第12話 デート(ショッピング)
聖都を散策していると様々な店、工房が目に付く。僕たちのような狩人だと、つい目を止めてしまうのはやはり武器屋、鍛冶屋、道具屋、そしてひっそりと隠れるように建っている魔道具屋だ。基本的には遊ぶつもりでいても命を預ける様々な物にはやはり目を奪われる。
「ミーアも気になるよね」
「フェイも目が追ってるもの」
今はお金も多少ある。昼を少し過ぎたところなので時間にも余裕がある。
「少し見ていこうか」
最初に入ったのは魔道具屋。有用な魔道具があれば狩りの際にずいぶんと楽になる。水を生む革袋。見た目より多くのものが入り重さも軽減してくれる魔法の鞄。水が掛かっても消えない明かりを灯す宝玉。振りかけるか飲むかすればいくばくかの怪我を直してくれる魔法薬。有用ではあるけれどその製造や素材集めの難易度からどれも非常に高価だ。僕たちであれば魔法の鞄が一番欲しいものになる。水は魔法の鞄があれば余裕をもって携帯できるし、なんなら狩場で水を採取してもいい。明かりは僕たちの加護に夜目に加え探査があるので特別には必要ない。魔法薬はそれほど遠出して狩りをするわけでもない上にそんな怪我をするような格上を狩りにいかないので僕たちはほぼ怪我をしない。なので僕たちが魔道具屋で気になったのは魔法の鞄だけだ。形は背負い型、肩掛け型、ポシェット型等で形より容量によって値段が変わるようだ。とは言ってもそれほど滅茶苦茶な量が入るわけでもないらしい。荷車1台分を肩掛け鞄に入れられるのがここの魔道具屋にある中では最大のようだ。それでも十分に大きい。狩りで獲物を入れればこの鞄が一つあるだけで持ち帰られる量が3倍近くになる。値段もかなりなものでこの鞄1個で中金貨1枚。ちょっとした家が建つ金額だ。それでも僕とミーアにとっては狩りの効率が3倍になるのは大きい。中層の魔獣を少し頑張って狩れば元をとるのに半年も掛からないだろう。そうでなくても獲物や道具類を魔法の鞄に入れられるというのは狩りでの移動の負担が大幅に減る。僕はミーアに
「これどう思う」
「魔法の鞄じゃない。便利だろうけど。お値段も素敵なんじゃない」
「中金貨1枚でこの鞄の中に荷車1台分入っちゃうらしい」
目をみはり、迷うミーアに
「今回の報酬は天からの授かりものみたいなものだからさ。こいうものに使うのも良いんじゃないかと思うんだけど」
そういう僕の言葉にミーアも頷いて
「うん、良いと思う」
そこで僕は店の奥にいる店主と思われる年配の男性に声を掛ける。
「これ欲しいんですが、確認させてもらっていいですか」
魔法の鞄を買った僕たちはニコニコ顔の魔道具屋の店主に見送られて店を出た。次は道具屋の入り口をくぐる。ここはごく普通の道具屋だった。冒険者ならばここで消耗品の補充をするのだろうなと思いながら見て回るものの、僕たちにとって特に必要なものは見当たらず、店主に挨拶だけをして店を出た。
「ミーア。ちょっと休憩しようか」
ミーアを誘って屋台による。ワイルドボアの串焼きを2本買って、横に準備されているベンチへ。手にした串焼きの1本をミーアに渡しながら
「こういうのってさ、村だとないよな」
「うん、そうね。だいたい肉自体さ、あたしたちは狩ってくるからいつも食べるけど。他の人たちはたまにしか食べてないし。食べるときだって少しの肉を家族で分け合ってる感じだものね」
「それが聖都では普通に屋台で売られてて、すごいなって」
なんとなく始めた会話だけど、僕自身何が言いたいのかわからない。でも
「僕たちって幸せだよね」
「そうね」
僕はミーアの嬉しそうな声を聞いて、串焼きを齧りながら、道行く人をぼんやりと眺めていた。