出会い
外に出ると、通りの向こうに村人たちがたくさんいるのが見えた。皆一様に俺への称賛を送っている。
「ささっ、カラード様。王城から馬車が出ておりますぞ。」
セバスチャンは外に出るなり俺に告げる。その通りだった。俺が右へ目を移すとそこに三頭立ての馬車があった。俺はセバスチャンに促されるままに馬車へ乗り込む。馬車の中にはすでに御者が乗っており、俺とセバスチャンが乗り込んだのを振り向きで確認すると、物言わず馬車を発車させた。
ここでエイ王国のことに触れておく。
エイ王国はもともと実世界でシルクロードと呼ばれていた交易路の一部だったらしい。それゆえ中世ヨーロッパとの交流が盛んに行なわれていたそうなのだ。だが、ある日突然エイ王国はこの世界へ飛ばされた。魔族が襲ってくるこの世界に突如として飛ばされた王国は当然のごとく大混乱に陥ったのである。しかしそんな中、初代勇者が現れた。彼は魔法も使え、山のようにいる魔族をなぎ倒してエイ王国へ平安をもたらしたのだ。ちなみに、今の勇者学校・魔法学校・薬師《くすし》学校・盾師《シールダー》学校の四校を創始したのも彼である。彼が魔族をなぎ倒したのちに魔法の力で浄化したのが、今俺の背負っている【聖剣】なのだ。当然、今でも彼は神の扱いを受けている。
ここまで思い出すころ、馬車は王城まであともう少しのところへ来ていた。俺はふと窓の外を見て、うんざりした。村人たちが俺に向かって「勇者万歳」の声を上げていたからである。俺はそれを見て「人間は風見鶏みたいだ」とガッカリした。昨日までは俺のことを「ザク」と呼んでたくせして、ひとたび俺がコーホーを倒すと途端に「勇者」と媚びるような声になる。まさに風見鶏。どうせ魔王討伐にしくじったらまたバカにするんだろ?
俺はそういう冷ややかな目で、称賛する村人たちを見た。と、
「間もなく王城の中へ入ります。王城の中に入ればすぐに徒歩となりますので、ご両人は降りられるご用意を。」
それまで口一つ利かなかった御者がボソリと告げる。俺は前に向き直った。するとすぐそこに、城門が輝くような白色を陽光にきらめかせてそびえ立っているのが見えた。ここに来るのは初めてである。
やがて城門を通過して馬車から降りた俺とセバスチャンは、御者に案内されて城本体の入り口までやって来た。いかに【真の勇者】を運ぶような御者であろうとも、城棟内に立ち入ることは出来ないらしい。俺たちは、そこで王の側近らしき人に引き渡された。
「ささっ、陛下。連れてまいりましたぞ。」
俺たちは城の最上階にいる。この扉の向こうに王がいるようだ。
「入れ」
威厳のある声が聴こえ、二つ扉が開かれる。その時、俺は声を上げそうになった。
そこに、振り向いた顔に。
あの時夢で見た女の子がいたからである。