魔王
突然変異とでも言えばいいのか、稀にとんでもなく強大な個体が生まれることがある。今回それが生まれたのは、魔物の国であった。
魔物の国とは、人々から魔人と呼ばれる知恵ある魔物が統治している国で、魔人の支配下では、魔物はよほど下位の知性の無い存在以外は言うことを聞いた。良くも悪くも弱肉強食ということだろう。
そんな魔物の国に、それは生まれた。
生まれながらに強大な力を持ったその存在は、後に魔王と呼ばれる魔物の支配者となる。
ハードゥスには別世界の魔王が流れ着いていたが、そんなものとは比べ物にならない強さを有していた。それこそ、他の世界であれば管理者に届くほどの強さを有している。それは規格外というよりも、想定外の強さ。
もっとも、その存在が生まれた世界がハードゥスである以上、そんな魔王でも管理補佐にも敵わないのだが。
「………………溜まりに溜まった力が一部漏出でもしましたか?」
その存在が生まれた時、れいはそう推測した。ハードゥスは外の世界から流れ着いたモノで世界を構成している。そして、ハードゥスで死した者を構成していた力は、元の場所に還ることなくハードゥスに吸収されていた。
その吸収した大量の力の一部が、新たに生まれた存在に流れたようだった。元が人や動物などの生命体を構築するための力だっただけに、ハードゥスの力として取り込んだ後も、そういった機能が僅かに残っていたのかもしれない。
れいとしては面白ければそれでいいので、そこは管理上の穴として今後も残しておくことにする。れいからすれば強さも大したことないので新しいペット代わりとして、その偶然の産物を観賞してみることにしたようだ。
管理補佐達には、管理を任せているので独自で考えて対処させることにする。
もしもこれが管理補佐達では手に負えないほどに強いのであれば、れいの方で何かしら対処しようと考えたのだろうが、そうではないようなので問題はないだろう。
なので、れいは傍観者として魔王の行く末を眺めることにした。もっとも、れいに敵対するというのであれば、れいも容赦するつもりはないが。
その変異種が魔王になった後、まずは軍を再編し、近隣の平定に乗り出す。魔王が支配した国は魔物の楽園の大陸に存在していたが、その大陸も統一国家が存在しているわけではなかったのだ。
そうして魔王は少しずつ国を大きくしていき、時間を掛けて遂には大陸を統一してしまった。
それからは、まず内部の安定に腐心した後、様々な用意を行い、他の大陸にも侵攻を始める。
とはいえ、最近は平和な世の中ではあったが、それでも全ての国が危機感を薄めたわけではない。情報収集とその分析に余念がなく、魔王の野心に早い段階で気づいた国が在り、更にその情報を共有したために魔王の侵攻に備えていた国が多かった。
なので、他大陸への侵攻はそう上手くは進まない。過去に魔物の侵攻があったために、その対策もされていたというのも大きかった。
それに、魔王が自ら動けないというのも中々思うようにいかない理由でもある。
同じ大陸内ならまだなんとかなっても、流石に他大陸に兵と一緒に攻め込めるほど魔王の座は軽くはないのだ。統治者としてやることなど無数に存在するのだから。