なんか変なのがニュッと出る その3
魔道船内は外見よりもかなり改修が進んでいて、一見すると普通の船の内装と大差ないまでになっていました。
ちなみに、ジルルが被っていた骸骨のマスクなんですが、スアが調べたところ呼吸魔法が付与されていました。
わかりやすく言うと、あのマスク自体が酸素ボンベの役目を果たせるようになっているそうで、水中でもこのマスクを着用していれば呼吸出来るんだそうです。
で、船内は船体自体が水中にあったせいで水浸しなんですが、1箇所、船長室らしき場所だけはまったく濡れていませんでした。
スアにここも調べてもらったところ、やはり空間魔法が展開されているそうで、この中には水が入ってこないようになっていたんです。
で、その船長室の机の上に、何やら書きかけの紙が山積みになっています。
「なんだこれ?」
僕は、それを手に取ってみたのですが……表紙にでかでかと『闇の嬌声の足の爪による戦闘魔道船構築計画』って書かれています。
僕は、それをめくっていったのですが……
それによりますと、ジルルはこのあたりの伝承を元にして魔道船の残骸の存在を知ったようです。
で、自らの召喚魔法で骨人間やゴーレムなどを呼び出し探させた結果、この魔道船を水中で発見。
で、それを戦闘魔道船に改造して、まず僕に復讐し、それから周囲の辺境都市を片っ端から蹂躙。
最後は王都にまで攻めあがるつもりだったようです。
ちなみに、ジルルによる物と思われるこのレポートですが、途中から変な悪の王子様みたいなのが出て来てジルルと運命の恋に落ち、そのまま2人で世界に君臨するみたいなわけのわからないストーリー仕立てになっていた次第です。
まぁ、そんな厨二的な部分といいますか、ジルル的にも恐らく黒歴史になりかねないこれはですね……後で辺境駐屯地のゴルアにしっかり提出しておこうと思います。
で、ジルルはこの魔道船を動かすのに必要な魔石をですね、どうやら彼女が所属している闇の嬌声の本部らしきところから斡旋してもらったみたいですね。
闇の嬌声って、この国の闇の商売を牛耳っていた組織らしいんですけど、本拠地にしていた都市を王都の騎士団に襲撃されたり、スポンサー的な存在だった貴族のお偉いさんが失脚したりしたもんだから半分瓦解しながら闇に潜んでいったってもっぱらの噂だったんだけど、まだまだ元気に活動なさっているようですね……
で、僕達はこの魔道船の心臓部でもある魔石動力室へ移動しました。
その中に入ると、
「うわぁ……すごいです!」
「うおい!」
「うきゃあ」
パラナミオ・リョータ・アルトの3人が思わず歓声をあげたんですが……さもありなんです。
僕達の前にある魔石は、僕の身長くらいあり、綺麗な七色の光を発しながら魔力を放出していたんです。
「魔石って、店で販売しているサイズの物しかみたことがなかったけど……こんなでっかいのもあるんだなぁ……」
僕も、子供達同様に感嘆の声をあげました。
すると、そんな僕の横でスアは、
「……これは特別サイズ、ね……こんなに大きい魔石は滅多にでない、よ」
そう言いながら水晶樹の杖を魔石に向け、魔石を解析しているようです。
すると、スアは急に周囲をキョロキョロし始めました。
「スア? どうかしたのかい?」
「……1人いる、はず」
「は?1人いる? 誰が?」
「……この魔石の調整をして、魔道船を操作している、人」
スアはそう言って魔石の脇にある台を杖で指し示しました。
その台は、たくさんのスイッチやレバー、ダイヤルなんかがついています。
「あれが……操作台ってこと?」
「……そう……そして、ついさっきまで誰かいた、はず」
スアがそう言った、まさにその時です。
「貴様、そんなところで何をしているでござる?」
「おとなしくお縄につくキ!」
部屋の奥からイエロとセーテンの声が聞こえてきました。
僕達が駆けつけると、そこでイエロとセーテンが一人の女に馬乗りになって縄で縛り上げているところでした。
その女の人……なんか、小柄な体にピッタリフィットしたボンデージみたいな衣装を着ていてですね、黒いマントを身に纏っているのですが、
「ああ……ぼ、暴漢共に捕まってしまいました……私はこの後、この者達に散々弄ばれた挙げ句、死ぬまで陵辱の限りを尽くされながら永遠に奴隷としての生活を強いられるのですね……」
そんな言葉を口にしながらイエロとセーテンにほぼ無抵抗のまま捕縛されているところでした。
……で、その言葉だけ聞けば、自分の将来を悲観しているように思えるこの言葉なのですが……
この女の人、この言葉を発しながら明らかに興奮しています。
顔を真っ赤にして、はぁはぁ上気した息を吐き出しながら、涎まで垂らしています……
で、まぁ、とにかくですね、イエロが縛り上げたこの女の人と対峙した僕なんですが……
そんな僕を前にしてこの女の人、
「あ、あなたがこの悪の集団のボスなんですね!? あぁ、私はここで初めてを迎えてしまうのですね。その上であんなことやこんなことやそんなことやいろんなことを仕込まれて、死ぬまで陵辱の限りを尽くされながら奴隷としての生活を強いられるのですね……」
そう言いながら、明らかに歓喜の表情をその顔に浮かべています……やだなぁこういう人、かなり苦手かも……話がいちいち進まないんだよねぇ、こういう人相手だと。
僕の悪い予想は的中しました。
僕が何か聞く度に、この女の人は
『……死ぬまで陵辱の限りを尽くされながら奴隷としての生活を強いられるのですね……よよよ』
って結論に話が飛んでいくばかりで、なっかなか話が進みませんでした。
で、2時間近くかかったでしょうか……ようやくだいたいのことを聞き出す事が出来ました。
この女の人はメイデンっていうリッチだと言うことがわかりました。
つまり、不老不死の魔法使いってことですね。
で、彼女は闇の嬌声から魔石と一緒に派遣されてきたそうで、ジルルの計画していた戦闘魔道船構築計画に協力していたんだとか。
(……でもなぁ……こいつ、闇の嬌声の本部から厄介払いされてきたんじゃないのか?)
僕がそんなことを考えていると、スアもコクコクと頷いていました。
で、この女が魔石と魔道船の操作を行っていたようです。
「あぁ、やはりあなた方は私にこの魔道船を操作しろと、死ぬまで……」
相変わらず、興奮仕切った様子で言葉を続けていくメイデンなんですが、スアはそんなメイデンの頭に水晶樹の杖を乗せました。
で、しばしフンフンと頷いていたスアなんですが、
「……だいたいわかったから、あなた、もういらない、わ」
そう言うと、魔石の操作台のところに行って、あれこれ操作し始めました。
すると、魔道船はゆっくり上昇をし始めたではありませんか。
で、スアは僕に向かって
「……うん、なんとかなりそう」
そう言いながら右手の親指をグッと突き立てていました。
どうもスアは、先ほど水晶樹の杖でメイデンから魔道船の操作方法なんかを直接脳から読み取ったようです。
で、さすがにこれにはメイデンも慌てたらしく、
「な、何を勝手なことをなさっているのですか!? それは反則です! ここは正々堂々この私をいたぶり尽くした上でですね、無理矢理聞き出すという王道パターンをですね……」
なんか必死になってそんなことを口走っていたのですが、当然僕達は全員無視しました。
するとメイデンは
「……あぁ、こ、これは……あの噂に聞いていた、あの放置プレイというヤツなのですね」
そう言いながら、再びはぁはぁ荒い息を吐き出し始めました。
……なんかもう、やれやれです、はい。
こうして、魔道船と魔石を入手することが出来た僕達ですが……
ガタコンベの街にこの魔道船で戻った僕達は、この魔道船をコンビニおもてなしの裏を流れている川の少し上流にあります大きな池に浮かべておきました。
以前、ルービアス達が暮らしていたところです、はい。
で、この事実を辺境駐屯地のゴルアに報告。
ジルルの計画書は静かなる闇によるテロ計画の証拠として提出しました。
重要参考人としてメイデンも一緒に引き渡しておきました。
連行されながら、メイデンは
「わ、私はこのまま拉致監禁されて、あなた方の奴隷として死ぬまで……」
最後までぶれることなくそんなことを言いながら連行されていきました。
で、魔道船と魔石ですが、
「今回の闇の嬌声によるテロ計画を未然に防いでくださった功績に対する恩賞として払い下げてもらえるように手続きいたしましょう」
と、ゴルアが言ってくれましたので、近いうちに正式に僕達の物にすることが出来そうです。
◇◇
これで、各都市をこの魔道船で結ぶ事が出来れば、人の移動だけでなく物流も盛んになっていくでしょう。
あわよくば魔道船内にコンビニおもてなしの出張所を作ってもいいかもしれません。
となると、新たに店員を雇わないといけないわけなんですが……おかしいな、なんでここでメイデンの顔が浮かんでくるんだ、おい……