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昨日禅一に母の来訪を告げられていた珠雨は、授業が終わると何故か直帰することはせず、寄り道をしていた。
しとしとと雨の降りしきる中、駅前の本屋でしばらく本を物色したり、デパ地下を意味もなくうろついてみたり、なかなか帰ろうとしないでいたら、痺れを切らしたのかスマートフォンが着信を知らせる。
氷彩だ。音声通話ではなく、ビデオ通話になっている。画面に映る母の姿は「母」と呼ぶにはだいぶあでやかだった。禅一と会うのに気合いを入れてきたのだろうか? 氷彩は母である前に女だった。ただそれは、珠雨を蔑ろにしているわけではない。
「珠雨、いつ帰って来るの」
「あーはい。もう帰ります。今出ました」
「そば屋の出前じゃないのよ。すぐ帰ってきて。あっその後ろに映ってるお惣菜美味しそう。買ってきてくれない?」
言いたいことだけ言って、切れた。
どのお惣菜だかわからない。そば屋の出前って一体なんだと思いながら、珠雨はぐったりため息をついて、背後に映り込んだであろうお惣菜達の中から、自分が食べたいと思う物を一品選択し、仕方なく手土産とした。