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初陣

「プシュゥゥゥ~~~……。」
俺は目の前の魔族を凝視する。そして教科書の内容を思い出す。こいつの名はコーホー。ステータスは……。俺は勇者学校の落ちこぼれ。普通なら持っているはずのステータスメガネなど持っていない。ステータスメガネをかけて覗くと、覗いた相手のステータス(HPとか攻撃力とか)が分かる。ただし、それは勇者学校の成績上位者にのみ与えられる特権的なものなのだ。

とにかく、ステータスメガネを持っていない俺は教科書に載っているデータから予想するしかない。
『コーホー
ステータス
HP:3000
攻撃力:300』

俺より強い……。当たり前か。だがこのコーホーも父との戦闘で傷ついているはずだ。教科書によれば多くの魔族はHPと攻撃力は比例する!
「うおおおおおおお~~~!」
俺はそう叫ぶと、大きく振りかぶってコーホーに突進していった。コーホーが口から青いビームを出す。攻撃力300のビームだ。あれをまともに喰らったらもう立ち上がれなくなる。そう思った俺は咄嗟に身をかわす。ビームは俺のすぐ横を掠めて行くと、「ドゴォ~ン!」音を立てて後ろに激突したらしい。

俺はそこから少し膨らむように再び突進する。第2撃。今度は屈んで回避する。すぐ後ろで先ほど同様の衝撃音が鳴り響く。俺は魔族を仰ぎ見た。辺りが暗いせいで、体は見えない。だが、八眼だけは赤く光っている。
「クソっ、強えな……。」
俺はそう漏らすと立ち上がって凝視した。勇者の中にも階級があって、いわゆる最強スキルを使えるのは【パーティー勇者】か【門番】か。通常スキルを使えるのは【通常勇者】か【優秀な学生勇者】か、である。つまり、そのどれでもない俺はスキルを使えないのだ。

「どうする……?」
俺は自問した。だが、次の瞬間。
「プシュゥゥゥ~~~!」
コーホーがそれまでとは違う甲高い声で鳴くと、《《赤い》》ビームを出してきた。ギョッとして目を見張ると俺の方向にまっすぐ飛んで来る。
「なっ……。」
そう思った時には時すでに遅し。攻撃力《《200以上》》のビームに直撃し、俺は意識を失った。



「……あれ?ここはどこだ……?」
目を覚ました俺は辺りを見回す。無機質な白い壁が目に飛び込んできた。陽光が窓から射し込んでいる。
「おおカラードさま。お気づきになられましたか!」
声の主はセバスチャン。俺の傅役だ。
「じい、俺は?」
恐る恐る俺は訊く。あれ以降の記憶がないのだ。
「カラードさま。あなたはコーホーと闘いましたが、HPが尽きて倒れられたのです。」
セバスチャンは厳かにそう言うと、
「よくぞご無事で……。」
異様に涙を流し出した。

俺は包帯を巻かれた右手でセバスチャンの肩をトントンと叩きながら、
「じい、どうした?」
そう訊いた。だが、泣いているばかりで返事がない。俺は何となく嫌な予感がしたので、今度はさっきよりも強く訊いてみる。セバスチャンは涙を浮かべてこう言った。
「ご主人様が、お亡くなりになったのです……。」
「なっ……。父が⁉」
俺は、あとの言葉を失った。

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