~幕間~
——ほう、【勇者《ブレーブ》】が決まったか。
彼は水面を覗き込みながら一人声を漏らした。この水面にはカラードとエイ王バルバロッスの会話の様子が映し出されている。
——しかし、レンリンの孫となると厄介だな。
もう一人が声を漏らす。
——何、これが【神のオルガン】にセットされた通りのメロディーなのさ。なあ?
——ああ。
低い声が聞こえた。どうやらこいつがボスらしい。
——しかしどういうつもりなのか。いきなり魔王が魔力を欲するなんて。しかもアウェイクニングを起こして得られるほどの魔力を一体何に……。
二人目の声に、
——魔王は文字どおり“世界を支配”したいのだ。そのためには膨大な魔力が必要となる。
ボスらしき男がそう答える。
——しかし、それなら“穏便に”この世界の全てのヒトから魔力を徴収すれば解決するはずだ。
ボスの言葉に疑問を覚えたのだろう。一人目の男が彼に問うた。
——この世界のヒトの魔力の総計など微々たるものだ。魔王は何も“この世界を”支配したいわけではない。
ボスは顔色一つ変えず言い放った。咄嗟に一人目の男の顔が変わる。
——まさか、魔王は……。
——ああ、そうだ。魔王は“【実世界《カオス》】の支配”を目指している。そのためには【実世界《カオス・》の扉《ポータル》】を開くことが必須となる。お前は確かそこら辺の事については詳しいはずだ。【実世界《カオス・》の扉《ポータル》】を開くために必要なものも無論知っているのだろう?
——ああ。確か勇者《ブレイブ》、圧倒的な魔力、そして【悪魔《ザ・ビースト》の剣《ソード》】……。
彼は怯えたように【実世界《カオス・》の扉《ポータル》】を開くために必要なものを唱える。
——そういう事だ。
ボスは静かに一言そう言うと、
——さあ、魔王がお待ちだ。【王の間】に行くぞ。
と二人に告げた。
【王の間】の玉座には魔王がイライラした顔で座っていた。あの三人を待っているのだろう。
ゴゴゴゴゴ……。重々しい音を立てて扉が開くと、その三人が姿を現した。
「遅いぞ。」
魔王はいら立った声で三人を叱責した。
「申し訳ございません。」
三人のボスが頭を下げた。残り二人も同じく頭を下げる。
「まあいい。それで、勇者《ブレーブ》は決まったか。」
「はい。予定通りトットに」
「それならいい。今度こそは【悪魔《ザ・ビースト》の剣《ソード》】を完成させ、必ずポータルを開く。わしは勇者《ブレーブ》と融合して消えるが、あとは頼んだ。【神のオルガン】にセットされたメロディーを守ってくれ。」
魔王は威丈高にそう指図すると、ボスがもう一度頭を下げるのを一瞥して煙のように消えた。
玉座の後ろの壁に掛けられている大時計が十二時の時報を打つ。