3章 前途多難
アカネの二つの瞳には、見たことのない光景が広がることとなった。
二本の足や手を動かしてみる。意のままに操れることから、別世界で復活を遂げたとみなしてよさそうだ。二度目の人生を送れるなんて、夢を見ているかのようだった。
過労死する前は手足こそ動いていたものの、鉛を付けられたかのようだった。こんなにも自由に動かせるのは久しぶりだ。
一度目の人生は過労で倒れた。二度目の人生はそうならないように、スローライフを送ろうかなと思っている。ゆったりとした生活を送っていれば、自分の体を守ることができる。
アカネの目の前には、木の色が変色している家が建っていた。どれくらいなのかはわからないものの、500年以上は経過しているのではなかろうか。
指で触れていないにもかかわらず、おんぼろの家は左右に揺れた。ほんのちょっとの力を加えただけで、完全に崩れ落ちてしまいそうだ。
お化け屋敷さながらの家におそるおそる近づくと、「ご自由にお住みください」と書かれていた。誰も近づかない家だからこそ、空き家になっているように感じられた。要は誰もいらない家ということになる。
木が完全に腐っているのか、硫黄、アンモニアを混ぜたような匂いがする。家を放置したままだと、完全に腐ってしまうようだ。
変な臭いをかいでいるにもかかわらず、息苦しさなどはまったく感じなかった。メイホウのいっていた、スキルが発動していると思われる。臭いものをかいでも、息苦しくならないのは非常
にありがたい。
アカネはおんぼろの家の強度を調べるために、人差し指で建物に触れることにした。数秒後、解体工事をしたかのように崩れ落ちてしまった。
「こんなおんぼろな家で、どうやって生活するんだよ」
もともと住む気はなかったとはいえ、少しくらいは期待していたのも事実。アカネは少しだけショックを受けることとなった。住むところを見つけられなかったら、おんぼろで我慢しようと思っていた。家に住むことができれば、寒さしのぎ、プライベートの確保につなげられる。
家を所持していないため、宿くらいしか泊まるところはない。他人の家に侵入したら、不法占拠で逮捕されてしまうことになる。
宿に泊まろうにも、所持金は0である。お金を持っていないため、しばらくは野宿生活することになりそうだ。セカンドライフのスタート直後から、災難に見舞われることになった。転生資金として、100万くらいは準備してほしかった。
食事をしなくても生きていける、眠らなくていいスキルを所持しているのはせめてもの救いといえる。ご飯を食べる必要があったならば、数日であの世に旅立っていたと思われる。