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テトテ集落大感謝祭みたいな その3

 無事魔道船の試運転も終了しました。
 出発地点の池に戻った魔道船から降りたみんなは、
「おばちゃまはね、と~っても感動したのよね。何しろ魔道船なんて遠くで飛んでるのを見たことしかなかったのよね」
「ふぁ!? お、お、お、お婆さま、ま、ま、ま、魔道船を見たことがあるのでごじゃりまするか!?」
「いやぁ、いい酒だったなぁ」
「……ルア、飲み過ぎ……」
「ロマンティックでしたわぁ……お兄様と一緒に空の旅……」
 まぁ、みんなそれぞれ色んな事を口にしていますけど、総じてとってもいい笑顔をしていました。
 それが一番の収穫だったと思っています。

 その夜のパラナミオ達は、魔道船から眺めた景色が忘れられなかったみたいでして。
「パパ、すごかったですね! あんなに高~くあがって、あんなにはや~く進むなんて! パラナミオ感動しました」
「僕もです! あんなに空が近くに見えるなんて、本当に感動でした」
 ベッドの上で横になったまま、パラナミオとリョータが感動仕切りの様子で僕にあれこれ話しかけてきました。
 最近、成長したままの姿で過ごすことが出来るようになったリョータは、僕の左側で眠るようになっています。
 で、右側にパラナミオがいて、その横にアルト・ムツキが並んでいて、一番向こうにスアがいます。
 こんな感じで最近の僕は、パラナミオとリョータの2人に抱きつかれたまま眠るケースがとても多く……と、いうか、ほぼ毎日なんですけど……
 でもまぁ、毎日2人ともいい笑顔で寝ているので、まぁ良いかなと思っている次第です。
 ただ、今日は興奮冷めやらぬせいで2人とも寝る間を惜しむかのように話し続けています。
 で、その様子をスアがジッと見つめています。
 間違いなく、アレのおねだりなんですけど……
 以前のスアでしたら、会話に露骨に割って入ってきて僕を連れて行こうとしたはずです。
 ですが、今のスアが違います。
 スアは、僕に向かって楽しそうに話しかけているパラナミオとリョータの様子を見つめながら、その顔に優しい笑顔を浮かべていました。
 アレもおねだりしたいけど、今は子供達を優先してあげて……そう言っているようです、はい。
 そんなスアを見ていると、なんかスアも成長してるんだな、って思ったりするんですけど、よく考えたら僕よりも数百才レベルで年上のスアにこんなことを思うのも失礼なのかな、と思ったりもしちゃうんですけどね。
 そんな事を考えていたら、視線の先のスアがなんか頬を膨らませて怒っています。
 あ、これは間違いなくあれです。私はそんなに年をとってません!って抗議してる顔です。
 こういうところのスアは、やっぱり可愛いなと思ってしまうわけです、はい。

◇◇

 魔道船が出来たことで、各都市を短時間で結ぶ事が出来ることになりました。
 ただ、各都市事にスアが転移ドアを展開してくれているわけですし、このドアをもっと大型にしてみんなが使えるようにしておけば便利じゃないのかな? って思ったことがあったんですけど、それをスアに聞いてみたところ、
「……大きなドアは、ちょっと大変」
 って言ったんですよね。
 なんでも、一時的なら、一度にたくさんの人を行き来させるために大きな転移ドアを展開することも可能なんだそうなんです。
 ですが、これをドア状のまま、常時別の場所とつながった状態で維持しておくのが結構大変なんだそうです。
 転移ドアは時間経過とともに微妙なズレが生じるそうなんですが、それをスアが常時監視しながら微調整してくれているおかげで、おもてなしのみんなは他支店への出勤や品物の運搬に転移ドアを使用することが出来ているそうなんですよ。
 で、そのドアが大きくなればなるほど、そのズレも大きくなるため、それを調整するのも大変になるそうなんです。
 一番安定して維持出来るのが、今の普通の部屋のドアサイズらしいんです。
 このサイズでは馬車などは通れませんし、いちいち魔法袋に荷物を移し替えて都市間を行き来するにしても手間がかかりますしね。
 なので、この転移ドアのことは店の関係者以外には周知していないんです。

 下手にこれを公開して、もっと大きなドアを作ってくれって要望されて、そのことで僕が困っていたら、きっとスアは無理をしてでも大きな転移ドアを作ってしまうでしょう。
 いくらスアが伝説の魔法使いだからといって、僕はスアに無理をしてそういうことをしてほしいとは思いません。
 だから、このことは今後も一般には公開しないつもりです。

◇◇

 で、このテトテ集落のお祭りの話を聞いたダマリナッセ……
「もうテリブルアでいいって。暗黒魔法も封印されちまったんだしさ」
 そう言っている、おもてなし診療所のテリブルアがですね、
「で、こっちが本題なんだけどさ、そのテトテ集落のお祭りでさ、学校の子供達が歌を歌ったりしたらダメなのかな?」
 そう、僕に相談してきました。
「歌?」
「あぁ、歌だよ。今もさ、週に2回、パラナミオちゃんの学校に行ってお話をしてるだろ?そこでね、最近はアタシが知ってる昔の歌をみんなと一緒に歌ったりしてるんだけどさ、これがまたみんな上手なんだよ、すっごく。
 でさ、こんなに上手なら、どっかで披露させてやりたいなって思ってたんだよな」
 そう言うと、テリブルアは照れくさそうに笑いました。
 そう言えば、パラナミオが何度かその話をしていました。
 お姉さんと一緒にお歌を歌ったんですよ!って。
「なるほど、それは良いんじゃないか。きっと集落の皆さんも喜んでくれると思うよ」
「そ、そうか? じゃ、子供達に準備させてもいいか?」
「あぁ、じゃあ子供達の方の準備は任せてもいいかい?」
「わかった! このテリブルアに任せなさいって!」
 容姿が子供っぽくなったせいか、以前のような妖艶な言葉遣いから、腕白な女の子っぽい口調になっているテリブルアは、嬉しそうに微笑みながら胸を叩きました。

 まさか、あの「世界を滅ぼしてやるわよぉ」みたいな事を言っていたテリブルアが、子供達に歌を歌わせてやって欲しいなんて言い出すなんてなぁ……
 僕は、なんか感慨深い思いを抱きながらテリブルアを温かい眼差しで見つめていったんですけど
「な、何見つめてんだよ、き、気持ち悪いなぁ」
 テリブルアは照れくさそうに頬を赤くしながらそっぽを向いていきました。

◇◇

 そんなわけで、みんながあっちこっちで準備をしていきまして……あっという間に祭り当日になりました。

 参加者のみんなは、朝早くに魔道船が停泊している池に集合しています。
「うわぁ、大きな船が浮かんでる……」
「あれにのって川を遡るのかな?」
 魔道船が空を飛ぶとは夢にも思っていない子供達は、口々にそんな会話を交わしています。
 で、全てを知っているパラナミオは、話したくて仕方ないのを必死にこらえているようです。
 そんな子供達は、テリブルアと学校の教員件教会のシスターのシングリランの2人に引率されています。
 パラナミオが通い始めてすぐの頃は全員で6人しかいなかった学校ですけど、街が少し賑やかになったおかげで、今では20人近い子供達が通っています。
 その全員が、ここに集まっていました。
 子供達が歌を歌うということで、その保護者の方々も多数かけつけています。

 桟橋のところには、勇者ライアナが立っています。
 ちなみに、この勇者ライアナは、彼女が分身によって作り出した1人です。
 勇者ライアナの本体は、今は魔道船の中にあるコンビニおもてなし出張所の中で、品物チェックをしているはずです。
 まぁ、テトテ集落までは10分もかかりませんから、そんなに売れるとは思いませんが、あくまでも今回は予行演習として勇者ライアナにも慣れてもらおうとしているわけです。
「はい、では順番にお進みください」
 勇者ライアナ~分身は、笑顔で子供達を誘導しています。
 今のところ順調そのものです。
「これで、操舵手が問題を起こさなければ……」
「何を言うのですか店長様、この私、見事期待に応えて死ぬまでこの魔道船で操舵手を務めて見せますわよ。例え力尽き、休息を余儀なくされている際に陵じょ……」
「おいブリリアン! メイデンが操舵室から脱走してきてるぞ!」
「あぁ!?そ、そこにいましたかこんちくしょうめ!」
荒縄を手に駆けつけて来たブリリアンは、メイデンを拘束するとそのまま操舵室へと連行していきました。

 そんな2人の後ろ姿を見送りながら、早く正式な操舵手を見つけないとな……そう心に誓った僕でした。

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