【許されざる侵入者】
【許されざる侵入者】
『アシス本部、下層部に侵入者あり。フィト・リベーラは速やかにセプティミア様の護衛に向かって下さい』
フィトは立ち上がり、自らのラルに送られてきたイングリッドシステムのメッセージ音を起動させた。
「侵入者···?」
怪訝に、フィトは目を細めた。
突如アシス本部を襲った振動は何だったのか。
フィトは軍本部におり、周りの軍人も素早くラルを起動しているのを視認した。個々の軍人それぞれにイングリッドシステムは命令を通達しているようで、侵入者がいるというアシス本部の下層部に走っていく者もいる。
(アシスに、侵入者だと?一体誰が恐れ多くもテゾーロに牙を剝くのか)
普通だったらテゾーロを殺そうとする者など、存在するはずがない。神聖なテゾーロを傷つける行為など、あってはならないのだから。
「侵入者の映像はないのか?」
『アシス本部下層階に位置する映像データが爆破されました。下層部に多大な損傷あり、現在復旧に努めています』
「爆破だと?」
フィトは、ありえないことに動揺する。
(何が起こっている?)
人工惑星であるアシス本部には、死角というものが存在しないように監視カメラが存在している。隅々まで記録をし、リアルタイムにイングリッドシステムにデータが伝達されるようになっているのだ。
己の姿を見せないように下層部の監視カメラを損傷させているなど、テロか何かだろうか。
「まさか···」
テロと考えた時、フィトはガリーナを思い出す。
(あのレイフ・ノルシュトレームの仕業か···?)
あの弱い少年に、そこまでの力があるとは思えない。しかし惑星ニューカルーの星境局員も味方にしていたり、惑星トナパ軍でも名高い姉の協力があれば、不可能ではないのかもしれない。
(彼は弱い。弱いけれど、色々環境に恵まれている···)
自分の足元におよばないほど、レイフは弱い。だが、フィトは、レイフによって2回も救われている。一度目は惑星トナパでペスジェーナから救われ、二度目は惑星ニューカルーでのリオカルマーシュの件だ。それらを通じ、ある確信を持っていた。
(あながち、彼は馬鹿ではない)
『フィト・リベーラ、すぐにセプティミア様の護衛に向かいなさい』
「···ああ」
イングリッドシステムはアシス本部のすべてを管理するシステムである。そのシステムの采配に従う選択肢しかない。
指定の地図データを起動した時、フィトは顔を顰めた。
(セプティミア様が走って移動している···?それに、一緒にいるのは···)
地図データを見ると、走っているとしか思えない速度で、ティアが移動していた。しかも、彼女が追っていると思われる人物の名前は――。
「リーシャ···?」
ありえない名前だ。
彼女は死んだのだから、そのようにイングリッドシステムの地図データに表記されることはありえない。
「イングリッド、リーシャの映像データを映せるか?」
『勿論です』
ラルから映像データが表示され、フィトは目を見張った。
リアルタイムに送られてきている映像データに映るのは、間違いなくガリーナだったからだ。彼女は憔悴の表情で、廊下を駆け抜けていく。
(彼女は、アクマではない。それなのにイングリッドシステムは、彼女をリーシャだと判断している。どうして···)
元々リーシャがアシス本部に所属していたことが関係するのか、イングリッドシステムによるバグなのか、わからない。
けれど確実に言えるのは、ガリーナがリーシャの血を引いているから、そのようなバグが起きているのだ。
「あれは、アクマではないのに」
フィトはラルから表示される映像を、ぎりりと歯ぎしりをして見つめた。
ガリーナは、美しい。けれど彼女自身は何も特殊な力など持っておらず、髪も赤くはない。
それなのに、どうしてこんなにも憎悪を向けてしまうのか。
(あの女と同じ血が繁っているだけだというのに)
フィトは自らの膨れ上がる憎悪を胸に、地図データに表示されているティアとガリーナがいる場所へ、足早に駆けて行った。