【原生生物との戦い】
【原生生物との戦い】
「さっさとお前のラルを渡せっ!」
青いレーザーを放たれ、怒鳴られる。
カーチスの攻撃をかわし、レイフはガリーナが走り去った方向に目をやった。
(ガリーナちゃん···っ!くそ···こんな奴をかまってる余裕なんか、ないはずなのにっ!)
レイフは歯ぎしりをし、剣で青いレーザーを弾き、間合いを取る。
ガリーナは半獣たちの集団をかき分け、走り去ってしまった。その後を追ったのはフィトだけだったが、MAがガリーナを追っているというのが良くはない。
(ガリーナちゃんは戦えない···MAに追われて、捕まるのも時間の問題だ)
何とか自分が助けに行かなければーーとレイフは焦る。
「よそ見はいけませんね」
「···っ!」
レイフの懐に、若い青年が素早く入り込んできて、体当たりをしてきた。
「お···わっ!」
レイフは体勢を崩しかける。踏ん張ろうとするが、少年に腕を捕まれて強引に引き寄せられた。
視界が、ぐるりと回転する。
「ぎゃっ!」
少年に体を持ち上げられ、一本背負されたのだ。
「チン、でかした!!」
鱗の青年はチンというらしい。カーチスは感謝の言葉を言うが、チンは全く嬉しそうではない。
「こんなど素人に時間をかけないで下さい。さ、ラルを回収しましょう。クォデネンツを手に入れなくては」
(ど、ど素人···)
チンは、年頃から言うとレイフと変わらないくらいの年齢だ。アシスの軍人として働いているのであれば、彼は軍人の中ではエリートなのだろう。
(俺と同じくらいなのに···)
自分は、同年代のアシスの軍人にも勝てないのか?
「やめろ···っ!!」
チンが、レイフの手首を手にとった。ラルを外そうとしているのだ。
「どっかーーーーーーんっ!」
そのチンの体が、勢いよく吹っ飛ばされた。続いてカーチスも、「ぐおっ!!」と声を上げ、壁に叩きつけられる。
レイフが目を瞬かせていると、自分の体を軽々と脇に持ち上げる人物がいた。
パパゴロドンが、大股で駆け出したのだ。
「負ける暇ない感じなんだなー」
こんか戦闘中であっても、パパゴロドンは間延びした口調で言った。彼は自分を脇に抱えた状態で、ひょいひょいと動く。
「あんタ···何なのヨっ!さっきから!」
硬化したシャワナの髪が、パパゴロドンを叩き潰そうと動いているからだ。
「ただの星境局員デショ!?軍人じゃないくせニ···っ!」
「そうだぞー、ただの星境局員な感じだー。でも、星境局員が強くて何が悪いー?」
またもシャワナの硬化した髪が、パパゴロドンに振り落とされる。
「どっかーん!!」
パパゴロドンは間延びした声で叫ぶと、脇に挟んだバズーカの空気で硬化した髪を弾き飛ばす。硬化した髪は一瞬吹き飛ぶが、彼女の髪を切り落とすことも、破壊することもできなかった。しかし一瞬の隙を生むことはできたため、パパゴロドンはすぐにガリーナが走り去った方向に向けて駆け出した。
「逃げるぞー」
「ア!待て!!」
パパゴロドンは自分を脇に抱きかかえたまま、戦線を離脱する。
「オグウェノ人がいるのは厄介な感じだなー、あの髪は、俺には破壊できないー」
「オグウェノ?」
「あのお嬢ちゃんのことだー、惑星オグウェノのツークンフト。ああして髪を操って武器にできる感じなんだー」
シャワナの出身惑星を、レイフは考えたこともなかった。戦闘に適した種族なのだろうとは思っていたが···。
「パパゴロドンさんでも、あの髪って壊せないんすか···」
そういえば、ユキの6JLでもシャワナの髪は弾かれるだけだった。レイフは直接攻撃を受けたことがあるからわかるが、彼女の髪は硬化した時、岩のように硬くなる。レーザー銃や、空気砲のようなバズーカでは、太刀打ちできないのか。
「何言ってるんだ、お前ー。婦女子の大切な髪を武器なんかで破壊できるわけがないだろー?」
「···あ?」
「髪は女の命だぞー?若くてもそれぐらい知っとけー?」
「···破壊できないって、そういう意味っすか!?」
レイフは叫ぶ。
パパゴロドンは半獣たちの人混みをかき分け、街中を走る。半獣たちは自分たちに動揺の目を向けていたが、ガリーナのように石を投げつけたりはされなかった。
(こいつら···っ!)
さすがにレイフも民間人を傷つけようとは思わないが、走り去るときに地面に落ちたガリーナの髪を見て、何も考えないわけにはいかなかった。
「ちょっと···待ちなサイ!!」
シャワナの声が、遠くに聞こえる。彼女も自分たちの後を追おうとしているのだろうがーーー。
「···攻撃してこない···?」
「あの髪は、人混みの中では使えないはずだー。自分たちはアシスだって名乗ってたらなー」
宇宙連合は、仮にも宇宙の平和を司る組織だ。平和という大義名分をかかげている以上、民間人を巻き込むわけにはいかない。
(あの髪は、自在に操ることはできるけど、影響範囲はしぼれないのか···っ)
後ろを見ればシャワナは確かにレイフとパパゴロドンを追ってきている。だが、髪で自分たちを攻撃しようとはしていない)
(···そういえばフィトも、ガリーナちゃんが逃げた時、能力は使っていなかった···)
MAならば、何らかの手段でガリーナを捕えられそうなものだがーーー人混みの中だから、使えなかった?
「問題は···街から出た時だなー」
パパゴロドンの大股走りで、すぐにアバウの街を抜け出し、砂漠地帯に出ることになった。
「あっ、あれは···!?」
建物を抜け、視界が開けた。パパゴロドンはぶんっと自分を砂漠に放り投げ、くるりとシャワナを振り返る。レイフは砂漠の上に転がり、ガリーナが逃げた方向を見つめた。
砂漠のように開けた土地だからこそ、わかる。遠くに、大きな生物がいるのだ。
全長10メートルはあるだろう。ペスジェーナの倍の大きさはある。先ほどレイフを襲ったエミュルブトーと同じく、水で構成された生物のようだ。
「どっかーん!」
パパゴロドンは、叫ぶ。追いついてきたシャワナが、大きく髪を振るい、彼を殴ろうとしていた。が、パパゴロドンはバズーカで髪を吹き飛ばす。
「このタイミングで、リオカルマーシュかー!注意報出てた感じだもんなー!」
「り、リオカルマー···?」
「リオカルマーシュ!惑星ニューカルーの原生生物だー!なわばりに入ってきた奴は、絶対に殺す生き物な感じだー!」
「殺す···?!あっちには···」
ガリーナがいるはずだ。レイフの顔は自然と青ざめる。
「行くんだなー!ここで俺はオグウェノ人を受け持つんだなー」
「で、でも、パパゴロドンさん···!」
「オグウェノ人の相手はお前には荷が重い感じだろー?リオカルマーシュは、エミュルブトーと同じで、砂が···」
パパゴロドンの肩を、思い切りシャワナの髪が殴った。パパゴロドンは悲鳴こそあげなかったが、その大きな体が砂の上に弾き飛ばされる。
「パパゴロドンっ!!」
「あハハッッ!」
シャワナは、やっと自分の攻撃がパパゴロドンに当たったことを喜んでいた。彼女は続けてパパゴロドンのバズーカに向けて、髪を振り下ろした。
「ーーーどっかーーーーん!!」
パパゴロドンが、叫んだ。シャワナの髪が吹き飛び、パパゴロドンはゆっくりと起き上がる。
「さっさと行くんだなー!」
パパゴロドンが、怒鳴った。
怒鳴り声に反応し、レイフはきびすを返し、大きな生物に向けて走り出す。パパゴロドンとシャワナの声が遠くなる一方で、大きな生物の声が近くなる。