第1話 唯一王 首宣告
晴天の朝。村のはずれ、人気のない森の中。
パーティーを組んで、初めてのクエストをする日のこと。
貧しい村「コーテリシ村」で結成したばかりの俺たちパーティー。「チーム・フレアファクション」がそこにいた。
「どんな強力な敵も、この雷剣で粉砕できるような最強の冒険者になりたい」
長身でツンツン頭。パーティーのリーダーらしく、明るくも冷静そうな態度。
俺の幼馴染だったアドナは強力な電気を纏った雷剣「ボルト=アスタロト」を天に向かって突き上げる。
そしてその剣から放たれた雷撃は、目の前にある人間と同じくらいの大きさの岩を完全に破壊。
彼は、このパーティーのリーダーとして、時には冷徹に、メンバーの勝利のためにあらゆる手を尽くす人物だった。
腰に手を当てたその槍使いは。アドナに一度視線を送った後、目の前にある巨木に視線を送る。
目つきが悪く、ドクロの首飾りをつけているのが特徴な男。ウェルキ。口が悪く、尊大な態度をとることがあるが、実力が確かな彼はそのパワーと豪快さでチームを引っ張った。
「俺は、どんな相手もこの力でねじ伏せる強い冒険者になる。そしてどんな力にも屈しないようになってやるぜ!」
ウェルキは自身の槍を見つめながら強く言い放つ。
そして近くにある巨木に向かって走り出すと、自身の槍を大きく薙ぎ払う。
巨木を根元から真っ二つに切り裂く。
その隣には、黒い衣服を基調とした、大人びた美しさを持った少女キルコ。
「私は、この国で一番美しくて、端麗な魔法使いになりたいわ」
キルコが杖をくるりと振り回すと、黒い球状の光が現れ、彼女の手の動きに合わせて光がよろよろと動いている。
彼女は冷淡で美しい美貌を持ち、美しさと強さを兼ね備えていた。
その美しさは、村一番とも呼ばれ、村人たちの男たちを虜にしている。
小柄で幼い顔つきに、水色のワンピースとミニスカートを着た少女、ミュア。
水と氷に関する魔術の使用適性が高い少女だった。
「私、世界一綺麗で、可憐で、後ろでみんなを支える冒険者になりたいです……」
ミュアが先端が解けない氷でできた小さい杖を前方に向けると、水でできた球状のボールが5~6個ほど出現し、彼女の視線の先に解き放たれる。
彼女は攻撃もさることながら、防御の術式も強力。彼女が繰り出す防御術式は受け流すこと水のごとく強力な攻撃を吸収し、無力化してしまう。
彼女には聖水結界という強力な結界を精製する力がある。彼女は鉄壁の防御術水の要塞と呼ばれ、そのおしとやかな性格と相まって、他の冒険者からの人気も高い。
そして俺、フライ。
ローブ姿で彼らの攻撃を見ながら、そっとつぶやく。
「俺は、Sランクパーティーになったら……、みんなをサポートして、陰から支えたい」
俺たちパーティーは互いにどんな冒険者になりたいかを本音で語り合う。
するとリーダーのアドナが俺たちに視線を向けた後叫ぶ。
「一緒にSランクのパーティー目指して頑張ろうぜ!」
そして俺たち五人は右手を合わせ──。
「チーム・フレアファクション」
「「「「「オー」」」」」
そして俺たちは初めてのクエストを成功させるため、森の中へと進んでいた。
この時の記憶は今も鮮明に残っている。
俺たちは故郷のコーテリシ村を出て、王国最大級の都市クラリアで冒険者パーティーとして活動していた。
コンビネーションが合っていて、才能もある仲間たちで構成されていたため、どんどん俺たちはランクをうなぎ上りに上げていく。
気が付けば俺たちはSランクパーティーになっていた。
だが、それはいいことばかりではなかった。
俺たちが冒険者パーティーとして成り上がっていく中、スキル、魔力に恵まれた他の冒険者たちと俺との間で差が出てしまったのだ。
それは俺たちの適正職業がわかった時から、始まっていた。
パーティーで活動が認められるようになる直前。
14歳になった時、俺たちは街の教会で、祭司の人から適正職業を告げられることになる。
アドナは剣士。
ウェルキは槍使い。二人とも、パワーも魔力もあり、イメージ通りの職業。
接近戦では無類の強さを発揮することだろう。
キルコは、様々な術式が使え、遠距離、近距離、どちらでも戦える汎用性が高い職業「魔女」。ミュアはサポートや遠距離攻撃で強力な威力を発揮する「魔法使い」。
どちらも自分が望んでいた職業。本当にうらやましいし、良かったと思っている。
そして俺。祭司から告げられた職業、それは「精霊王」という聞いた事がない職業だった。
「も、申し訳ありません。精霊王ですか、聞いた事がない」
唯一無二のスキルであることがわかり、当時は大騒ぎとなった。
「唯一無二だってフライ。お前すごいじゃん」
「そうよ。あなた出世するかもしれないわ」
仲間たちも、この当時は俺のことを羨ましそうにたたえていた。その時の四人の羨望の眼差しを、今は覚えている。
祭司の人は少し腕を組み、考えこんだ。そして、後ろにある戸棚から古びた本を手に取り、俺たちの前へ。
ぱらぱらと本のページをめくり、後ろの方にあるとあるページを開き、真ん中の部分を指さす。
「これです。フライさんの精霊王という職業は」
そこに書いてある内容。それは精霊がどこでも存在できるようにする彼らとの懸け橋と書いてあった。
精霊というのは、この世界でもまれな存在、通常では精霊の加護のある場所でしか生きられない。
しかし、精霊王がそばにいることで、彼らはどこでも存在することができるという。
「分かりました。自分の使命が果たせるように、頑張ります」
祭司の人に熱い視線を送りながら、俺は強く掛け声を出す。
この時は俺も、この職業になったのは何かの運命だと考えていた。一生懸命頑張って、役に立とうと決意していたのだ。
そして俺たちは冒険者パーティーとして活動を開始。
活動していくうちにわかったのだが、この職業、使い勝手が悪い。
精霊というのは強力な力を持つ一方、ゴブリンとかみたいにそこら中にいるわけではない。何しろ対象となる精霊というのは、ダンジョンの奥とか、海底の底の底とか一番行きずらい所にいることがほとんどだ。
そして大抵はそこの主のような存在であり、世界でも珍しい存在。
だから俺だけはクエストでもその職業を生かせず、唯一使える適性がある炎属性の魔法を使っている。
この王国ではだれも持っていない唯一無二のスキルを持っていること、使える魔法の属性が「炎属性」ということで俺が周囲からつけられたあだ名が「炎の唯一王」だ。
精霊がいないとはいえ、やれることはたくさんある。
サポートの術式が豊富に使えることもあり、戦いでは前線のサポートや、時には盾になってみんなを守る。
特に仲間たちに炎の加護を与えてすべてのダメージを半減させる「フレイムガード」はこの国では俺しか使えない、他のサポート術式の上位互換ともいうべき存在で、それなりに貢献しているつもりだった。
それだけではなく、仲間たちの荷物持ちなども積極的に行い、雑用や調理、案内役まで裏方のサポートをこなしていた。
仲間たちがスキルを活かして華々しい活躍をしていくとは対照的に裏方での活躍が大きくなる。
仲間たちは、戦っていく中で次第に認められていった。強い敵を倒していくごとに「さすがだ」「天才の誕生だ」と有名に。勲章をもらい、周囲から上級冒険者としてこの国でも有数の冒険者となった。
しかし俺だけは違った。俺の貢献は、全く理解されていなかったのだ。
今日、クエストの前日。誰も攻略したことがないダンジョンを攻略。そしてそこにあるとされている貴重品の宝玉、「エメラルドのヒスイ」を手にするため、目的の洞窟の外へたどり着いた俺たち。
街道沿いから遠い砂漠の秘境地帯だったため、たどり着いたころにはすでに日が暮れ始めている。
丸一日砂漠を歩いた後、地図に記された場所にたどり着く。オアシスのような場所、そこの中心に地下へと続くダンジョンへの穴。
このダンジョンにはとても強い主がいる。ということでSランクパーティーの俺達に仕事が回ってきたのだ。
夜に侵入するのはさすがに危険だと俺が説得をした結果、今日はキャンプで一晩過ごし、次の日に明るくなってからダンジョンに入ることとなった。
そして俺はすぐにキャンプを張り、カバンを開けて仲間たちの夕食の料理を作る。他の仲間たちは。歩き疲れたせいか休んだり、のんびりしたりしている。
すでにこういった雑用は、俺がやるというのがパーティーの中で暗黙の了解となっている。
「準備はできているんだろうな、唯一王」
「ああ、大丈夫だウェルキ」
「早くしろ。俺たちはずっと足場が悪い道をここまで歩いてきて疲れ切っているんだ。あまり待たせるな」
「そうよ。私だって早く食事がしたいわ」
キルコとアドナも強くせかしてくる。
ったく、俺だって疲れているというのに──。
そして一人でテントを立て、料理を作りながら、仲間たちの話を遠目に聞く。
「おい 化粧用具まで持ってくのかよ。そんなのホテルに置いとけよ。邪魔なんだし」
「いやよ。この化粧用具高かったんだから。それに持たせるんだって、雑用役に持たせるんだからいいでしょ。別にあんたたちの手を煩わせるわけじゃないし」
「ははは、そうだな」
ウェルキが軽はずみに笑い飛ばす。雑用係の俺が、多少荷を負っても構わないという認識なのだろう。
そしてキルコ、小悪魔のような外見。
闇属性の魔法使い。冒険者の中でも最高クラスの耐久を持ち、強いからめ手としながら味方をサポートすることで有名な冒険者。
美人というべきルックスであるが、性格が悪く、いつも俺を見下しでいた。
今回も、俺の荷物が重くなろうが構わない。自分のことの方が大事だという認識なのだ。
他のパーティーたちも、その言葉に異を唱える者はいない。
だが、これから起こることに比べれば、こんなことはまだ生易しいものだったと俺は知る由もなかった。
俺は料理を終え、仲間たちに出す。
ここに来るまで、先頭を歩いてトラップや動物などを退治していてさすがに疲れている。
恐らくこの中で一番疲れているだろう。
そんな俺に対して、仲間達の言葉はドストレートだった。
「へっ。まずい料理だな。これで我慢してやっているだけありがたいと思えよ。無能」
「そうよ。他に食い物がない状況じゃなかったら皿ごと捨てているわ。ゴミ」
しょうがないだろ。香辛料とか、調味料だってそこまで持っていけないんだし。塩くらいしかない中でうまく味を工夫したのだが、彼らにとっては何も感じなかったようだ。
気まずい雰囲気の中、何とか俺たちは食事を終える。もちろん後片付けは全て俺がやった。
そしてその後、汗をかいてしまったため、近くにある川で一人づつ水浴び。当然俺は最後。
水浴びを終え、仲間たちの服を川で洗う。
──その後のことだった。俺に残酷な事実が告げられたのは。
俺が籠にたたんだ衣類を入れ、他の仲間たちに渡そうとしてテント入口に立ったとき──。
「本当に、このクエストが終わったらフライを首にするんだな?」