脱出
そんなルースの大声に反応したのか、神殿の奥の方から、ゴゴゴと嫌な音が聞こえてきた。
元からかなりヤバかったんだろう。それがジールの張った罠の……いや、あいつのせいにしたくない。ダジュレイと暴れたのが悪かったんだ。
大急ぎでルースとタージアとチビを抱え、んでもってジールはマティエに運んでもらうことに。
ジールは大丈夫だとは言ってるが、痩せ我慢しないでもらいたい、息が荒いし。
だが……いくらチビに呼びかけても、頬を叩いても目を覚さなかった。
倒れた時に頭を打ったか? いや直前にタージアが支えてくれてたし(相当嫌だったみたいだが)。
「なにかがチビに憑依してたからね。そのせいで精神に多大な負担が……ってあああああ!」お節介ながら解説してきたルースの頭の上から、パラパラと石が。
猛ダッシュで出口のとこまでたどり着いた……が、俺たちが最初に入っていったあの場所はまっさきに瓦礫で押しつぶされていた。
振り向くと、大量の白い土煙がまるで突風のように俺たちを襲ってきた。視界ゼロ。戻ることも不可能だ。
「なんて……こった」ルースの悲痛な声だけがくっきりと聞こえた。
どうする、大急ぎで瓦礫から掘り出すか、それとも……
その時、俺が抱えていたタージアの身体が、またぽうっと淡く光り出した。
「タージア、お前……いったい」
目の当たりにしたマティエが、目をまん丸くして驚く。
そうだった、まだ俺以外このこと教えてなかったんだっけ。
「落ち着いて下さい……もう一つ、外に通じる道が……」
光る細い指先が、奥にあるひとつだけ色の違う壁をさした。
半分ばかし埋もれてはいるが……大丈夫だ!
「こ、ここだけ壁がもろく作られているんです。ラッシュ様とマティエさんで力を合わせれば、すぐ崩れます」
「タージア、いったい何故そんな事を!?」
「は、話は後ですデュノ様、早くしないと!」
そう、いまはここから一刻も早く出ることが先決だ。
こういう時だけマティエとは息が合う。
せーので壁を蹴破ると、そこからは冷たい外の空気と、それに……光だ!
なだらかな長い斜面を一気に駆け上る。崩落は俺たちのすぐ後ろまで迫ってきていた。
……出れた! ……とみんなで大喜びしたのもつかの間だった。
でかい地響きが、足の裏から思いっきり伝わってきている。つまり……は。
「ああ……ラッシュの思ってる通りさ」
はいもう一度猛ダッシュ! ルースは馬を呼ぶために、俺の頭の上に立って甲高い指笛を吹いた。
足元の舗装された地面からみしみしとひび割れが。おそらく神殿のあった場所を中心に、すり鉢のようにだんだん崩れ落ちていった。
「つまり、このパデイラの街は古来から存在した巨大な地下神殿の上に建てられていたんです……」
そう話すタージアの身体からは、例の光はなくなっていた……なんなんだあれは。
……………………
………………
…………
……
ルースが呼び寄せた馬車へと駆け乗った俺たちは、沈みゆくパデイラの街を夕日とともに見つめていた。
石造の建物まであった雄大な街は、今はもう土煙の中。明日になればもう大きな穴しか残されていないだろう。
「そういや、調査の結果とかって成果はあったのか?」
すっかり忘れてた。ルースたちは何か見つけたいって話してたよな?
ご心配なく。とあいつは背負ったカバンの中から一冊の分厚い本を俺に見せた。
何かの革であつらえられた、まるで辞典のような本だ。
ルースが言うには、祭壇に置かれていたこの本……恐らくはあのバケモノ、ダジュレイを召喚するためのものだろうと。
つまりはこいつを解読すれば、召喚した張本人からなにから見つけ出せることが可能かもしれないんだ。
よかった、成果はあったってことだな。
さて……と。「どうするこれから。城へと戻るのか?」
「いや、ジールやマティエの手当てもしなきゃいけないしね。ここからの近場となると、やっぱり……」
いこうか! 港町バクアに!