子供達らぷそでぃ その3
テトテ集落の皆さんが作成してくださっていた子供服はかなりの種類と数、完成していました。
そのデザインの参考になっているのは、僕が元いた世界で通販見本として無料配布されていた本です。
「この本には珍しい服がいっぱい載ってましたけど、どれも可愛いですねぇ」
と、服の制作に携わっていたおばあさんたちは言っていました。
ただ、おばあさん達は服を制作している際にですね、
「ここはどうなっているのですかねぇ」
そんな事を僕によく聞いてこられていたんですよね。
料理は料理教室に通ったり自炊したりしていたので大抵のことでしたら聞かれてもお答え出来ますけど、服飾に関しては全く無知なもんですから、
「すいません、ちょっとわかりかねますねぇ……」
としかお答え出来なかったんですよね。
そんなわけで、テトテ集落の皆さんはほぼ独自の努力で創意工夫を重ねていかれまして、こうしてこの服を作り上げてくださったのです。
ルシクコンベから仕入れている布の質がいいのも相まって、パラナミオ達が着ている服はどれもしっかりしていて、とても可愛い物ばかりです。
パラナミオ達をモデルにした即席ファッションショーは、集落の皆さんの大歓声に包まれながら続いていきました。
1時間ほどで、すべての衣装の試着とお披露目が済んだところで、ファッションショーも無事閉幕となりました。
その後、僕はネンドロさんや作業をおこなったおばあさん達から出来上がった服を受け取りました。
木箱にして20箱近くあったのですが、魔法袋を持参していますので問題なくすべて積み込むことが出来ました。
「またいい見本があったら見せてくださいね」
集落のおばあさん達は僕にそう言いました。
確か、あの通販の無料カタログは結構残っていたはずです。
今度おもてなし商会テトテ集落店のリンボアさんを通じてお渡しすることを約束して、僕は電気自動車おもてなし1号へと乗り込んでいきました。
すると、広場から門に向けて集落の皆さんが道をつくるように左右に分かれて拍手しながらおもてなし1号を見送ってくださいました。
その拍手に送られながら僕達はおもてなし1号にのってテトテ集落を後にしていきました。
よく見ると、魔導船の定期便を就航させた際に発着場にする予定になっているタワーのところに
『リョーイチ店長いつもありがとう』
と書かれた真新しい垂れ幕が掲げられていました。
どうやら、僕もようやく家族みんなの垂れ幕の仲間入りをさせてもらえたようです、はい。
◇◇
ガタコンベのコンビニおもてなし本店へ戻った僕は、その日のうちにテトテ集落から持ち帰った子供服をナカンコンベのコンビニおもてなし5号店へ運び込みました。
まぁ、運び込んだと言いましても、魔法袋を持っていっただけなんですけどね。
「……さて、この中の商品をどうやって展示しようかな……」
5号店の店内を見回しながら僕は腕組みしていました。
5号店の店内は、すでに商品が目一杯詰め込まれている状態なんです。
子供服を陳列するスペースがざっと見た感じまったくないんですよね。
僕は、しばらく店内を見回していたのですが、ここであることを思いつきました。
店を出た僕は、その足で向かいのドンタコスゥコ商会へ出向きました。
「おや、店長さんではないですかねぇ、何かご用ですかねぇ」
ちょうど店内にいたドンタコスゥコが笑顔で僕を出迎えてくれました。
「うん、実はさ、またこの店の2階を貸してもらえないかと思ってさ」
「2階の催事場ですかねぇ? えぇ、ちょうど南方の果物展示即売会が終了したばかりですから1週間ぐらいでしたら問題ないですねぇ」
そう言うと、ドンタコスゥコはその顔に不敵な笑みを浮かべながら僕の側へつつつと歩み寄ってきました。
「……で、店長さん、今度は何をしでかそうとしていらっしゃるんですかねぇ? よかったらこのドンタコスゥコも一口噛ませていただきたいと思うのですがねぇ」
そう言いながら、僕の脇腹をウリウリとつついてきました。
そんなドンタコスゥコの仕草に苦笑しながら、僕は、
「実はさ、子供服の新商品が大量に入荷したんで、お披露目を兼ねて展示即売会をしてみようかと思っているんだ」
そう答えました。
何しろまだまだ未知数といいますか、僕が元いた世界の服飾のデザインがこの世界の人々にも受け入れられるか、まだ未知数なわけです。
なので、一度展示即売会を行ってみようと思い立ったわけなんです。
すると、ドンタコスゥコは
「ほうほう、それはとても興味深いですねぇ。我がドンタコスゥコ商会も服飾商品を結構扱っていますのでねぇ、とっても興味がありますねぇ」
そう言うと、ドンタコスゥコは店の奥から1人の店員を呼びました。
その店員は狐人さんのようですね。カラフルな毛の色をされています。
「この者、タマノといいましてですねぇ、ドンタコスゥコ商会の服飾担当なんですねぇ。もしよかったら商品を見せてやってほしいんですよねぇ。そのかわり展示即売会の手伝いをさせますのでねぇ」
「えぇ、私もぜひお願いしたいですわ」
ドンタコスゥコに紹介された狐人のタマノはにっこり微笑みました。
で、手伝いまでして頂けるのであれば僕としても助かりますからね、
「えぇ、こちらこそよろしくお願いします」
ありがたく、この申し出を受けることにしました。
で、そんな2人の前で、僕は持参してきた魔法袋の中から商品をいくつかとりだしていきました。
すると、それを見たタマノはいきな目を丸くしました。
「な……なんですの、これ?……こんなデザイン始めて見ましたですわ」
そう言いながら、僕が取り出した商品をマジマジと見つめていました。
その横で、ドンタコスゥコも目を見開いています。
この世界で服飾を扱っているドンタコスゥコ達がこんな反応をしているわけです。
どうやら僕が元いた世界のデザインは、この世界でも通用しそうな感じですね。
この後、僕達は早速催事場に子供服を展示し始めました。
僕が魔法袋から取り出した木箱を取り出すと、ドンタコスゥコとタマノはすぐにその中身を確認していきます。
で、それを服飾展示用の木型に飾っては、
「ほほう、これはまた斬新で可愛いデザインですねぇ」
「ですわねぇ、これは売れますわ」
そう言いながら、2人並んで商品を興味深そうに眺めています。
その横で、僕がまた新しい商品を展示すると、即座にそこへ駆け寄ってきまして
「ほうほうこれは……」
「えぇえぇとても……」
そう言いながら商品を見つめていくわけです。
で、気がつくと……
催事場の中は、ドンタコスゥコ商会の皆さんでいっぱいになっていました。
皆さん、
「これはすごいですわ」
「こんなデザインもあるのですねぇ」
「うわぁ、これ素敵」
そんな声を上げながら、商品を見て回り続けていました。
なんか、いつの間にかドンタコスゥコ商会の店員の皆さん相手の内見会みたいな感じになってしまっていたわけです、はい。
◇◇
翌日になりました。
ドンタコスゥコ商会の2階催事場をお借りしての
『コンビニおもてなし製子供服展示即売会』
が開催されました。
期間は1週間を予定しています。
急遽始めたのと、そのためあまり宣伝もしていなかったものですから午前中の人手はぼちぼちといった感じでした。
シャルンエッセンスに会場係として常勤してもらい、ドンタコスゥコ商会のタマノがお手伝いに入ってくださっていましたが、1人でも十分対応出来るくらいのお客様しかお見えにならなかったそうです。
「今日はこんな感じかな」
「えぇ、そうですわね」
お昼に様子を見に行った僕は、シャルンエッセンスとそんな会話を交わしていました。
……ですが
そんな僕達の思いは、あっという間に覆されました。
「ねぇ、コンビニおもてなしさんの子供服はどこで売ってるの!?」
そんな声が一階から聞こえてきたかと思うと、すぐさますごい数のお客さんが会場内になだれ込んできたのです。
「な、なんだぁ!?」
その光景を前にした僕とシャルンエッセンスは思わず目を見開いていきました。