【駆け抜ける】
【駆け抜ける】
アシスの軍用機械人形にクォデネンツを振るえば、刃を受け止められた。
機械人形が振るう大きな刀に受け止められ、クォデネンツは甲高い擦れた音を発する。クォデネンツの刃が傷ついてしまっているような不気味な音で、レイフは慌てて力強く剣で押し返し、無理に機械人形を離した。
『A-6の位置にて、侵入者と該当する者が出現。イングリッドシステムへ伝達する』
レイフがクォデネンツを振るった機械人形から、イングリッドシステムと同様の女性の声が発せられた。赤い目がレイフの姿をじっと見つめ、剣を構え直す。
「量産型の機械人形でも、簡単に倒れては···くれねぇんだな」
レイフは失笑する。
(こいつら良い武器も持ってるみてぇだし、腕力もある。剣を持っているの機械人形は、10体。厄介かもしれねぇ)
剣を持っている機械人形を観察しながら、レイフは思った。
クォデネンツを交じらせたが、大剣は良質な鉱石で作られたものらしい。交じらせた音から察するに、クォデネンツと相性は悪いように思えた。
「どっかーーーんっ!!」
相性という点では、パパゴロドンとユキは軍用機械人形たちと相性がいいようだ。
彼が掛け声をあげると、バズーカは軍用機械人形に向かって発射される。バズーカで機械人形の身体を壁に叩きつけた後、ユキがすかさずに6JLを撃ち込んで、すでに3体ほど起動停止させていた。
「ポンコツが!そのまま屑ゴミにしてやるからな!」
2人の連携は素晴らしく、この勢いのまま敵を倒してくれるように思える。
「···わっ!」
レイフが2人に目を奪われていると、機械人形がレイフに突っ込んできた。大剣を振るわれ、慌ててクォデネンツで受け止める。レイフが狼狽えている隙を狙うかのように、横から他の機械人形が大剣を振り下ろしてきた。
「ばっ···」
やられる、と思った時、レイフは咄嗟に後ろに飛びのいた。後ろに飛びのけることによって、機械人形同士の大剣が微妙に擦れ合う。甲高い嫌な音が響き、獣耳を持つレイフは耳をふさぎたくなった。大剣同士が重なり合うことによって、機械人形の強すぎる力が摩擦を起こしたのか、機械人形たちの足が細かに震えた。
(そこか···!)
レイフは彼等の足が震えたのを見逃さず、2体の機械人形の足に向かってクォデネンツを振るった。
「くっ···!!」
原生生物を斬るのとは違う感触だ。重量がある機械を斬る感覚は、生物の肉を斬るのとは全く異なり、とにかく腕力を必要とした。
両手にグッと力をこめ、2体の機械人形の足を切断する。細い足を切断することによって、機械人形は大げさなほどの音をたてて、床に伏す。
「やった!」
「レイフきゅん!すごぉぉい~!」
ユキはレイフの背中に背中を合わせ、6JLを撃つ。青色のレーザーが、レイフの背後を狙っていた機械人形の胸を撃つ。彼女がいなかったらレイフは斬られていただろう。数がいるだけに、一時でも敵を倒した喜びに打ちひしがれる暇などなかった。
「弱点を見抜くようにって、パパゴロドンさんに教えられたおかげだぜ!」
そう、惑星トナパでペスジェーナを狩っていた時と同じだ。
必ず敵には弱点があり、まだ軍事経験が浅いレイフは敵に負ける前に、敵の弱点を見抜かなくてはならない。
自分がやられてしまう前に弱点を見抜くことによって、自分は勝つしかないのだ。
(オレは弱いから、集中しないと、お荷物になる)
今だってユキに助けてもらってしまった。レイフはパパゴロドンから先ほど教えてもらったことを再認識し、クォデネンツを強く握りしめた。
「侵入者とは、あなた方のことでしたか」
聞き覚えのある声に、レイフは声がした方向へ振り向いた。自分たちが先ほど来た回廊から、数体の足音と共に、軽やかに駆けてくる足音。
「ちっ!」
ユキが大きく舌打ちをし、6JLを発砲する。
青いレーザー銃をかわし、レイフに殴りかかってくる影は――惑星ニューカルーで出会ったアシスの軍人だった。拳を振り上げてくる影をかわし、レイフはクォデネンツを振るうが、彼もまた攻撃をかわし、少し距離を置いて姿勢を構える。
「お前は···惑星トナパでシャワナといた奴···」
「チンと申します。まさかクォデネンツをアシス本部までわざわざ持ってきて頂けるとは思いませんでしたよ」
チンと名乗った、魚類の鱗を持った少年は、礼儀正しく頭を下げた。
レイフはクォデネンツを構え直す。
「ちげーよ、ガリーナちゃんを取り返しに来たんだよっ!!」
武器を何も持っていないチンに対し、レイフはすぐさま斬りかかった。彼は瞬時に避けるが、レイフの肩を振り上げた拳で殴ってきた。軽やかな彼の打撃は力強く、一瞬クォデネンツを離しかける。
(いや、これだけは···っ!!)
グリップ部分を、握り直す。再びチンは自分に拳をいれようとしたが、ユキのレーザー銃の攻撃を避けるため、一度レイフから距離を取った。
「無謀ですね、アシス本部にどれだけ軍人がいるかご存知ですか?軍用機械人形も沢山いるんですよ」
先ほどレイフが察した足音が、段々と近づいてきていた。ゆっくりとした足取りで、チンが来た方向から、軍用機械人形が歩いてくる。まだ元々広場にいた数体の機械人形しか倒していないのに、同様のタイプの機械人形が更に20体ほど、チンの後ろに集まってきていた。
「追加かよ···」
追加の20体は、半分は大剣、半分はレーザー銃を構えている。レイフ達の姿を見るや否や発砲してくる。容赦なく発砲されるレーザーを、クォデネンツで受け止める。
「うーん、わかってはいたけど数が多すぎるんだなー!」
どっかーーーんっ!!とパパゴロドンは絶え間なく叫び、攻撃をしてくる機械人形たちを弾き飛ばす。足が脆い機械人形たちは床や壁に叩きつけられるが、間髪入れずに後ろの機械人形たちが攻撃を仕掛けてくる。
(敵は弱い。けど、数が多すぎる···これじゃ、ガリーナちゃんを助けに行けない···!)
自分達が来ているとわかれば、ガリーナの護衛も強化されるだろう。それだけガリーナ奪還は難しくなる。時間をかければかけるほど、自分達にとっては不利なのだ。
「レイフー、ユキー」
パパゴロドンが自分達の名前を呼ぶ。レイフはチンの動きに気を取られ、視線をパパゴロドンに移せなかった。
「お前らさー、俺を置いて先に行く感じなんだぞー」
「えっ」
レイフとユキの声は重なった。
「で、でもそれじゃ···」
「ここで全員が共倒れになったら駄目な感じだろー?せめてお前らは2人で嬢ちゃんを助けに行くんだぞー」
「そんな···パパゴロドンさん···!」
パパゴロドンが行かないことを、ユキは激しい抵抗感を覚えるようだった。
自分も同じである。彼をここに置いていくことなどできるはずがないではないか。
「どっかーーーんっ!!」
パパゴロドンが勢いよく叫ぶと、進行方向にいた機械人形が吹っ飛んでいく。
「お前らがいると足手まといな感じなんだなー!お前らに当たらないように、手加減しなきゃいけないんだからなー!」
「パパゴロドンさん···」
「さ、行くんだぞー!」
レイフは躊躇した。できるならこの場に残りたかったが――。
(目的を忘れるな!!)
目的は一貫して、ガリーナを助けることだ。
自分自身を叱咤し、ユキの手を取った。ユキは目を見開いたが、すぐに自分の判断に従ってくれた。6JLを使い、走る先にいる機械人形達に発砲をする。
「1人でこの数の機械人形と、私と戦うんですか?少々格好つけすぎではないでしょうか?」
「お前、男だろー?この間は女相手で手加減するしかなかったからなー、本気出す感じだぞー!」
パパゴロドンの吠える声が、後ろから聞こえてくる。攻撃的なパパゴロドンの声など初めて聞いた。
彼の声を振り切るようにして、レイフとユキは手を繋いで、廊下を走り抜ける。