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なんか変なのがニュッと出る その1

 僕はコンビニおもてなしの店長の他に、この辺境都市ガタコンベの領主代行を務めています。
 実務の大半は商店街組合を仕切っている蟻人のエレエがやってくれていまして、僕はエレエが持ってくる処理済みの書類に目を通してサインするだけという、ホント名ばかり領主なわけです。
 本来ならこんな領主はありえないんですけど、何しろこのガタコンベがある場所って王都っていうこの国の首都みたいなところから相当離れているもんですから、正直そんな都市のことまで構ってられないっていうのが王都の本音なんでしょうね。
「名ばかりでもいいから領主任命しとけって」
 的なお達しが王都から来たせいで、僕にその役が回ってきたわけです、はい。
 そんな経緯とはいえ、一応領主は領主です……無報酬なんですけどね……とりあえず書類には必ず目を通すようにはしているわけです、はい。
「しかしエレエ……気のせいか最近王都から回ってくる書類がえらく少なくなってない?」
 今日も今日とて、律儀にコンビニおもてなしの営業時間が終了してから書類を持って来てくれたエレエに対して、僕は思わずそう言いました。
「ですよねぇ……理由はよくわからないのですが、最近王都からの文書がめっきり減っているんですです」
「ふ~ん……まぁ、こっちとしてはその方がありがたいからいいけどさ、ちょっと気になるよね」
「心配しなくても、きっとそのうち今までの分までまとめて届きますですです」
「あ~……お役所って結構そういうとこあるよね~……」
 僕は、エレエと顔を見合わせながら思わず苦笑していきました。
 ただ、王都で何か起きているのは間違いないらしく、
「そうですね、酒場でも結構その話が出てますよ。なんかデモがあったとか、どこかの都市の領主が拉致されたとか……」
 おもてなし酒場を取り仕切ってくれているネプラナもそんな話を教えてくれた次第です。
 まぁ、とはいえ、王都は王都、コンビニおもてなしはコンビニおもてなしです。
 何があっても慌てないように、僕はコンビニおもてなしの営業に専念しないとな……そう思うわけです。

 そんな中、辺境都市連合会議が開かれました。

 バトコンベがある一帯には、バトコンベの他にもブラコンベ・ララコンベ・ルシクコンベなど、いくつかの辺境都市が集まっていて、辺境都市連合の協定を結んでいるのですが、そこの代表が定期的に集まって報告会みたいな事を行っているわけです。
 ちなみに、すんごい高い山の頂上にありますルシクコンベは今回も欠席でした。
 今は転移ドアがありますので、それを使って来てくれてもいいですよって話をルシクコンベの長、グルマポッポに話をしてみたのですが、
「外部との接触をしないのが方針ですぶひぃ……お気持ちだけありがたく受け取らせて頂きますぶひぃ」
 ってお返事だったわけです、はい。

 で、会議の方は、実質各都市の蟻人さん達による意見交換会の様相になっていきました。
 どの都市でも、実務能力が異常に高く事務仕事をするために産まれて来た種族といっても過言ではない蟻人が活躍しまくっているわけでして、勢いそうなるのも仕方ないわけです。
 で、僕や、辺境駐屯地の隊長と領主代行を兼ねているゴルアやメルア達はその話合いの様子をお茶を飲みながら眺めていたわけです、はい。

 で、まぁ、今回の話合いを総括すると……
・各都市とも運営は順調
・都市間の交通の便もよくなってきた
 まぁ、ざっくりそんな感じのお話が各都市から報告されていった感じです。
 ただ、そんな中でも結構話題になっていたのは、やはり交通の便のことでした。
 各都市の間の道は、かなり整備されてきてはいます。
 定期の馬車も通い始めていますしね。
 バトコンベ周辺では、元猿人盗賊団達が馬車の護衛任務まで行っていますし、評判も上々です。
「それでも、都市間の移動には近いところでも丸1日、最高で往復に2週間かかる都市もあるですです」
 と、各都市の蟻人さん達は、以前よりは改善されたものの、もっとどうにか出来ないもんだろうか、と言ってはいたのですがさすがに妙案がすぐに出てくるはずもなく……
 結局、結論としては街道の整備を続けようってことになって今回の会合はお開きになった次第です。
 その会議の中で話題になっていたのですが……王都の方では定期魔道船ってのが運行されているらしいんですよね。
「あれがあればですです~……」
 そんな声が一部からあがっていた次第です。

 で、スアの転移ドアをくぐって家に戻ってきた僕は、スアに早速このことを相談してみました。
「……魔道船?」
「うん、そういうのが王都で運行されてるらしいんだけど……スアの力で作れたりしないかな、と思ってさ」
 僕がそう言うと、スアは腕組みして考え込み始めました。
「……出来なくはない、かも……」
 首をひねりながら、スアは指を2本立てました。
「……あの、ね……2つ欲しい物がある、の」
「2つ?」
「……うん、1つはね、魔道船の設計図……もうひとつは、おっきな魔石……」
 スアは僕を見つめながらそう言いました。
 スアが言いますには、魔法で魔道船らしき物を形作ることは簡単なんだそうです。
 ただ、常時空を飛ぶ魔道船に関する知識をスアはあまり持っていないそうなんでして、そのため、空を飛ぶ魔道船の船体として耐えうる船を形成する自信がないそうなんですよ。
 魔法絡みなのにスアでもわからないことがあるんだなぁ、とびっくりしたのですが、なんでも、この魔道船って元々はこのパルマ世界ではなく、魔法界っていう別次元の世界の創造物なんだそうで、この世界で編み出されたもんじゃないんだそうです。
 王都で運行されてる魔道船も、魔法界製の魔道船の設計図を元にして作成されたんじゃないか、って言うのがスアの推測でした。
 で、おっきな魔石っていうのはですね、魔道船を動かすための燃料にするそうなんです。
 それには、かなり大きな魔石を使用する必要があるらしいのですが、そんな大きさの魔石を、スアも今は所持していないんだとか。
 ……その、「今は」ってとこがさすがスアだよなぁ、って思わず思ったわけですが……
「と、なるとだ……その都市に行ってその図面を見せてもらうか……」
 そうは思ったものの……果たしてそんな重要な書類をすんなり見せてもらえるもんでしょうかねぇ……
 僕が首をひねっていると、スアも同じ事に思い当たっているらしく、
「……最悪、残骸でもあれば……なんとかなる、のに……」
 スアはそう言いながら考え込んでいきました。

◇◇

 その翌日のことです。
「あぁ、あるよ。魔道船の残骸」
 四号店の様子を見に来ていた僕に、ララデンテさんがあっさりそう言いました。
 僕が温泉饅頭を焼く機械の調整をしている間の雑談で、魔道船の話になったんですけど……その話の最中に、ララデンテさんがあっさりそう言ったんです、はい。
 僕、目が点です。
「え? あ、あるんです!?」
「あぁ、あるよ……この世界がまだ魔法界と友好関係を結んでいた頃はさ、向こうからの定期便が運行されてたくらいだし」
 そう言って、ララデンテさんは笑いました。

 最近では温泉饅頭のお姉さんとしてララコンベの名物の1つになっているララデンテさんですが、よく考えたら、この世界と魔法界を結んでいた門(ゲート)の守護者をしてたすごい人ですからね。
 すでに肉体は朽ち果ててて、思念体~僕の世界で言うところの幽霊的な存在なわけですけど、その知識量は半端ないわけです、はい。

 と、言うわけで……

 その話を聞いた僕は、その日の夜スアに相談しました。
 で、相談の結果、この魔道船の残骸を回収しに向かうことにしました。
 上手くいけば魔道船が作成出来て、各都市をこの魔道船で繋ぐことが出来るかもしれません。
 で、一緒に僕の家まで来てくれたララデンテさんは
「そうだな、ここから一番近い場所だと、確かこのあたりだったかな」
 そう言いながら、この一帯の地図の一角を指さしました。

 それは、ルシクコンベのもう少し北にある大きな湖の近くでした。

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