第61話 交流
模擬戦も終わり、僕たちはギルドの打ち合わせ室で最後の話し合いをしている。
「では、天の剣とグランの翼は、キュクロプスアンデッドと遭遇するまでファイとミューのサポートを行い、遭遇次第離脱。ファイとミューは、キュクロプスアンデッド単独パーティーにて討伐を行うということでいいな」
全メンバーが頷くのを確認しホセさんが纏める。
「では明日早朝、西門集合し、討伐に向かってもらう。解散」
ギルドから帰ろうとした僕たちに声を掛けてくる人が
「おい、よかったら飯でも一緒に食わないか。非礼の詫びにおごるぞ」
天の剣リーダーのウィレムさんだった。
「おいおい、抜け駆けは無しにしようぜ天の剣さん」
続けて声を掛けてきたのはグランの翼リーダーのイジドールさん
「実力のある冒険者とわたりをつけておきたいのはお前さんたちだけじゃないんだぜ」
結局3パーティー一緒に食事をすることになった。これからの展開はある程度予想できる。あの祝賀パーティーで有力者達がやってきたことの冒険者版なのだろう。正直なところ気が進まないけれど、同じ依頼を受ける以上あまり邪険にするのもまずいだろうと食事だけならということでギルド近くのレストラン兼酒場にやってきた。昼食だから酒は入らないだろう。と、考えた僕が甘かった。
「とりあえずエール人数分」
いきなりのオーダーはウィレムさんから
「すみませんが、僕とミューはエールじゃなく果実汁にしてください」
「おいおい、こんな時くらい、いいじゃないか。飲めないってわけでもないんだろ」
せっかくのウィレムさんのお誘いだけれど、飲んでうっかりフェイウェルとかミーアの名前を出すわけにはいかない。
「すみません。事情があって僕たちは酔うわけにはいかないんです」
「で、その事情ってのは話しちゃ貰えないんだろうな多分」
ウィレムさんの問いに、僕たちは首を横に振るしかない。
「すみません。これはどうしても言えません」
「まあ、良いじゃないか。犯罪者以外なら事情を問わないのが冒険者。そしてその事情を詮索しないのも冒険者の暗黙のルールだ」
イジドールさんのとりなしもあり、その後は普通に雑談をしながらの食事になった。
「ファイとミューは夫婦なんだってな。年はいくつなんだ」
「僕は17になったところですよ」
「あたしは16です」
「若いな。その年で結婚してしかもその強さ。どんな経験を、いや修羅場をくぐってきたんだ」
「そうだよな、あの容赦の無さとか。普通結界があって生き返るって知っていても人をあそこまでバッサリ切れるものじゃないと思うんだが」
「幼い頃から一緒に魔獣を狩ってきてたってだけですよ。情けを掛ければそのままこちらの命が危ないですからね」
「それだけでそこまで、いやこれ以上訊くのは野暮か」
「それはそれとして、お前らなんで4級なんだよ。お前らの強さなら登録時に1級はギルド本部の承認がいるから無理にしても2級なら登録できただろう」
「目立ちたくなかったんですよ。いえ、正確に言えば目立つわけにはいかなかったんです。辺境の地での新人冒険者夫婦がいきなり2級ってどれだけ目立つか分からないですから」
「それは、あれか。お前達の事情絡みか」
僕たちはこの質問には沈黙で応えるしかなかった。
「あと、模擬戦の最後。ダニエラが魔法を放つスキを与えたのは何故だ。お前達の実力、意識なら本来問答無用で切り捨てる場面だろう。それに魔法が直撃したはずなのに無傷でってこっちは詮索すること自体が冒険者のタブーだな、忘れてくれ」
「簡単に言えば、あなた方のパーティーがきれいごとで動くのか生き汚くあがけるのかを知りたかったんですよ」
食事を終えた受注メンバーは、三々五々明日の準備のために移動を始める。目的は、主に消耗アイテムや食料の調達だ。
「じゃあ、明日」
僕たちも最低限の補給のためにいくつかの店を回ることにしている。少々長い数日になりそうだ。