【奪われる】
【奪われる】
嬉しさに顔をほころばせるが、後ろを振り返った瞬間に嬉しさなど消え失せる。
「――がああぁっ!!」
レイフは後ろを振り返った瞬間、痛みに叫び声をあげた。
「レイフッ!!」
身体全体に走った電流に、レイフは砂の地面に伏した。ガリーナが自分に駆け寄り、身体に触れようとする。だが電気が走る自分の体に、ガリーナは触れることもできなかった。
「やめて!!どうして···!」
「どうして?敵だからに決まってるだろう。勘違いしてもらっては困る」
フィトは、あえて冷酷に言っているようだった。彼の言葉には苛立ちが込められている。間違いなく、それはガリーナに向けられているものだ。
彼は電気で自分の身体に攻撃をしてきたのだ――リオカルマーシュを倒して、すぐに。
「俺は、アクマの子の駒ではない。思いあがるな」
「やめてっ!!」
ガリーナが悲鳴をあげる。自分の身体に触れたくても触れられないことに、もどかしさを感じているようだった。
(そうだ。このMAは···敵だった!!)
一瞬、油断してしまった。本来ならリオカルマーシュを倒した後、すぐにガリーナと逃げた方が良かったのだ。
「君は本当に、アクマ信仰なんだな。アクマの子の言うことを喜々として聞いて···」
「···違うっ!!」
「どこがだ?半獣も、MAも、アクマの駒ではない。断じて、戦争の駒であってはならないのに···!!」
フィトの荒々しい感情とリンクして、レイフの身体を蝕む電気の力は強まる。息をすることすら許さないような痛みに、レイフは叫び声をあげた。
「やめてよっ!レイフを傷つけないでっ!!」
「アクマが命令するなっ!!」
ガリーナは、レイフが持っていたクォデネンツを奪った。
大きな剣を持つことに慣れないガリーナは、がしゃりと剣先を砂の地面につけてしまう。
「何だ?それで戦うといのか?」
「この剣と、私を手に入れたいんでしょう?···行くから、レイフを···弟を傷つけないで···下さい···」
命令するなと怒鳴られたことで、ガリーナの口調は弱々しい。弱々しいが、傷つけられるレイフを見てはいられないと、確固たる意志が込められていた。
せめて弟を守りたいという、ガリーナの気持ちは――レイフにはひしひしと伝わってくる。
「ガリーナちゃん···ダメだ···」
「ダメじゃない。レイフが傷つくの、見たくないもの」
レイフの身体に走る電気が、止まった。やっと止まった攻撃だが、身体は引き続きしびれて、レイフは動くことができなかった。
「ラルを持ってこい。クォデネンツだけ持たれても、意味がない」
ガリーナは自分の身体に抱きついてきた。しびれた自分の身体に、彼女のふくよかな身体がくっつてくる。先ほどはくっつかれてドキドキしたのに、今は感動も何もない。
彼女が、フィトと行くと言ってしまったのだ。
「ごめんね、私のせいで」
「ダメだ、ガリーナちゃん。行っちゃダメだ」
指の1本も、レイフは動かすことができなかった。ガリーナを抱きしめたくても、できない。もし身体を動かせたのなら、彼女を抱きしめるだろう。行くな、と強引に止めることができただろう。
ガリーナは自分の指からラルを抜き取る。彼女が持ったクォデネンツが消失してしまった。
「行っちゃだめだ、ガリーナちゃん」
ガリーナは、美しく微笑んだ。
彼女の顔は、やはり美しい。果物で汚されようと、傷つけられようと、彼女は絶対的な美しさを持ち備えていた。
(これがアクマの子?そんな訳がないのに)
アクマの子として、貶められて良い子ではないはずなのに。
ぽとりと、ガリーナの手から”何か”が落ちた。砂の上に落ちたそれに気づいたのは、レイフだけだっただろう。
「ごめんね、私のせいで」
ガリーナはレイフに、優しく囁きかけた。