第2話(2) 茶番、開始
聖良ちゃんが食事を受け取るカウンターの前に仁王立ちして、高らかに叫びます。
「第1回! 桃ちゃんのハートを掴め! チキチキ大食い対決~!」
なんでしょうかこの茶番は。凄く……恥ずかしいです。食堂中の注目を集めてしまっています。ヒソヒソ声やクスクスっとした笑い声も聞こえてきます。今はただ、「ケンカは止めない、二人は止めない、私を巻き込まないで争って……」って心境です。そんな私に構わず聖良ちゃんが続けます。
「サッカーは体力勝負! 体力作りに重要なのは食事! 強靭な胃袋を持っていた方が勝ちよ! まあ、食堂にいたから思い付いただけなんだけど!」
「要は多く食べりゃあ良いってことだろ、そういやビィちゃんさっき何か頼んでたよなぁ?」
「え⁉ あ、う、うん」
「メニュー選ぶのメンドイからそれで良いや、お前もそれで良いだろ?」
「フェアな条件ね……異論は無いわ」
「マスター、彼女と同じものをアタシとコイツに頼む」
マスターならぬ食堂のおばちゃんは元気よく「あいよー!」と答えました。数分後、並んで座った竜乃ちゃんと聖良ちゃんの顔は青ざめていました。
「いっただっきま~す♪」
「ち、ちょっと待って、桃ちゃん!」
二人のことは基本放っておこうと決め、目を輝かせながら、昼食を食べ始めようとした私を聖良ちゃんが制してきます。
「どうしたの?」
「い、いや、こ、これは何…?」
聖良ちゃんが指差した先には30センチほどの高さのトッピングが盛りに盛られたラーメンが2杯並んでいます。私は満面の笑みで聖良ちゃんに答えます。
「ギガ盛野菜マシマシMAXラーメンだよ!」
「こ、こんなメニューあったか?」
「うん、裏メニューだよ」
「裏メニューなんかあるの、ここの学食⁉」
本来ならば、並盛、大盛、特盛、メガ盛のラーメンを全て平らげし者にしかこの裏メニューを頼む権利は与えられないのですが、ノリの良い食堂のおばちゃんが特別に二人の分も作ってくれました。なんというサービス精神でしょう。
「じゃあ改めて……いただきま~す」
何やら困惑している二人のことは放って置いて、私は待望の「ギガ盛野菜マシマシMAXラーメン」を食べ始めます。まず上に盛られた、15センチ程の野菜を食べ始めます。このシャキシャキ感が堪りません。ラーメンではなく、モヤシの大盛りを食べているような錯覚を覚えます。モヤシとキャベツが主体の野菜ゾーンを抜けると、今度は豚肉ゾーンに入ります。放射線状にびっしりと二段に並べられたお肉達がなんとも美しいです。噛みごたえは柔らかく、とてもジューシーです。麺も柔らかいのですが、それでいてコシも強く、食べごたえは抜群です。さらにピリッと辛みがきいた辛味噌スープも良いアクセントになっています。スープも飲み干し、あっという間に完食しました。満足度は100%です。何故なら私はこの「ギガ盛野菜マシマシMAXラーメン」を食べる為に、この学校に入学したようなものなのですから。
「ごちそうさまでした!」
二人の様子を見てみると、聖良ちゃんは天を仰ぎ、竜乃ちゃんは俯いています。
「豚肉二層式とか……要らないからそういうサービス……」
「スープ辛ぇよ……ピリ辛ってレベルじゃねーぞ……」
「もう昼休み終わっちゃうね、じゃあ現状食べた量は……うーん、強いて言えば竜乃ちゃんの勝ちかな」
「へへ…やったぜ…」
「ま、まだ勝負はこれからよ……つ、次は……」
力なく呟いて二人とも机に突っ伏してしまいました。ちなみに勿体ないので、二人が残した分は私が美味しくいただきました。
「第1回! 桃ちゃんのハートを清めろ! チキチキ大掃除対決~!」
放課後になりましたが、茶番はまだ続くようです。
「サッカーはメンタル、つまり心のスポーツ! 心の乱れは掃除の乱れ! より綺麗に教室を掃除できた方が勝ちよ! まあ、放課後になったから思い付いただけなんだけど!」
やっぱり凄く……恥ずかしいです。廊下中の注目を集めています。ヒソヒソ声やクスクスっとした笑い声もよりはっきりと聞こえてきます。今はただ、「ケンカをしても良い、せめて私を巻き込まないで争って……」って心境です。
「それぞれ自分のクラスの教室、アンタはC組、私はD組を掃除するの! 制限時間は二十分、それじゃ、よーいスタート!」
異常な程ノリノリな聖良ちゃんが、自分の教室に入っていきました。いつのまにか、頭には頭巾を被り、顔にはマスク、更に手袋とエプロンも着用しています。言い出しただけあって、聖良ちゃんは見事な手際を見せて教室を綺麗にしていきます。掃除の基本である「上から奥から」がキチンと出来ています。掃き掃除を完璧にこなした聖良ちゃんが自慢げに竜乃ちゃんの方に振り返ります。
「どう⁉ この見事な手際! アンタには真似でき……ヴォッフォァ⁉」
聖良ちゃんの目の前で、竜乃ちゃんが黒板消しを両手に持ってポンポンと叩きました。煙が巻き上がり、聖良ちゃんはむせてしまいました。
「GA・SA・TSU! やり方がガサツすぎるわよ! なんで廊下でやるの⁉ せめてベランダでやりなさいよ!」
その後も竜乃ちゃんは、ホースで床に水を撒いてモップで拭く、ゴミ袋を窓から焼却場に直接投げ入れる等々、ガサツさを遺憾なく発揮していました。流石に掃除対決の軍配は聖良ちゃんの方に上がりました。
「これで一勝一敗ね! 次が最後の勝負よ!」