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謁見

「トット・カラードとか言ったな。汝が【真の勇者】だという事は聞いた。ならば汝に頼むことは一つ。何だか分かるな?」
王は俺に語りかける。ここは城の大広間、王は二三段上がったところにある玉座から俺を見下ろしていた。俺は大広間の真ん中に敷かれている赤いカーペットの上からその玉座を見上げており、カーペットの両脇には王の側近であろう男たちが俺を見張るかのように立っている。そして、俺の横では例の女の子が同じく玉座を見上げていた。

「何だ?俺に頼みたいこととは。というか聞きたいことが沢山あるのだが。」
俺が王にそう言うと、
「こらっ、国王陛下の御前であるぞ。言葉遣いを正せ。」
と側近の一人が声を荒らげる。セバスチャンは俺の後ろで恐縮しているのみだ。と、その時。
「まあよい。この者は【真の勇者】であるため、特例で許す。」
王が一言、静かに言った。側近は玉座に一礼して黙り込む。

王はその方向を一瞥すると、再び俺の方を向いて
「分かった。汝の問いは後で聞く。それゆえ、寡人《わし》の頼みも聞いて欲しい。」
と言った。俺はむろん王の言わんとすることなど分かっている。だが
「で、頼みって何だよ?」
と敢えて聞いてみる。すると王はひと呼吸おいて、厳かに俺に告げた。
「単刀直入に言おう。そこの魔法使いと、薬師・盾師《シールダー》と共に魔王討伐に行ってもらいたい。」
俺は驚いた。もちろん、頼みの内容にではない。『そこの魔法使い』が例の女の子だったという事に、である。彼女はこちらを向いて微笑んだ。

「薬師と盾師《シールダー》は遅れて来るため、顔合わせは後ほど……という事になるが、どうだ?」
王は俺に言った。
「それは、俺にしか出来ない事なんだよな?」
俺は王に問う。
「ああ。」
王は力強く頷いた。俺は彼女を一瞥する。

この子と一緒に行くのか。一番最初に思ったことはそれだ。別に痴情ではない。つい昨日まで「ザク」と呼ばれ、あざ笑われていた俺がコーホー一体を倒しただけで評価がここまで変わるのか。と驚いているのだ。恐らく俺はこれを引き受けてしまえば何度も苦しむことになるだろう。もしかしたら再び【剣《ソード・》の覚醒《アウェイクニング》】が起きるかもしれない。しかしながら、ずっとのけ者にされて来た俺が、「本当にあのレンリンの孫か?」と疑われて来た俺が、今は必要とされているのだ!俺は腹をくくる。

「分かった。」
俺は玉座に向かって高らかに宣言した。
「真か。」
王が確かめるように言う。
「ああ。」
俺の声を受けた王は
「この国を、よろしく頼んだ。」
と、玉座から立ち上がって俺に一礼した。

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