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南方より来たりて その1

 入札の数日後、ナカンコンベ商店街組合のレトレがコンビニおもてなし5号店へとやってきました。
 店の営業が終了した頃合いを見計らってやって来てくれるあたりは、さすがの気配り具合です。
 で、やって来たエレエはいきなりプリプリ激怒モードでした。
「ホントにもう、あのポルテントチーネには……開いた口が塞がらないですです」
 
 先日の入札終了直後から、ポルテントチーコについて調査を行ったエレエなのですが、
「ポルテントチーネに妹など存在しないことが発覚したですです。発行されていた商会の営業許可書も全て偽造された物だったですです」
 そう言いながら、プリプリ怒っているわけです、はい。

 まぁ、この件に関しましては、あの日の参加者のほぼ全員がそう思っていたのですが、エレエの発言は自分達が調べ上げた揺るぎない証拠に基づいていますので、言葉の重みが違うわけです。
で、この結果によりまして、ポルテントチプコ商会並びにポルテントチーコに関してポルテントチーネを呼び出して詰問もしたそうなのですが、
『私は被害者よ、勝手に名前を騙られたのよぉ。ホント困っちゃうわぁ』
 と、まぁ、終始この調子で、この件に関しては一切関わりを認めていないんだとか。
 ただ、エレエ達が入手した証拠にしても、ポルテントチーコ並びにポルテントチプコ商会が実際には存在しないことを立証出来てはいるのですが、ポルテントチーネとポルテントチーコが同一人物であることを証明出来る物ではなかったそうでして、こうやって『名前を騙られた』『私も被害者』と主張されてしまうと、さらなる証拠を探しだして提示する必要があるんだとか……

 エレエの話を聞きながら、僕は思っていた疑問をエレエにぶつけてみました。
「しかしポルテントチーネってば、いくらでも金が出てくるんだね。今は店は開店休業状態なんだろ? その上あんなに賠償金をほいほい支払っているというのに、何かある度に顔をだしてきているし……」
 僕の言葉を聞いたエレエは、首をひねりながら渋い顔をしました。
「タクラ店長様の仰る通りなのですです……そこは私達も疑問に思っておりまして、力を入れて調査しているところなのですですが……まだ証拠物件が揃っていないですですけど、やはりバックに大きな組織がいるみたいなんですです」
「ポルテントチップ商会のバックにいると聞くとまともな組織とは思えないけど……」
 僕の言葉にエレエはこくりと頷きました。
「その通りですです……タクラ店長様は、闇の嬌声という組織をご存じですですか?」
「あぁ、あれでしょ? このパルマ世界の裏の世界を取り仕切っていたっていう闇の組織でしょ」
「どうもですですね、あのポルテントチーネはその闇の嬌声の構成員といいますか、その筆頭格のようですです」
「え? そ、そうだったの……」
 エレエの言葉を聞いた僕は思わず顔を片手で覆いました

 闇の嬌声と僕達コンビニおもてなしは以前から何度かやりあっています。
 その都度、みんなで力を会わせて撃退し続けているのですが……その闇の嬌声の筆頭格って……
 ただ、そう聞かされると色々納得出来るわけです。
 今の闇の嬌声は、根城にしていた都市を追われて各地を転々としながら活動を続けていると聞いていますが、相変わらずあちこちで阿漕な商売を続けていて、不法な収益を得ているらしいですからね。
 そんなバックがあったからポルテントチーネはいくらでも金を出すことが出来ていたのでしょう。

「とにかく、我々商店街組合はポルテントチーネをさらに取り調べるですです。絶対にその悪事を全て暴いてみせるですです」
 エレエは、そう力強く断言してからコンビニおもてなしを後にしていきました。

 僕というか、コンビニおもてなしとしましては、ピアーグの件がうまく片づきましたし、ルア工房の新店舗も着工にこぎつけましたし、あとはマクローコのお店が無事に戻ってくればさしあたって問題はなくなるわけです、はい。
 若干嫌な予感がしないでもないのですが、このまま全てが丸く収まることを祈って止みません。

◇◇

 ポルテントチーネの件は頭が痛いものの、気にしすぎても仕方ありませんのでここはあえてその存在を頭の中から消しておくことにします。
 変に警戒し過ぎたりして、店の営業に支障を出したりしてはいけませんからね。
 
 で、5号店の営業なのですが、今のところ順調に推移しています。
 人口が多い都市だけありまして1日の来客数が全店舗の中でダントツです。
 新規雇用した店員が多いこともありますので、毎日各支店から数名の助っ人にきてもらっています。
 もっともこれは、その助っ人がいないと店が回らないというわけではありません。
 各支店のみんなに、5号店の雰囲気を実感してもらうために行っているわけです。
 まぁ、あんまり偉そうな言い方をしてしまうとあれなのですが、現状に満足すること無く常に向上心を持って頑張って欲しいと思っているわけでして、その一環になるかなぁ、と思っている訳です、はい。

 そんなある日の事です。

 早朝、いつもの時間に5号店へ顔を出した僕に
「店長、ちょっとスア様を呼んで欲しいんだけど、いいか?」
 おもてなし診療所のテリブルアがそう声を掛けてきました。
「何かあったのかい?」
「あぁ……ちょっと面倒くさいことが起きててさ……」
 テリブルアはそう言いながら眉をしかめました。

 テリブルアの説明によりますと……
 何でも最近、未明におもてなし診療所へとやってくる患者さんが急増しているんだとか。
 その多くは風俗街にある店に勤務している女の子なんだそうですが、風俗街とは無関係の人にまで感染者が出ているんだとか。
「感染ってことは、流行病なのかい?」
「実はさ、アタシもあんまり見たことがない症例でさ……それでスア様にも見てもらおうかと思ってね」
 テリブルアはそう言いました。
 ただ、スアの万能薬でその症例はほぼ完璧に押さえられているんだそうです。
 その噂が噂を呼んで、おもてなし診療所に患者さんが押し寄せているんだとか。
 ただ、テリブルア的にも、薬が効いているからといってその病気の正体がわからないままでは気持ちが悪いし、本当に駆逐出来たのかの確信が持てなかったもんですから、スアの意見も聞きたいと思ったそうなのです。

 で、僕が脳内で呼びかけると、
「……お待たせ、ね」
 スアはすぐに転移魔法で来てくれました。
 テリブルアは、スアを連れて診療所へと入っていきます。
 すると、そこには患者さんが1人待っていました。
 今日の最後の患者さんだそうで、例の病気にかかっている方だとか。
 で、スアは診療所に入るとその患者さんの手にそっと触れました。
 しばらくそうしていたスアは、ふんふんと頭を振りまして、
「……オルパ熱、ね。南方の風土病、よ。」
 そう言いました。
 すると、スアの言葉を聞いた患者さんは
「南方!? あぁ、それなら思い当たる節があるよ!」
 そう声をあげました。

 なんでも、今、このナカンコンベの街に遙か南方の都市から買い付けにやって来ている商会の荷馬車隊がいるんだとか。
 で、その商会の店員達が夜な夜な風俗店に大挙して出入りしているそうでして……

 スアとテリブルアは早速、
「……万能薬も確かに効果はあるけど、こっちの方がいい」
「あぁ、これでもいいんですね。確かにこれなら副作用も少ないし値段も若干安くすみますし」
 そんな打ち合わせをしながら患者さんの治療をしていました。

 患者さんが帰った後、僕とスア、そしてテリブルアの3人でこの件を相談しました。
「南方からやってきた商会が絡んでいるかもしれない案件だし、エレエに話をしてみるよ」
 僕はそう言いました。
 スアも
「……その方がいい。この病は致死率は低いけど、長く続く、から」
 そう言って僕の意見に賛同してくれました。

 と、いうわけで、5号店の営業が一段落したらナカンコンベ商店街組合へ顔を出してこようと思います。

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