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第11話 デート

 今更ながら僕たちは聖都に圧倒されていた。服屋だけでなんでこんなにあるのだろう。しかも一軒一軒それぞれ全部がオリジナリティをもって素敵なデザインの服を並べている。村では実用性一辺倒の綿の服ばかりだったので刺激的だ。
「フェイ、この服どうかしら。たまにフェイとデートするときに着てみたいんだけど」
ここに来てミーアが、すごく可愛いことを言うようになってきている。討伐報酬でお金の心配もないし、僕も少しくらいなら贅沢をさせてあげたい。
「これおいくらですか」
店員に僕が尋ねると
「このお店は新品しか扱っていませんからフルオーダーですので値が張りますよ。あなたたちには無理じゃないですかね」
やはり僕たちのような身なりではお金が無いように見えるようだ。でもミーアが気に入ったのなら買ってあげたい。
「お金ならありますよ。まさか中金貨で足りないほど高いのでしょうか」
言ったとたんに店員の態度が変わった。
「こちらでしょうか。こちらは当店自慢のオリジナル……」
ここでミーアが割り込んできた
「フェイ、ほかに行きましょ。気分が悪いわ」
ミーアがご機嫌斜めになり、僕の手を引く。
「でも、ミーアあの服気に入ったんじゃ」
「いい。この店で買ったらどんな素敵な服も気分の悪いものになりそうだから」
そのまま他の店に入る気分でもなくなった僕たちはカフェという店に入ってみた。村では中々口にすることの出来ない甘味や飲み物を提供している店で若い女性やカップルに人気らしい。僕たちは丸テーブルに並んで座りおすすめメニューのベリータルトとハーブティを注文してみた。
「あまーい」
タルトを口にしたミーアの表情が蕩ける。僕もタルトを口にした。僕にとっては少々甘すぎだけれど、ハーブティと合わせると、これはこれでいい感じの甘みになる。”夜の羊亭”の料理のような繊細さはさすがに無いものの十分に口を楽しませてくれた。二口目を食べようとフォークを手にしたところでミーアが自分のタルトを切り分け僕の口の前に……
「あーん」
ミーアが照れながらも僕に食べさせようとしているらしい
「ミーア、僕は自分で食べられるよ」
僕の言葉にミーアは目線で数席先のテーブルを示してきた。見ると、その席ではカップルがお互いにケーキを食べさせ合って幸せそうにしていた。どうやらあれをやりたいらしい。僕が戸惑っていると。
「ん」
ミーアはどうしてもやりたいみたいで引かない。そこで僕は恥ずかしいのを我慢して口を開けた。すると嬉しそうにミーアが、そっと僕の口の中にタルトを一切れ食べさせてきた。僕が飲み込むと、ミーアは僕をじっと見つめてくる。どうやら僕にも同じことをしろと言っているようだ。恥ずかしい気持ちが強いので僕はミーアに聞いてみる。
「どうしても」
ニッコリと笑ってミーアは
「うん」
観念した僕は、タルトを一口サイズに切り分けミーアの口の前に差し出す。
「あーん」
僕の差し出したタルトをパクリと食べて耳まで真っ赤になりながらも嬉しそうなミーアに、恥ずかしいことをしただけはあったと嬉しさが湧いてきる。
「む、村ではこんなことしている恋人や夫婦見たことなかったけど」
僕が言いかけると
「うん、でもフェイに甘えている感じがしてすごく幸せ」
ミーアが幸せを感じてくれるなら少しくらいの恥ずかしさはいいやと最後まで食べさせ合った。
甘さが増したようにも思える美味しいタルトとお茶を楽しみ気持ちをリセットしたところで僕はミーアに聞いてみた。
「この後どうしようか。どこか行ってみたいところとかある」
とは言え僕たちは普段聖都に来ることはあまりない。つまり何があるかも良く分かっていないので
「どこかってより、あたしたち聖都のことよく知らないんだしさ聖都をぶらぶら散歩しようよ」
「そうだね、適当にぶらぶらして気になったとこがあったら見に行くってことにしようか」
そうしてカフェを出るとミーアは僕の腕を抱き寄せるように腕を組んできた。
「えへ、聖都でならいいよね」
僕たちは狩人の習性で聖都にいてさえ、わずかに間をあけ咄嗟の際にお互いが動くのに邪魔にならない距離を置いて行動していた。それをミーアは聖都でならと距離を詰めてきたのだ。そう、ここは聖都。僕たちの探知でさえすり抜け待ち伏せし不意打ちをしてくるような魔獣はいない。僕も肩の力を抜いて楽しむことにした。
「そうだね。ふたりでゆっくり回ろう」
そして僕たちは初めて屋外でスキンシップを楽しんだ。

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