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テトテ集落大感謝祭みたいな その4

 魔道船の中には講堂のような広いスペースがありまして、これが一般客室になっています。
 そこには固定された椅子がズラッと並んでいます。
 進行方向に向かって設置されている椅子の前には、水晶投影装置によって魔道船の前方の光景がリアルタイムで映し出されています。 
 左右の壁にある大きめの窓からも外の光景が眺められるようになっていて、この席の後方にコンビニおもてなし出張所があります。
 これとは別に個室の特別客室も10部屋設置されています。
 1周1時間もかからない現在の魔道船では使用する予定はありませんが、将来王都などへの運行をすることになったときに使用出来るようにと配慮しているわけです、はい。
 運行中は、乗客の皆さんは船内を自由に移動することが出来ます。
 もちろん、魔石動力室や操舵室など、一般のお客さんが入ってもらっては困る場所にはスアが作成した魔石結界によって入場制限がかけられています。
 甲板にも出ることが出来るようになっています。
 で、船縁の外に出てしまいますとすぐに地面に落下してしまいますので、落下防止用の柵はもちろんのこと、運行中は常時防壁魔法が展開される仕組みになっていまして、乗客は柵の向こうへは行けない仕組みになっています。
 甲板には個室が設けられていまして、そこが操舵室になっています。
 今のところメイデンが操舵手ってことになっていますので、防音・外部遮断・ドア締め切りなどの魔法がしっかりかけられています……なのに、さっき脱出してきてたんだよなぁ……ある意味怖い子です、メイデンってば……
 一見、外部と隔離されている操舵室ですが、その中には水晶投影装置によって、進行方向や周囲の状況、それに船内の様子までしっかり移し出されていますし、船内係の勇者ライアナとは思念波で話をすることが出来ますので、何かあった場合にもすぐに連携することが出来るようになっています。

 そんな魔道船が、いよいよ出発の時を向かえました。
 子供達が椅子に座って前方の水晶投影装置の画像を見ている中、魔道船は上空へと浮上していきました。
「え? 浮いた? 浮いたの!?」
「嘘? ホントに!?」
 画像だけでは信用出来なかった子供達が窓へ向かって駆け出していきました。
 で、そこから見える光景も当然、水晶投影装置の画像と同じです。
 グングン上昇していく魔道船。
 周囲の光景を見つめながら、子供達は目を輝かせながら歓声をあげていました。
 それは、保護者の皆さんも同じでして
「まさか、空を飛んでいるのか、これ?」
「嘘……信じられないわ……」
 みなさん、そんな言葉を口にしながら目を丸くしています。
 ここで僕が、
「この魔道船なんですが、近日中にガタコンベ、ブラコンベ、ララコンベの3都市の間を定期便として回る予定になっていますので、これからもよろしくお願いします」
 そう皆さんに伝えると、
「この船が定期的に!?」
「そりゃすごい!」
 保護者の皆さんも、子供達同様に歓声を上げていきました。

 船内では、勇者ライアナが分身した状態で、船内案内係とコンビニおもてなし出張所の店員を両方やっています。
 そのため、子供達だけでなく保護者の中にも
「あれ? そっくりな人がいる」
「双子の姉妹さんなのかな?」
 なんて声があがっていたりしました。
 でもまぁ、大きなトラブルにはなっていなかったので、問題無い感じです。
 ちなみに、コンビニおもてなし出張所では魔道船特有の品物を販売したらどうかって意見が出ましてですね、急遽魔道船を模したぬいぐるみを販売してみることになりました。
 作成は
「とりあえずお任せでよろしければやってみますわよ」
 そう言ってくれた魔王ビナスさんにお願いしたのですが、これが思った以上の出来でした。
 魔道船を可愛い感じにディフォルメしてある上に、手触りがモッフモフなんです。
 子供がちょうど抱きしめるのに適した大きさで、1000円/僕が元いた世界の貨幣換算で販売してみたのですが、用意してあった20個があっという間に完売してしまいました。
 あと、飲み物や軽食も思ったより売れた感じですね。
 この分だと、出張所も良い感じになっていきそうです。
「ところで店長、この人形はいくらで売ればいいのですか?」
「人形? そんなのあったっけ?」
「えぇ、この地獄の底から叫んでいるようなメイデンの……」
「おいブリリアン! なんでメイデンのキャラクターグッズが出張所に並んでるんだ!?」
「あいつ! なんかコソコソ作っていたと思ったら、そんな物を……」
 メイデンがいつのまにか忍ばせていた、このメイデン人形なんですが、すぐに撤去しようとしたのですが、なぜか3つも売れてびっくりしたんですよね。

◇◇

 ガタコンベを出発して10分もすると、魔道船の進行方向にテトテ集落が見えて来ました。
 集落の入り口にあります物見櫓の上にはいつものように集落の人が数人昇っているのが見えます。
 垂れ幕も、いつものように出ているのですが、今回はいつもの
『歓迎!パラナミオちゃん』から始まる我が家を歓迎する垂れ幕ではなく、
『歓迎!ガタコンベの皆様』
 になっていました。
 で、櫓の上の人々はみんな石畳の道の向こうを見ているようです。
 そんな皆さんの上空から、僕達が乗った魔道船がゆっくり下降していったのですが、それに気がついた集落の皆さんがびっくりしている様子が窓からはっきり見えています。
 そんな皆さんに見守られながら、魔道船は設計図通りに改造が施されている櫓の頭頂部へと接岸していきました。
 物見櫓から延びている桟橋部分に、魔道船から伸ばした筒状の通路がきっちりとはまりまして、魔道船はその高度を維持したまま動きを停止しました。
「はいでは皆さん、順番に降りてくださいね。走ってはダメですよ」
 案内係の勇者ライアナが営業スマイルを浮かべながら、まず子供達から出口へ誘導していきました。
 先頭をシングリランが歩いていまして、そのすぐ後ろをパラナミオとリョータが歩いています。
 リョータはまだ学校に行っていませんが、こうして少年姿になれるようになって、その姿を起きている間なら維持出来るようになったわけですし、入学を考えてもいいのかもしれません。
 で、他の子供達とその保護者がその後に続き、最後にテリブルアが歩いて行きます。
 その後に続いて、コンビニおもてなし勢も列をなして下船していきました。
 物見櫓をくぐり、その出入り口に僕達が姿を現すと、すでに先に降りたみんなが集落の皆さんから大歓迎を受けていました。
「ようこそ! テトテ集落の感謝祭へ!」
「さぁさぁ、皆さん大歓迎しますよ!」
 集落のお年寄り達の元気な声に出迎えられて、ガタコンベからやってきたみんなも、思わず笑顔を浮かべていました。
 とはいえ、そんなにのんびりとしているわけにはいきません。
 お祭りはもう始まっていますので、僕達も大急ぎで準備をしないといけません。

 子供達は、保護者と一緒に舞台の裏へと移動していきました。
 僕は屋台がありますので、スアに引率をお願いしています。
 スアは、おんぶ紐でムツキを背負い、アルトの手を引きながら、パラナミオとリョータと一緒に移動していきました。
 で、僕達も出店のコーナーへ移動していきます。
 そこでは、すでにオトの街の皆さんがやってきていまして、屋台の準備をちゃくちゃくと整えているところでした。
 ルアのお母さんのネリメリアさんの雑貨屋や、ラミアのラテスの軽食のお店、それに、白狐なヨーコさんとテマリコッタちゃんによるパン屋の屋台が軒を連ねています。
「さ、コンビニおもてなしも屋台の準備をやっちまおう」
 僕がそう言うと、みんなも笑顔で右腕を突き上げていきました。
 で、魔法袋からあれこれ商品を取り出しつつ準備を進めていると、おもてなし商会テトテ集落店の店舗の中からファラさんとアルリズドグが姿を現しました。
 2人の後方には木箱を抱えた魚人族の人々が続いています。
 おそらく、アルリズドグ商会で働いている方々なのでしょう。
 転移ドアを使用してやってきたティーケー海岸勢もこうして到着しましたし、さぁ、これで役者が揃ったわけです、はい!

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