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15話

「は……?」

思わずポカンとしてしまった。いや、誰が見てもしてしまうに違いない。
何せ、何もなかった……大量の切り株のあった位置が、軽く林と化していたのだから。

「ここ…って、家に使った木材が、生えてたとこ…だよね?」

思い返すのは数日前。初めてこの地へやって来たときの事。
最初は朽ち果てた家の跡地と、大量の杉の木が生い茂っていた。
その杉達は今、大量の切り株を残し、ココロの家へと生まれ変わったはずだ。

確かに一昨日、この切り株が点在しているだけの空き地を、どうにかした方が良いだろうかと思いながら、一旦保留にしておいたけれど。
昨日は、特に気にも留めていなかったから、恐らく切り株のままだったはずだ。
つまり、一晩で切り株の空き地から、林へと成長したと言うことになる。
なぜこうなったのか。…思いつくのは2つ。

「みどりの手か、新しいスキルか……」

農園は最初に思い至ったが、すぐに否定した。
木は農園ではなく林業だ。親の知り合いに林業を営んでる人もいたが、こちらに関しては、そういう仕事もある、程度だ。

みどりの手に関しては、どんなスキルなのか未だに謎である。植物を育てるのが上手な人をそう呼ぶとどこかで見たことがあるが、それが該当するなら自動農園と被ってしまうので、違う気がする。
だとすると、新しいスキルなのかと、タブレットを開く。予想は外れた。みどりの手と自動農園以外、表示されていない。
予想は2つとも外れてしまった。それならば、手段は残り1つ。

「レツ、お願い出来る?」
「はーい、きいてみる!」

木はもちろん植物。レツに、なぜ一晩で一気に成長できたのか聞いてもらう。
いや、成長では無いのかもしれない。苗木を植えたわけでは無いのだから。

「ココロー」
「あ、何か分かった?」
「わかった!あのね、ほうが、だって!」
「ほ、ほうが?」

『ほうが』とは一体何なのだろう。初めて聞いた。
初めての言葉に戸惑っている間にも、レツは言葉を続ける。

どうやらこの場所も、みどりさんが望んで作った場所のようだ。
過程は『果物畑』と同じ。この林の下には、果物畑にあった泉の水が地下水として染み込んでいるらしい。果物畑とは違い生え変わりはしなかったが、先日、家を建てるために切り倒し、残った切り株がその水を吸い上げて再び林へと成長したのだそうだ。

一気に成長した理由は分かったが、結局『ほうが』の意味は分からず、さらには泉の謎まで追加される結果になった。


「さて、と」

一先ず、ケーキ作り以外の予定は全て終わった。けれどまだ昼にすらならない時間。手持ち無沙汰になってしまった。

「んー、どうしようかな」
「かな?」
「かなー!」

意味もわからずココロの言葉を繰り返す妖精達。その姿を尻目に、タブレットへ目を落とす。
何かできることがないかと探す。ここで何もないからのんびりしよう、と思い至らないのは、ブラック企業で働き詰めだったころの名残なのだろうか。

「んー、特にないか…ん?」

ふと、野菜畑を映すマップの端に、何かのマークが描かれていることに気が付いた。
楕円の上に簡易な家が描かれ、よく見れば柵のようなものも見える。
なんとなく、何を表しているのか予想できたので、そっとタップしてみた。

「あーやっぱり」

タブレットに表示されたのはこの土地の全体図だった。
ただ、表示されているのは入り口と家、その裏の林、野菜畑、クッキーの家、果実畑。そしてそれぞれを繋いでいる一本道だった。
他は白いまま。それでも全体図だと理解できた。
ちなみに野菜畑の位置には野菜のマーク、果実畑には果実のマークが描かれ、それぞれタップして詳細マップを開くことが出来るようだ。

おそらく白いままの所は、まだ足を踏み入れていないところだろう。
この既視感のあるマップ。形は違うが、入るたびに地形が変化するとあるゲームに似ている。ここは、入るたびに変化したりはしないけど。

そうとなれば、やることは一つ。この土地を踏破する事だ。
どれだけの広さがあるか未だに把握できていないし、マップは埋めておいた方が便利だし、果実畑以外にも何かあるかもしれないし。それになにより。

「探索楽しそう!」

色々と理由を述べてみたが、結局はこの一言に尽きる。早速出発!と行きたいところだが、一度家へ足を向けた。
先日作り置きした出汁を取り出し、電子レンジで解凍する。その間にコメを洗い、水と砂糖、醤油を加えたところで出汁の解凍も終わったので、加えて炊飯にかける。
そしてボトルに砂糖と塩、レモンの絞り汁を入れてから水を入れ、蓋をして軽く振る。
日除けに帽子をかぶり、肩掛けバッグにボトルを入れて、改めて外へ出た。

「よーし、じゃあ探索に「ココロー」」

出発!と続けようとしたところで、ロズが声をかけてきた
どうしたのかと思いそちらへ目を向けると、放牧しておいたクッキーがその隣にいた。

「クッキー、どうしたの?」

二日続けて街を往復している。ここへやってきたときのことを考えると三日連続だ。
今日はのんびりしてもらおうと放牧していたのがだ、何か言いたそうだ。

「んとねー、いっしょにいきたいって!」
「え、でも声かけてないのによくわかったね」
「ここひろいから、のってって!」
「え」

欲しい答えは貰えなかった。しかも困惑する返答付き。
ハロルドからクッキーを譲り受けた時に、乗る練習をしてくれると言ってくれているが、その機会はまだない。
つまり、まだ乗れないのだ。無理に乗って危険な目にあってしまってもいけない。
だから断ろうと口を開くと、ロズに先を越された。

「ココロがのってるときは、ゆっくりあるくからだいじょうぶ、だって」
「んーでも…」

ココロの気持ちを汲み取れているのか、クッキーはジッとこちらを見つめてくる。
乗ってしまえば大丈夫なのだろうが、残す問題は乗るまで。乗る方法が分からないと思っていると、クッキーに乗せたまま外れない鞍(馬車)が一瞬光を放つ。
その一瞬に思わず目を瞑る。そっと目を開けると、鞍は椅子のように形を変え(落下防止にベルトもついている)、そこへ乗れるように足場が表れていた。

「い、一体何が起こったの…?」

呆然と、足場を含めクッキーを眺める。
けれどこの光景は、一昨日も似たようなものを見たことを思い出した。
鞍が馬車に変形し、降りると鞍へ戻った。おそらくそれと同じ原理だろうと結論付ける。

「じゃあ、お邪魔シマス」

恐る恐る足場を使いクッキーの背にある椅子に腰かける。足場はすぐに消えた(収納された?)。
これではどこからどう見ても乗馬ではないから、また落ち着いたころにハロルドに教えてもらうのもいいだろう。
そう思い視線を前に向ける。
馬の背に乗っているのだから、いつもより視線が高い。少し遠くまで見渡せる。

「じゃあクッキー、お願いね」

改めて、探索に出発した。

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