魔族襲来
ガランガランガランガラン……。鳴り止まないベルの音。窓の外の混乱を見ながら、俺は「またか……。」とため息を吐く。こんな事は魔王軍との境に位置している王都において日常茶飯事なのだ。
この村・ボクヨーはエイ王国の王都であり、中世ヨーロッパとの交易以来なぜか外界から隔絶された異世界に国ごと飛んだため、異世界暦二十一世紀の今日でもなおその時代の建物が住居として使われている。
ここは魔王軍との境界らしく、古来から世界征服をたくらむ魔族軍が度々襲来してきた。そして半世紀前にレンリンたちが魔王を討伐してからは、平和が続いていた。しかし、最近再び魔族軍が侵攻してくるようなのだ。まあ、村の東に唯一ある門——俺の父親が守る門を突破されなければ安全、そして過去一回も突破されたことはないのだが。
ボクヨーは要塞村であると同時に環濠村でもある。すなわち高き壁と深い濠、この二つによって王村が防衛されているのだ。しかし、だから安心というわけではない。
魔族の中にはアメーバみたく、自分の形を自由変形できる戦士もいると言う。それに襲われれば、この村はひとたまりもない。だが今魔族軍を形成しているのは半世紀前の残党どもであり、ボクヨーの防御力と偉大な父の敵ではない。
しかし、村の言い伝えにはこうある。
【……勇者の死にし十五年の後、魔王は勇者に憑きて復活す……】
……ちょうど先月、祖父の十五回忌があった。まさか……!俺はそうも思っている。だが、魔王が復活したところで俺に何ができる?偉大な祖父や父の血を何一つ受け継いでいない俺に。
そう思っていると再び自己嫌悪に陥りそうになったので、俺は外へ出る。ちなみに俺の服装は「実世界でいうチマ・チョゴリみたい」らしい。実世界からの転生者が言っていた。まあ、色は薄茶色一色だけど。背中には一応、いつも剣を背負っている。勇者学校の校則だ。何でも「予想外の危険に備えるため」らしい。まあ、父が守っている限りそんな心配もないのだが。
家のドアを閉め、外へ出た俺は深呼吸する。その時、俺の目に満天の星空が飛び込んできた。輝く光の粒たち。ベタだが、やはりどこか救われたような心持ちになる。
「ハァ……。どうすれば俺も父さんや祖父さんみたいになれるかなぁ……。」
俺は歩きながら、嘆息交じりにそう呟いた。その時、
「プシュゥゥゥ~~~……。」
聴き慣れない異音が聞こえた。俺はギョッとして振り向く。しかし、誰もいない。訝りながら前に向き直った俺は驚いた。俺と同じくらいの大きさで、八目を持った何とも禍々しい生命体がそこにいたからである。鰐が立ち上がった形のフォルムで教科書に載っていた魔族にそっくり……、否、魔族そのものだろう。
俺は反射的に背中の剣を抜き、魔族と対峙した。