第47話 再登録
僕とミーアは聖国を脱出し、今帝国の辺境伯領にいる。辺境伯領は一部を聖国と接し、残りの帝国国境は魔の森と呼ばれる魔獣の跋扈する森に接している。魔獣の領域から人の領域を守る、それが辺境伯の大きな役割だ。僕たちが向かっているのは辺境伯領の領都。そこでリチャード・アレックス・グラハム辺境伯を訪ねるつもりだ。
「しかし、ギルドが使えないのはつらいな」
今の僕たちは聖国から逃げているところなので、ギルドカードを大っぴらに使うわけにはいかない。たしかにゲーリックさんは事情を分かってくれて匿ってくれた。しかし、表向きは犯罪者扱いなのだ。『”故意による”結界破壊』それが罪状だった。いまのところ経験していないが、街によっては身分証明書としてギルドカードの提示を求められることもあるらしい。
「そうね、今のところお金に困ることはないから、そこのところだけは不幸中の幸いだけど。動きにくいのはなんとかしたいね」
ミーアも不安に感じているようだ。
「いっそ別人になるか」
「え、別人になるってどういうこと」
「未登録ということにして、偽名で新規登録をするんだよ。幸いこのあたりまでくれば、僕たちの顔を知っている人はいないだろうしね。10級からやり直しになるけど、そこはかまわないだろ」
「そうね、むしろ10級からやり直した方が良いかなっても思うかな。あたしたちってスタンピードの関係でいきなり2級だったもの」
「よし、じゃあ次の街、たしかベルンだっけで登録しちゃおうか。ただ、夫婦の狩人ってのは目立って連想されそうだから、登録は軽戦士あたりで」
街全体が石の壁で囲まれた、辺境伯領のいくつかある拠点の街ベルンに僕たちは着いた。ここまでしっかりした壁のある街なので当然のように街の門を守る衛兵が居た。身分証無しで入れるだろうか。見ていると一部の人は身分証提示のみで街に入っていっているが、多くは身分証の有無にかかわらず何かに手をかざしている。そんなことを見ているうちに僕たちに順番が回ってきた。
「来訪の目的は」
衛兵は簡潔に聞いてきた。
「妻とふたりでギルドへの登録をしに来ました」
「ということは身分証は無いのだな」
「はい」
「ふむ、まあ、まずはここに手をかざすように」
何か白濁した半球状のものを示された。
「なんですか、これ」
「街に入れていい人物かどうかを判定する魔道具だな。具体的には主に過去に犯罪を犯していないかを確認する。青から白の色で光れば街に入れる。黄から赤、もしくは黒の場合は街に入れない」
犯罪者は街に入れないってことか。僕たちは冤罪なんだけど、引っかからないよね。とりあえず言われたように手をかざすと魔道具が光った。綺麗な青い光でちょっと見とれてしまった。
「よし、次」
ミーアも同じように手をかざし、同じように青く光った。
「二人とも問題ないな。滞在許可証を発行する。1人中銀貨1枚だ。」
お金を払うと、羊皮紙に何か刻印されたものに衛兵が何かを書き渡してきた。
「これがこの街の滞在許可証兼簡易身分証だ。期限は10日、ギルドカードを作ったらそれと一緒にここに持ってこい。ギルドカードに期限が無期限の滞在許可をだしてやる」
僕は2枚の身分証を受け取り、1枚をミーアに渡したうえで返事をする。
「はい、ありがとうございます。それでギルドはどこにあるか教えてもらえますか」
「ああ、ギルドな。ここから街の中心に向かって真っすぐの道がメインストリートなんだが、この道をまっすぐ3ブロック進んだ角を左に曲がって2ブロック行くと右側に剣と盾の看板がある。そこがギルドだ」
「ありがとうございます。さっそく行ってみます。ミュー行こう」
「うん、ファイ今行く」
ミューはミーアのファイは僕の新しい名前。これから僕たちは少なくとも聖国で害されることのないだけの力を手に入れるまではミューとファイとして生きていく。今のままでは故郷に帰ることも出来ない。なんとしても力をつけないと。
聞いたとおりの道を移動するとギルドは簡単に見つかった。入口はどこも似たようなものらしい。僕たちは迷うことなくその入口をくぐる。入口の左側に酒場、右側に冒険者達がたむろしている、待ち合わせや臨時パーティメンバーの募集をするエリアだろう。正面奥に受付カウンターが4つ、その右側にに依頼掲示板らしきもの、左側には奥に続く廊下と2階に続く階段が見える。時間的な問題だろう、受付カウンターは人が少ない。4つあるカウンターのうち3つに1人づつ冒険者、そして1つは空いていた。そこで僕たちは、その空いているカウンターに向かう。そこにいるのは少し目つきのキツイ多分20台半ばの女性。雰囲気からすると多分冒険者上がりかな。
「2人、新規登録をお願いします」
ジロリと視線を向けたあと、別の窓口を一瞥し”チッ”舌打ちした。
「これ登録申請書。書いて出して」
一応仕方ない状態なら仕事をするようだ。クスリと僕とミーア、いやミューは受け取った申請書を埋める。名前、職業、得意な仕事、主に使う武器……
提出した申請書をやる気のない目で眺め
「ふうん、軽戦士のペアね。得意な仕事は魔獣狩り、か」
何気なく僕たちを見た瞬間に殺気を飛ばしてきた。こういう面倒くさいタイプの人だったのか。飛ばされた殺気をスルッと受け流し言葉を待つ。何か目つきが危なくなってきている。
「何級」
「は」
「何級から始めたいかって聞いてんの」
「僕らは別にどこからでも構いませんが」
”チッ”また舌打ちをして
「こっちへ来な」
そして、たむろしている冒険者を眺め、声を掛けた。
「グラン、クーリちょっと来な」