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第2話(3) 今日日、今日日って……

 勇次と千景はすぐさま隊服に着替え、作戦室に入る。御剣がそれを確認して頷く。

「よし、全員揃ったな」

「あ、あの……」

 愛がおずおずと手を上げる。御剣が尋ねる。

「どうした、愛?」

「えっと……あの……なんと言えば良いのでしょうか……」

「? 何だかはっきりしないわね、愛さん、今は急を要する出動前ですわ」

「万夜の言う通りだ。愛、後でも良いか?」

「え、ええ、大丈夫です、すみません……」

 愛が手を下げると、御剣が億葉を見る。

「億葉、説明を頼む」

「はい、それでは皆様モニターにご注目下さい~」

 開いた壁にモニターが現れ、地図が映し出される。

「上越市のマンションに多数の妖の反応が見られます。級種は壬級、癸級が多数、中には辛級も何体か混ざっている模様です」

「前回の商店街と同じ部隊構成ですわね。出動はわたくしと億葉、おまけに単細胞の組み合わせで宜しいでしょうか」

「単細胞って誰のことだ、おい!」

「奇遇ですわね。わたくしも他に思い付きませんわ」

 いつものように睨み合う千景と万夜の様子に目をやりつつ、御剣が一瞬ではあるが考え込み、指示を出す。

「私と千景、愛と勇次の4人で向かう! 万夜は残って状況に変化が生じた場合の指示を頼む! 億葉と又左は待機だ!」

「ええっ! 脳筋3人で⁉ 愛さんの負担が大きすぎませんこと⁉」

「ちょっと待て、サラッと姐御まで馬鹿にしてんじゃねえよ!」

「ふっ、なんだかこそばゆいな……」

 御剣が鼻の頭を擦る。勇次が声を上げる。

「褒められてないですよ!」

「だ、大丈夫です、万夜さん。お気遣い頂きありがとうございます」

「愛さんが宜しいのであれば構いませんが……」

「それでは現場に向かうぞ。転移室に移動だ」

「あ、鬼ヶ島氏、ちょっと待って下さい」

「?」

 勇次を億葉が呼び止める。

「これをどうぞ」

「これは……?」

「作っておいた金棒ホルダーです。背中に背負うことが出来ますよ」

「成程……おおっ、これで両腕が使いやすい! 助かるよ、ありがとうな!」

「!」

「どうした?」

 億葉はやや顔を赤らめて呟く。

「思ったよりストレートに感謝されたもので少々面食らいました……」

「え?」

「い、いえ、なんでもありません。どうぞ出動を」

「あ、ああ」

 勇次が転移室に入ると、御剣が告げる。

「転移先はマンションのエントランスホールが良いだろう。行くぞ!」

 御剣に続き、千景と愛が転移鏡に吸い込まれていく。勇次もそれに続く。

「どわっ!」

 勇次はまたもや豪快にすっ転ぶ。それを見て千景が笑う。

「ったく、何をやってんだよ」

「み、妙に慣れなくて……」

「崖から崖に飛び移れという訳じゃない。小川をヒョイとひと跨ぎするイメージだ」

「わ、分かりました。今後気を付けます」

 御剣は頷くと、指示する。

「さて、もう分かっていると思うが、既に狭世が生じている。先のショッピングモールの様に、建物全体を覆っているようだ。これほどのことが出来るのは恐らく丁級以上の妖の仕業だ。レーダーに反応は無いが、どこかに潜んでいると思われる。注意しろ」

 御剣の言葉に3人は頷く。

「では二人一組で動こう。6階から上は私と愛。5階から下は千景と勇次に任せる」

「了解!」

「よし行くぞ、愛」

「はい!」

「気を付けろよ、愛!」

「……話しかけないでもらえますか、破廉恥さん」

 そう吐き捨てるように言い残して、愛は御剣に続いて階段を上っていく。

「あ……って何でちょっと離れてるんですか?」

 勇次は訝しげに自身と距離を取る千景に尋ねる。

「確かお前らって……幼馴染だとか聞いてたけど?」

「ええ、そうですよ」

「それなのにお前、今日日破廉恥呼ばわりされるなんて……相当だぞ?」

「いや、今日日って……これは誤解というか解釈違いなんですよ」

「何じゃそりゃ、さっぱりわけ分かんねえぞ」

「俺も分かりません……!」

 その時、勇次たちの身に着けている妖レーダーが反応を示す。

「! こっちだ!」

 千景が走り出し、勇次もすぐ後に続く。角を曲がると、勇次は驚く。

「! あれは……蝙蝠?」

 廊下の天井部分に蝙蝠型の妖が何匹か逆さまに止まっていた。勇次たちの接近に気が付くと、間髪を入れず襲い掛かってくる。

「くっ!」

 勇次が背中に背負った金棒に手を伸ばす。そんな勇次を千景が叱りつける。

「馬鹿か! そんなもん、こんな狭い所で振り回せねえだろ!」

「ど、どうすれば⁉」

「こうすんだよ!」

「ええっ⁉」

 そう言って、前に出た千景は拳を振りかざし、迫りくる蝙蝠を殴りつける。床に思い切り叩き付けられた蝙蝠は砕け散った。

「もう一匹来てる! 左上!」

「!」

 勇次の声を聞き、千景はやや体勢を低くして、すぐさま拳を振り上げる。強烈なアッパーカットが決まった形となり、天井に衝突した蝙蝠も無残に四散した。

「す、素手で……いや、俺も前回はそうだったけど、破壊力が段違いだ……」

「素手じゃねえよ、拳痛めちまうだろ」

 千景は自分の握り拳を勇次に見せる。その指には金属製の武器がはめられている。

「そ、それは⁉」

「これか? メリケンサックだ」

 千景はニヤリと笑う。

「剣とかは使わないんですか⁉」

「得物を振り回すのはどうも性に合わねえ……やっぱ女なら体一つで勝負だろ‼」

 千景はそう言って、両手を腰にやり、仁王立ちで胸を張る。勇次の目は思わずその立派な胸に釘付けになってしまう。その目線に気付き、千景は冷ややかに呟く。

「……どこ見てんだよ、破廉恥野郎」

「い、いや! で、でも両手だけじゃ……」

「心配……すんな!」

 千景が回し蹴りを放ち、後方から迫っていた蝙蝠を壁にめり込ませる。

「つま先だけじゃなく、踵にも鉄板を入れた特注の安全靴だ。妖退治は足元からだぜ?」

「き、今日日、安全靴って……」


※2021年7/1から7/8まででこの話を読んでくださっている方々へ



 7/9、主人公の一人の姓の読みを「かみすぎやま」から「うえすぎやま」に変更させて頂きました。話の大筋には影響ありませんが、一応ご報告させて頂きます。今後は気を付けますので引き続き宜しくお願いします。

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