(5)
……珠雨……
ごめん ごめんね 許して
ママが……いてあげる
珠雨が……なる ま で……
珠雨は夜中に息苦しくなって目を覚ました。
じっとりと嫌な汗をかいている。薄闇の中で部屋を見回して、ここが自分が間借りしている部屋であることを認識する。
「うわ……夢か」
時計を見ると日付が変わっていた。昔一緒に暮らしていたあざみちゃんが禅一と同一人物であることが明るみになったせいだろうか。ぐるぐると妙な夢を見た。
枕元にあったスマートフォンを手に取り、入っていたメッセージを確認する。予定について念の為の確認だった。
こんな時間に返事するのもどうかと思ったが、相手が宵っ張りなのを知っていたので軽く返信をする。SNSも見始めるとキリがないのだが、少しだけチェックする。
(あ、そうだ……禅一さんこの前……)
洋書の翻訳をしていると言っていた。ふと気になり「浅見禅一 翻訳」で検索をかけるがヒットしない。そもそも本名で書いているとは限らなかった。
ただ、目的の検索は出来なかったが、禅一の友人か誰かが過去にネット上にアップした個人的な写真がヒットして、それは珠雨の記憶の中のあざみちゃんと近い容姿だった。思い出補正で可愛いのかとも思ったが、そうではなかった。
(何このあざみちゃんめっちゃ可愛い)
まじまじと見つめる。
今でも眼鏡を外して同じ髪にしたら、確かにこんな感じになるのだろう。しかし今になって見ると、性別は認識出来る。
しばらくその写真を眺めて色々考えていたが、喉が渇いたので二階に作られたキッチンに向かい、ウォーターサーバーから水を貰う。階段から一階の照明がまだ点いているのが見えた。
禅一の部屋も二階だが、一階で氷彩と話しているのかもしれない。久し振りに会ったのだろうし、積もる話もあるだろう、とそのまま自室に戻ろうとしたが、独特の気配に何が起きているかなんとなく察する。
(……まあ、禅一さんも男ってことで……仕方ない)
本当はどうにも気になっていたが足早にその場を去り、イヤホンをして再び眠りに就いた。