第3話(4)電光石火
「全長16mか……ん? 該当データ無し? これも新種か……」
大洋がモニター画面を確認し、再び怪獣に目をやる。怪獣が翼を大きく広げて、下にいる光に向かって激しく嘶く。
「つまり俺は子供の仇ってことになるか……」
怪獣が急降下し、一直線に光めがけて突っ込んできた。光はすぐさま後ろに飛んで、突撃を躱しながら頭部のバルカンを発射する。だが、ダメージはさほど与えられなかったようで、怪獣は怯むことなく、光の飛んだ方に向き直り、翼を羽ばたかせ、突風を巻き起こした。岩や土の塊が、巨大な粒のように光に向かって飛んできた。
「くっ!」
大洋は堪らず光の両腕を交差させて、ガードの姿勢を取ってコックピットやメインカメラへの直撃を避けた。突風をなんとかやり過ごした光はガードを緩める。しかし、その間に怪獣は光の肩部に取り付き、足の爪を使って攻撃を始めた。
「ちぃ!」
大洋は光のアームブレードで足を薙ぎ払おうと試みるが、怪獣は上に飛び立ってそれを避けた。続けざまにヘッドバルカンを発射して、追い討ちを掛けるものの、怪獣は更に上空へ舞い、その追撃も躱した。大洋は忌々しげに呟く。
「くっ、射程距離外に! 光のジャンプでも届かん!」
怪獣は再び急降下してきたため、大洋は一度納刀した光宗を抜き放とうとする。
「近距離ならば、刀の方が先に届くはず! ……⁉」
怪獣は直前で急停止して、翼を羽ばたかせ、真上から突風を巻き起こした。予期せぬ攻撃に光は思わず防御態勢を取る。その隙に怪獣は光の真正面に降り立ち、くちばしで光の頭部を突いてきた。
「ぐおっ!」
大洋は即座に光の首を捻って、頭部への攻撃をなんとか躱したが、怪獣の鋭利なくちばしは光の右肩の上部を貫いた。更に怪獣は両足を上げて、光の胴体を思い切り蹴っ飛ばした。光はバランスを崩して、後方に倒れ込む。大洋はすぐさま光を立ち上がらせようとするが、怪獣が地面から飛び立って、光の上に着地する。両足を上手く使って、起き上がることが出来ないように抑えこむ。そして、くちばしで光を突こうとする。
「馬鹿か俺は! 一度目にしたはずの攻撃を!」
大洋は自らを責めるように叫ぶ。そこに怪獣のくちばしが光の頭部へ迫ってきた。大洋は光の両腕を操作して、咄嗟にそれをガシッと掴んだ。怪獣の力は強かったが、後一歩という所で抑え込んだ。しかし、マウントを取られていることには変わりない。
「~~! さて、どうするか……」
「そのまま掴んどいて~」
緊張感の無い声がしたと思ったと同時に、怪獣の体を砲撃が貫いた。怪獣は断末魔の叫びを上げると、その場に崩れ落ちた。
「な、なんだ……?」
「やった~♪ アームキャノン初命中&怪獣初撃破~♪」
「電……閃か!」
一瞬あっけにとられた大洋だが、閃が援護にきたことを理解する。
「随分と苦戦させられていたね~。ひょっとして模擬戦疲れ?」
「ふっ、いいや、全て含めて俺の実力不足だ……」
自嘲気味に笑う大洋の機体を電が引き起こす。
「すまん」
「良いよ別に~。それじゃあ戻ろう……かっ⁉」
「どわっ⁉」
光と電が巨大な黒い影によって突き飛ばされる。
「な、何だ⁉」
そこには、先程よりもさらに巨大なカラスの怪獣の姿があった。
「ひょっとして、さっきのは母親で、これは父親かな~?」
「恐らくそんなところだろうな……」
怪獣が翼を羽ばたかせ、突風を巻き起こす。
「うわっ!」
「さっきの比じゃない! 立っているのがやっとだ!」
次の瞬間、怪獣はあっという間に大洋たちとの距離を詰め、その巨大な両足で、光と電の頭部を掴む。
「ぐっ!」
「気のせいかな、嫌な予感がするんだけど……?」
「それは気のせいじゃないぞ!」
怪獣は両機を掴んだまま急上昇する。閃が珍しく慌てた声を上げる。
「うおお! こりゃマジでヤバいね⁉」
「⁉」
「そうはさせんで!」
そこに銅色の戦闘機が、両翼に備え付けた銃口からビームを発射しながら飛んできた。ビームの直撃を喰らった怪獣は、足を開き、掴んだ二機を離した。光と電はなんとか地上に着地した。体勢を立て直した大洋が上空を飛ぶ戦闘機を確認する。
「なんだ、あの機体は⁉」
「ふふん! よくぞ聞いてくれました!」
モニターに得意気な顔の隼子が映る。
「乗っているのは隼子か!」
「そうや!」
「戦闘機にしてはやや大きいな……」
「これは戦闘機ちゃうくてな……」
戦闘機が瞬時に翼のついた人型ロボットへと変形した。
「変形した⁉」
驚く大洋に隼子が更に得意気に説明する。
「これはアンタらが乗っている機体の姉妹機! 『石火(せっか)』や!」
「石火……」
「この機体はご覧の通り単独で飛行機能を持っている! 空中戦は任しとき!」
「あ~ジュンジュン、ノリノリの所悪いんだけどさ~それはまたの機会に~」
閃の声に、隼子はややズッコケる。
「な、なんでやねん!」
「水を差すようだけど、石火単機ではその巨大カラスは流石に手に余ると思う~」
「そんなもんやってみなくちゃ分からんやろ!」
「チャレンジ精神は結構だけどね~」
そう言って、閃はコントロールパネルを操作する。
「……コンディション、オールクリア。よ~し、行くよ二人とも~準備は良いかな~?」
「準備って何だ⁉ おい、隼子、聞いているか⁉」
「い、いや、ウチも何も聞いてへんで⁉」
突然のことに戸惑う大洋と隼子。閃は構わずに操作を続ける。
「よ~し、スイッチ……ポチっとな♪」
「⁉」
「な、なんや⁉」
一瞬の閃光の後、大洋がゆっくりと目を開けると、自身のシートの足元に二つのシートが並んでおり、そこに右から閃と隼子がそれぞれ座っていた。
「合体成功~♪」
「が、合体⁉」
そこには金銀銅の三色が混ざり合ったカラーリングをした流線形が特徴的なボディの機体が空中に浮かんでいた。
「よし、じゃあ行ってみよう~♪」
「……」
「いや、ちょっと待て、これはどういう状況やねん⁉」
「三機が合体して一機のロボットになったんだよ」
閃が両手を広げて当然だろうという顔で語る。
「それは何となく分かった! いや、分からんけども分かった! ただそんな機能があるなんてさっき石火に乗ったときには聞いてへんで!」
「説明は省いたよ、無駄な時間かなと思って」
「一番省いたらアカンところやろ!」
「……まあ、一言で言うと、『三機合体!電光石火(でんこうせっか)‼』ってことかな~」
「だから一言で言うなや!」
黙っていた大洋が口を開く。
「なるほど……漠然とは理解した」
「いやいや、そこ漠然とではアカンねん!」
「うおお! 燃えてきたー!」
大洋がおもむろに服を脱ぎ、フンドシ一丁となる。
「だから! なんでいちいち脱ぐねん!」
怪獣がうなり声を上げ、くちばしを尖らせて電光石火に向かってくる。
「石火の飛行機能のお陰で空中戦でも引けを取らないよ~」
「ああ、この反応速度の速さ! これなら行ける!」
電光石火が光宗を抜き、上段に構える。大洋が叫ぶ。
「喰らえ! 超大袈裟斬り‼」
刀を振り下ろし、怪獣の体が左肩の辺りから斜めに分かれる。絶命した怪獣はそのまま地上に落下する。
「やった~♪」
「……前から思っていたんやけど、アンタの技のネーミングセンスよ……」
「……その辺はアドリブだ」
「アドリブかい!」
「じゃあ、今度こそ帰投しようか……んん⁉」
レーダーに突如として物体反応が示される。
「どうした⁉」
「前方、二時の方向に反応あり!」
閃の告げた方向に目をやると、何もないはずの空間に紫色の穴のようなものが開き、そこから紫色の機体が姿を現した。鳥と人が合わさったようなフォルムをしており、電光石火に比べれば大分小さな機体である。
「な、なんや、また怪獣か⁉」
「……いや、あれは……」
閃が何かを言おうとした瞬間、紫色の機体は電光石火に視線を向けたかと思うと、右手をかざした。そこから紫色をした衝撃波のようなものが放たれる。
「ぐおっ⁉」
衝撃波を喰らった電光石火は地上に思い切り叩き付けられた。
「ぐっ……なんてエネルギーだ」
「ま、また来るで!」
大洋が空を見上げると隼子の言葉通り、紫色の機体が右手をかざしており、そこから再び衝撃波が放たれようとしていた。
「アカン! またアレを喰らったら!」
「くっ! ……⁉」
上空にもう一つ黒い穴が開いたかと思うと、そこから紫色の機体によく似た黒い機体が現れ、紫色の機体に対して猛然と斬りかかった。
「あれは⁉」
紫色の機体は寸前でその攻撃を躱した。次の瞬間、左手をかざすと、その空間に再び穴が開き、その穴に入り込んだ。穴は機体が消えていくとともに無くなった。
「な、なんだったんだ……?」
「さ、さあ?」
「し! 静かに!」
閃が二人に静かにするように促す。回線の乱れによるものか、上空に浮かぶ黒い機体のパイロットと思われる声が微かに聞こえてきた。
「……あ~また、逃がしたやん……」
「次は仕留める……」
「自分そればっかりやん……まあええわ、次行こか」
そして黒い機体が左手をかざすと、穴が開き、機体がそこに入ると穴も塞がるように無くなった。大洋と閃には同じ疑問が浮かんだ。
(次行こか……⁉)
大洋たちは隼子をジッと見つめる。
「な、なんやねん……?」
「……ジュンジュン、今の……知り合い?」
「なんでそうなんねん!」
「だって……関西弁だったぞ?」
「確かに関西弁やったけれども! 共通点そこしかないやん! そんな『悪そうなやつは大体友達』みたいな理論やめろや!」
「そうか、違うのか……」
大洋は肩を落とす。
「当たり前やろ! なんでちょっとがっかりしてんねん!
「今度こそ周囲に怪獣等の反応は無し……それじゃあ戻ろうか~」
「オーセン……戻ったらアンタに聞きたいことがあんねん」
「何、夕食のメニュー?」
「ちゃうわ! この機体についてや!」