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第60話 模擬戦

 結局模擬戦を行うことになった。そのため、今はギルドの管轄する郊外の闘技場に来ている。半径おおよそ100メルドの闘技場で、僕が勇者様と決闘をしたのと同じ結界が張られている。通常の模擬戦では木剣をつかうので、ここまでの準備は不要なのだけれど、今回の場合は相手に魔術師がいるため、ここを使うことになった。そして、このため武器も当然のようにすべて真剣を使う。僕たちももう十分に稼いでいるので本来の僕たちの愛剣を腰に吊るしている。僕はオリハルコンコートのブロードソードとミスリルのハンド・アンド・ハーフソード、ミューはミスリルの短剣とオリハルコンコートの短剣だ。相手もさすがに1級冒険者パーティだけあって装備が充実している。戦士職の2人はどちらもミスリルコートのフルプレートに盾は、あれはミスリルかな。スカウトの2人はミスリルのナイフにハードレザーアーマーに要所にミスリルのプレートで補強を入れてある。魔術師と僧侶は布装備だけれど、あれは祝福で強化している感じだ。魔法の発動体もエルダートレントのスタッフや見たことの無いような特殊な杖を持っている。そこまで観察してから僕はミューに話しかける。
「向こうは重装備の戦士が2人いるから、多分その2人が足止めをしてきて、その間に魔法を飛ばしてくるんだろうね」
「そうね。で、そっちに目が行っている間にスカウトが後ろに回ってくる感じかな」
「足で前衛を抜いていきなり後衛を叩いてもいいんだけど。力試しだから正面から叩き潰そうか」
「ファイ、悪い顔してる」
「そりゃそうだよ、本来なら必要もない事をするんだから。少しは意趣返しをしたい」
そんな話をしているとホセさんから声が掛かった。
「集まってくれ」
三々五々集まる2パーティー9人と僕たち2人。
「ルールを確認する」
ぐるりと見回しながら言葉を繋ぐホセさん。
「天の剣とグランの翼の合同パーティーとファイ、ミューの2人の模擬戦。武器も魔法も使い放題。どちらかが全員戦闘不能になった時点で終了だ。この闘技場では結界により、もし死んでも勝負終了後には蘇生するから全力でやって大丈夫だ。またファイとミューの事情により観客は入れていない。以上、質問はあるか」
誰も口を開かない。簡単明確なルールだ。
「無いな。では位置につけ」
僕とミューは闘技場の中央当たりに僕がやや前に並んで立つ。僕たちの正面30メルド程の距離をおいてウィレムさんとイジドールさんが盾を掲げて立っている。他の7人はその後ろ15メルド程の位置でそれぞれ構えている。さすがに1級冒険者パーティー、布陣にはスキがない。けれど、僕たちはその布陣ごと食い破るつもりでいる。お互いの布陣が終わったのを見届けホセさんが号令をかける。
「では、双方全力を尽くすように。始め」
合図とともにウィレムさんとイジドールさんが駆け寄ってくる。前衛の戦士職が僕たちの動きを制し後衛の火力で削る教科書通りの素晴らしい動きだ。後衛を見やるとスカウトの2人が隠蔽を発動して両サイドに走るのが見えた。どうやら僕には効果がないようだ。けれどミューはどうだろう。
「後方でスカウト2人が動き始めたよわかるかな」
「だめ。あたしには発見できない」
「わかった。とりあえず探知を10メルドくらいで展開しておこうか」
話ながら僕たちはゆっくりと歩を進める。後方の魔術師から火の玉が飛んできた。ファイアボールの魔法だ。僕はオリハルコンコートのブロードソードを一閃し、魔法の中心を切り霧散させた。天の剣とグランの翼に動揺が走るのを感じながら、僕たちはウィレムさんとイジドールさんに向かって走る。2人は盾を構え身体をその陰に隠す。とは言え重装歩兵のタワーシールドとは違い完全に隠れるわけではない。そのうえ彼らの重装備では僕たちの速さにはついてこれない。僕とミューは、初撃を敢えてその盾に強く叩きこみ、その反動も利用してそこから一気に斜め前に入り込む。戦士の彼らには僕たちは消えたように見えたことだろう。死角からそれぞれが首を掻き切る。これで前衛の盾は排除した。次は後衛の魔術師と僧侶と視線を向けたところで僕の探知に反応がある。スカウトが後ろから迫ってきているのを感知したのだ。僕は走る速度を調整してミューを先に行かせ、振り返りざまに両手の剣を振るう。上位魔獣さえ両断する剣撃により2人のスカウトはそこに倒れた。そこまで終わらせ僕が振り向いたところに、ようやく魔術師から2回目の魔法が飛んできた。狙いはミューのようだ。ミューもオリハルコンコートの短剣を一振りし魔法を散らしている。そして、後衛の護衛として残されていた軽戦士を1刀のもときりすて、残る魔術師と僧侶に短刀を突き付けていた。
 僕もそこに歩み寄り
「勝負ありだと思うのですけど」
と降伏を求めると
「強いのは分かった。切らないでくれ」
と1人の僧侶が手を挙げた。僕はそっとミューの前に出て、剣を下げ様子をみる。そこに魔術師がファイアボールの魔法を放ってきた。
「甘いんだよ、決着がつくまでに剣を下ろすなんてな」
爆風がおさまり視界が開けたところで
「まあ、そんなことだと思いましたよ」
僕の言葉に呆然とする魔術師に僕とミューが剣を同時に突き刺した。残った僧侶2人は
「バカな、直撃だったはず……」
その言葉を最後に僕とミューの剣が2人の首を薙いだ。

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