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【敵の陣地】

【敵の陣地】


 レイフは呆れた顔で、コナツの機体を外側から見つめた。



 アシス本部の、ゴーモ庫である。


 アシスというのは色んな惑星から集まったツークンフト達ばかりで、色んな形のツークンフト達が行き交う。ゴーモ庫に並べられたゴーモも形は多種多様で、コナツの機体はその中でも大きい方に部類されるだろう。



 レイフは敵陣にあっさりと潜入できたことに安堵しながらも、コナツの機体に書かれた文字を眺め、失笑せざる得なかった。



『いやああぁぁっ!!!あたしの美しい機体に、何してくれてんのよおおぉぉーーー!!』



 惑星ニューカルーから飛び立つ前に、ユキはコナツのゴーモ機体の塗装を派手に塗り替えた。その時のコナツの断末魔は、絶対に忘れられないだろう。



『あたしは、仮にもミヤ・クロニクル博士開発のゴーモよ!歴史的価値も高いのよおぉぉぉ!!何が悲しくて宅配業者のフリなんか···っ!!!』

『だって、こんな機体で乗りこんだら速攻バレちゃうじゃん~』



 ユキに塗装を塗り替えられ、コナツはむせび泣いていた。



 以前よりも若いとはいえ、母が激しく泣く姿を、レイフは初めて見たかもしれない。それほどにゴーモの対人インターフェイスであるコナツにとって、ゴーモ機体の見た目は大事らしい。



(まぁサクラと名乗っても、コナツのゴーモはそのまんまにしてたくらいだからな···。相当母さんにとっては思い入れがあるってことだ)



「レイフきゅん、手続き終わったよぉ~」

「お、おう。サンキュー」



 アシス本部に入るための手続きをしてくれたユキが、駆けてくる。



 レイフもユキも、今まで着ていた服ではなく、オレンジ色の作業着のような服に身を包んでいる。『安心・安全・速攻』というキャッチフレーズが書かれた帽子を深く被り、顔を隠しているが―――今のところ、気づかれていないはずだ。



「一応、顔は隠し気味な感じでお願いするんだぞー」



 コナツのゴーモ機体から、パパゴロドンとコナツが降りてくる。2人とも同じ恰好をしており、コナツは大きな瞳できょろきょろと周囲を見渡す。



「23年ぶりだけどぉ···あんま変わってないのねぇ。昔のまんま···」



 コナツは、元々アシスのものだ。彼女はどこか懐かしさを含め、瞳を動かしている。ここでは対人インターフェイスであることも隠すつもりはないのか、宙に浮いていた。



「お前の顔で一番気が付かれそうで、俺は怖い感じだなー。一応隠れとけよー」

「うーん、そうねぇ···」



 コナツはレイフやユキを何度か見比べながら、渋々といった風に頷いた。



「予定通り、最初はイングリッドシステムの管理ルームへ行ってねぇ!そこでガリーナの位置を把握するところからねっ!」

「わかった!母さん!」





 アシス本部の地図データを見せてもらったが、アシス本部は広い。がむしゃらにガリーナを探すのは得策ではないと判断し、まずはアシス本部のシステム全てを司るイングリッドシステムの管理ルームに行くことを計画していた。



 レイフの返事を聞くと、コナツは不安そうな顔つきながらも姿を消していく。



「何かあったらあたしを呼んでねっ!あんた達のラルで呼び出せば、反応できるから!」



 アシス本部までの道中、3人のラルを使っていつでもコナツのことが呼び出せるようにシステムをアップデートしてもらった。自分達のラルでアシス本部の地図データを起動もできれば、コナツのゴーモ機体を呼び出すこともできる。



 ガリーナを助けるために、コナツは全面的にサポートをしてくれるようだ。



「さ、急いでイングリッドシステムの管理ルーム行こう~」



 レイフはラルを起動し、地図データを眼前に開く。



 現在はアシス本部のゴーモが出入りするゴーモ庫で、長い廊下を歩いて、下層部にあるイングリッドシステムの管理ルームに行かなくてはならない。



 ゴーモ庫を出る時も、宅配業者に化けたレイフやユキ、パパゴロドンを訝しがる者はいなかった。自然と、3人の足取りは速まる。



 廊下に出ると、壁が透明になっており、広大な宇宙空間が見渡せる。



(本当に、ここは人工で作られた惑星なんだな···)



 惑星トナパ、惑星ニューカルーくらいしか行ったことがないレイフは、心中で感動する。

 広大な宇宙空間が目の前に広がっているのだ。本来ならしげしげと見つめていたかったが、早歩きしながらも横目にするしかなかった。



「侵入するのは、簡単な感じだなー。大丈夫なのか、アシスー」

「ユキのおかげっすねー。母さんの機体をいじるとか、なかなか思いつかな···」



 パパゴロドンの軽口にも、レイフは微笑を浮かべて答えかけた時。


「えっ」


 ――激しい振動が、レイフ達の足を止めた。



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