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 テーブルについて身体のバランスを安定させ、ソファにかけるトウマさんの映像を認識しながら描写した。
 表情はないが思慮深そうな顔立ちに、少し長めのくせのある黒い髪。
 体格は中肉中背、肌は色白。
 曲線をえがくことは難易度が高く、陰影をつけることは不可能だった。
 結果、直線とあやまった線が混在した不可思議な絵が完成する。
 トウマさんはスケッチブックをひと目見ると、あきらかにに表情をゆるませた。
「おもしろいね。ぎこちないのにバランスはいいし、特徴もとらえてる」
「筆を運ぶ際の手首や指の力、角度の微調整が必要なようです。学習すればトウマさんの描いたものに近づけるかも知れません」
 プログラムをインストールされていなくても、命令に対する結果をオーナーが新たに学習させてくれれば、同様の動作ができるはず。
「どうやって学習するの?」
 わずかに笑顔で、問いかけられる。
「トウマさんの筆の運びを見せていただき、実行し動作を修正してゆけばよいかと思います」

 トウマさんは私の顔を何度も見つめて、筆を走らせた。
 ランダムで大胆な動きと繊細で規則的な動きが入り交じり、再現するには学習に膨大な時間を要するだろう。
 完成したスケッチは、着色はされていないが掃除の際に鏡で見た私と同一人物であると認識できた。
 二十代女性の丸みのある輪郭、温厚な印象。
 くせのないショートヘアにはあまり陰影がついていない、ミルクホワイトのウィッグだ。
 わずかに違いを感じる部分はトウマさんの学習不足ではなく、私をこう描きたいという気持ち、彼の画風だと思われる。
「片づけとスケッチの学習、どちらを優先しましょうか?」
 どちらも急ぎの用件ではない。
 トウマさんが望む用件を実行する。
 トウマさんは考えるようすは見せず、静かに答えた。
「スケッチの学習がいいな。ヒナタがここからどう上達するのか、学習の過程も見てみたい」

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