、そのまま見過ごすというのもちょっと……
魔法袋を貸してあげることも考えたのですが、これも結構めんどくさいんです。
と、いうのもですね……
魔法袋を持ってナカンコンベの外に出る際には、その中身を一度すべて出し、検閲を受けてからでないと持ち出せない決まりになっているんです。
しかも、魔法袋の所有者は、確認作業がめんどくさいからという理由で検疫を後回しにされがちでして、ただでさえ時間がかかる検疫が、さらに時間がかかってしまうわけです、はい。
イエロ達のように狩った獲物の肉や毛皮しか入っていないというのでしたら多少優遇してもらえるんですけど、それでもいつもよりは時間がかかると言って、イエロも文句を言ってましたからね。
それに、魔法袋を貸すということに関してピラミは、
「こ、こ、こ、こんな高価な魔法道具を次回ここに来るまでの間ずっとお借りしてたら心配で心配で心臓が持ちませんコン」
そう言い、大慌てしながら首を左右に振ったんですよ。
「何かいい手はないかな……」
しばらく考えを巡らせた僕は、
「そうだ、ちょっと待ってくれるかい?」
「コン?」
僕はそう言うと、一度コンビニおもてなし本店へと戻っていきました。
裏口へ回り、倉庫へと入った僕。
その中には、
電気自動車コンビニおもてなし1号
電動バイクコンビニおもてなし君2号と3号
この3台がすぐ出せる場所に置かれています。
電動バイクコンビニおもてなし君1号はコンビニおもてなし5号店に置きっぱなしにしてあります。
僕は、電気自動車コンビニおもてなし1号の前に移動しました。
「あ、でも待てよ……」
このコンビニおもてなし1号は、積載出来る荷物量がそんなに多くありません。
テトテ集落へ行く際には荷物をすべて魔法袋へ入れて持って行っていますので問題はありませんが、今回は城壁の検疫にかかる時間を短縮したいと考えていますので、この手が使えません。
コンビニおもてなし1号では、ピラミの荷物を一度では運びきれない感じですね。
「となると……」
僕は、コンビニおもてなし1号の奥へ視線を向けました。
そこには、シートを被せられている大きな何かがありました。