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第46話 旅立ち、そして

「勇者様ばんざーい」
「王種討伐ばんざーい」
「聖女様~」
聖都では華々しい王種討伐祝賀パレードが行われている。先頭の純白の馬車に乗り沿道の人々に笑顔で手を振っているのは、勇者様とそのパートナーたる聖女のアーセル。2台目の紫紺の馬車に、にこやかに座っているのは勇者様のパーティーメンバーの戦士レミジオ、魔術師アスセナ ・ アラーニャ、そしてスカウトのライアン。5人は晴れがましい衣装に身を包み沿道で手を振る人に愛想を振りまいている。ただ、その5人のメンバーの目は、ただのひとつも本当には笑っていない。目には苦悩と怒り、そして悲しみが漂っていた。彼らは何と説明を受けたのだろう。
 パレードは進み、勇者様のパーティーメンバーは中央大聖堂のバルコニーに勢揃いしていた。大司教様の祝賀スピーチが終わり、勇者様が最前列に出てくる。
「此度は、神の祝福により幸運にも我らは王種討伐を果たすこととあいなった。しかし、討伐こそ成功したが、同時に我らはまだまだ力不足であることも自覚した。今後も精進し更に人類圏の安寧のため戦い続けよう。みなも力を貸していただきたい。そして、最後に一言。ここに並べなかった英雄の方々。我は、あきらめませんぞ」
勇者様の姿を一目見ようと集まった群衆の中に紛れた僕は、思わず苦笑を浮かべ踵を返した。
「ミーア行こう」
僕とミーアは、フード付きコートの裾を翻し聖都を後にする。僕の腰にはオリハルコンコートのブロードソードとミスリルのハンド・アンド・ハーフソード、ミーアの腰にはミスリルの短剣とオリハルコンコートの短剣がぶら下がっている。街中で弓を持つのは少々目立ちすぎるため狩弓2張りと長弓1張りは魔法の鞄の中だ。長期間の移動になる可能性があるため、魔法の鞄には食料や水等がたっぷりと入っている
「フェイ、どこに行くの」
「そうだね。とりあえず帝国にでも行ってみようか。あの辺境伯に会いに行くのも面白そうだ」
聖都から一番近い国境は帝国辺境伯領。普通の人の足で聖都から2日も歩けば荒野。そしてさらに10日ほど歩くと帝国との国境。僕たちの足なら順調にいけば4日もあれば国境を越えられるだろう。国境から4、5日で帝国辺境伯領最初の街に着けるはず。
一旦逃げるけれど、全てを守ることのできる強さを手に入れてきっと帰ってくる。

───
聖騎士団団長の息子パトリックの鍛錬に付き合った翌日。まだ王種討伐に関して連絡は入ってないけれど僕とミーアはギルドに来ていた。
「レーアさん、おはようございます。ゲーリックさんいますか」
「あ、はい少々おまちください」
レーアさんが奥に確認に向かってくれる。
「ギルマスターがお会いになるそうです。マスタールームへどうぞ」
相変わらずレーアさんの案内でマスタールームに移動する。
「おお、今日はどうした」
「王種討伐の件で」
「まだ国からの連絡は来てないぞ」
「いえ、おそらく僕とミーアは排除対象になります」
「は、何を言っている」
「聖騎士団団長から僕たち宛の依頼があったのはご存知でしょうか」
「ああ、一応表向きは指名になっていないが裏指名依頼のあれか」
ゲーリックさんがチラリとレーアさんに視線を向け答えた。
「そこで、聖騎士団団長の息子さんの鍛錬の相手をしたんですけどね。まあ実戦の剣をみせてやってくれって事で。それで報酬として最近の上流階級の方々の話題について教えてもらったんですよ」
「さすがに直接名前を挙げられることは無かったが、お前らが排除されることを十分に暗示される言い回しを聞いたと」
「はい、つまり勇者様という新しい下位竜が見つかったので、自分たちの意を汲まないコントロールできない僕たちという上位竜はむしろ逆に邪魔になってきたのかなと思います。スタンピード殲滅に王種討伐という業績が集団に属さない個人に帰するには彼らにとって大きすぎて邪魔なのでしょう。それでも排除は出来ると思われる程度の力しか無いというのが悔しいですが。まあ、ある程度予想はしていましたけどね。まあその排除するのが国外退去なのか捕縛なのか討伐なのかわかりませんけれど」
やはり、勇者様のパーティーへのサポートが出来るような状況ではないなと嘆息せざるをえない。
「それでお前たちは、どうするんだ」
「そうですね。とりあえずどこかに身を隠して、勇者様のパーティーのパレードなんかで聖都がざわつくでしょうから、そのスキに聖都を抜け出そうかと思っています。そしてどこか聖国外に逃げますよ」
「それで、とりあえず身を隠すって当てでもあるのか。というより早いうちに逃げた方がいいんじゃないのか」
「今の僕たちには尾行がついています。本気で撒こうと思えば撒けますが騎士団を一斉に向かわせられたら困るんですよ。彼らと事を構えるのは本意ではないので」
「と言っても、身を隠すときには尾行を撒くんだろう」
ゲーリックさんが労し気でありながら面白そうな表情をして話し出した。
「ギルドには主に護衛対象を保護するのを目的として匿うための施設がいくつかある。それを使ったらどうだ」
「それは助かりますけど、ギルドに迷惑になりませんか」
「ふん、もし何かやらかしてきたら、ギルドメンバーを不当に扱うという事がどういうことか分からせてやるよ」
「助かります。甘えさせていただきます」
「それと、向こうのパーティーには何と言っておくんだ。希望はあるか」
「そうですね、僕たちの事は気にするな、とだけ」
「わかった」
そこまで話して僕とミーアは席を立った。
「おい、フェイウェル、ミーア」
「はい、なんでしょう」
「必ず帰って来いよ」
「はい、必ず」

────

僕とミーアは荒野を歩いている。吹き付ける風が砂埃を巻き上げ身体にまとわりつく。布で鼻と口を覆い埃を吸い込むのを防いでいるが、隙間から容赦なく入り込んでくる砂に口の中がざらつく。今は明確な最終目的地はない。それでもとりあえずはこの荒野の向こう側、帝国の辺境伯領をめざす。きっと本当の強さを手に帰ってくると心に誓って。


第1章(完)

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