なんか変なのがニュッと出る その2
次の休みの日。
僕達はララデンテさんを案内役にして、一路魔道船の残骸探しに出かけました。
今回はドゴログマのように異世界に行くわけでもありませんし、ちょっとしたピクニック気分です。
メンバーは、僕とスア、それにパラナミオ・リョータ・アルト・ムツキの子供達。
ここに、案内役のララデンテさんと
「なんか新しい魔獣がいそうでござるな!」
「腕がなるキ」
と、やる気満々なイエロとセーテンの、合計9人……ん、まてよ、8人と1幽霊?
まぁ、とにかくそんな面々で出発した次第です、はい。
今回の移動はスアの魔法の絨毯を使用することにしました。
電気自動車のおもてなし一号でいけない距離ではないんですけど、それなりに距離があるもんですから電力がもつかどうかちょっと不安があったんですよね。
朝早くからみんなのお弁当も作りました。
今日はパラナミオが頑張って早起きして手伝ってくれたんですよ。
少し眠たそうでしたけど、野菜を洗ったり千切ったりして頑張ってくれました。
程なくして……
準備が整った僕達は、魔法の絨毯に乗り込み出発しました。
「うわぁ! いい眺めです!」
「あ~!」
「うきゃ!」
パラナミオ・リョータ・アルトの3人は、絨毯からの光景に歓声を上げています。
何しろ速いですからね。
みんな流れていく周囲の景色が楽しくて仕方ないようです。
半刻もしないうちに魔法の絨毯はルシクコンベのある高い山の脇を越えました。
「パパ! 大きな水たまりです!」
パラナミオが前方を指さしてそう言いました。
で、僕がその方向を確認しますと……綺麗にまん丸な形をした湖が森の中にどん!っと姿を現しています。
「パラナミオ、あれはね湖って言うんだよ」
「湖ですか?」
僕の言葉を聞いたパラナミオは目を輝かせながら湖を見つめています。
海に行った時もパラナミオってばこんな感じで喜んでいましたし、パラナミオは水辺が好きなのかもしれません。
サラマンダー形態になって水浴びとかするのが好きなのかもしれませんね。
そんな事を考えながら、僕はパラナミオと一緒になってドンドン近づいてくる湖を見つめていたのですが……その時です。
湖のど真ん中から何か変なのがニュッと出て来ました。
「……ん?」
僕は思わず目をこすり、改めて湖を見直したのですが……うん、どうも見間違いじゃないようです。
湖のど真ん中からニュッと出て来たそれは、空中に浮かびながらゆっくりと上昇しています。
「なんでござる? あれは?」
「なんかボロボロッキ」
イエロとセーテンも、そんな言葉を交わしながらその物体を見つめています。
それはどうも船のようです。
ただ、様子がおかしいんですよね。
と言いますのも……全体的にボロボロでして……っていうか、そもそも船が空に浮くなんてあり得ないでしょう?
そんなことを僕が思っていると
「ありゃ? あれはひょっとして魔道船か?」
ララデンテさんがそんなことを言い出しました。
「え? 魔道船? 僕達が探しに行ってるあの?」
「あぁ、そうなんだけど……なんで航行出来てんだ?」
ララデンテさんが言うにはですね、僕達がここに探しに来ている魔道船の残骸はですね、それなりに現状は保ってはいるものの魔石の魔力はなくなっているし、そもそも船体が相当痛んでいるはずなので、そのままの状態では飛行出来ないはずなんだそうです。
「……となると、あれは一体……」
僕がそんなことを思っている中、その謎の飛行船は僕達に向かってどんどん近づいて来ます。
よく見ると、その甲板に誰か立っています。
……なんか、骸骨のマスクを被っている女性のようですね。
で、お互いに顔が見えるくらいの距離に近づいたところで、その骸骨のマスクを被っている女は
「お、お前!?」
僕を指さし、ワナワナと体を震わせはじめました。
「……旦那様、知り合い?」
「いや、あんな趣味の悪いマスクを被る人に心当たりはないなぁ」
僕とスアがそんな会話を交わしていると、その女はマスクを脱ぎさり、謎の飛行船の船首に向かってズカズカと歩み寄って来ました。
「見ろ! この顔に見覚えがないってのか!」
で、その女は、自分の顔を指さしながら僕に向かって声を荒げてきたんですよね。
「……旦那様、ああ言ってるけど?」
「う~ん……やっぱり見覚えがないなぁ」
僕とスアがそんな会話を交わしていると、その女は甲板の上で壮大にずっこけていました。
……どうやらノリはいい人のようです。
で、その女はですね、どうにか立ち直ると、
「お前、この私をコケにする気だね……まぁいいさ。余裕かましていられるのも今のうちだ。この闇の嬌声の足の爪の女首領ジルル様が、こないだの恨みをたっぷり晴らさせてもらうよ!」
はい、ここまで言われてやっと僕も思いだしました。
以前、ツメバを罠にはめて金をむしり取ろうとした、あの馬鹿女ですね、こいつ。
そんなことを考えている僕を、ジルルは指さしています。
「お前、今なんか失礼な事を考えていただろう?……まぁ、いいさ。その余裕も今のうちだ。
お前のせいで金は儲け損ねるわ、辺境駐屯地のやつらに捕まるわ、でホント散々な目に遭いまくったんだからね! 恨み、晴らさせてもらうんだから!」
ジルルはそう言うと、右手を振りかざしました。
すると、それを合図にして謎の飛行船のあちこちから、なんか大砲みたいなものがにょきにょき出て来ます。
「おっと……アレで攻撃されたらちょっとヤバいかも」
それを見て、ララデンテさんがそう言いました。
で、それを聞いたスアはですね、水晶樹の杖を取り出すとそれをジルルに向かって突き出しました。
次の瞬間……甲板からジルルの姿が消え去りました。
……って、え?
「……す、スア……ジルルをどうしたの?」
「……吹っ飛ばした、の……辺境駐屯地のど真ん中、に」
そう言うと、スアがさらに水晶樹の杖を振り回していきます。
それに呼応して、謎の飛行船……おそらくは魔道船ですね、その各所から出現していた砲台らしき物が全部引っ込んでいきました。
程なくして、僕達を乗せた魔法の絨毯は魔道船の甲板に着陸しました。
すると、その周囲に無数の骨人間(スケルトン)達が集まって来ます。
「ひょっとしてこいつらってば、あのジルルが召還したのか?」
「……多分、そう」
スアがそう言いながら、水晶樹の杖をかざし……かけたのですが、そんな僕達の前でその骨人間達はですね、どんどん砕け、粉状になって消滅していったんですよ。
……そういえばそうでした。
骨人間って黒魔術による召還魔法で呼び出されるんですけど、日に当たると粉になって消滅しちゃうんですよ。
どうやら、船に不審者が侵入したら迎撃するようジルルに命令されていたらしい骨人間達は、船のあちこちからわき出してきては僕達に向かってくるのですが、その都度日の光で消滅していくという……なんともお粗末な状態を繰り返していきました。
で、10分もしないうちに骨人間は出てこなくなり、甲板の上には大量の骨人間の粉だけが残っています。
で、スアはですね、その粉に歩みよりまして魔法袋にそれをせっせと詰め込み始めました。
「……この粉、色々なことに使えるの、よ」
そう言ってニッコリ微笑むスア。
で、スアはですね、その作業を行いながらも僕達の周囲に防壁魔法を展開することも忘れていません。
パラナミオ達もお手伝いしてその粉を回収し終えると、僕達は船内へと入っていきました。