それでもまだ―。
朝、目が覚めると浮かんできた言葉。
それは、学校に行きたくないだった。
本来、僕はずっとこのマインドだったのだが、最近は好きな人ができたことによって、少しだけ学校に行きたいと思えるようになってきていた。
だが、僕は昨日好きな子に振られてしまった。その瞬間にあの頃のマインドがふと思い出されたのだ。
学校に行きたくない。
好きな人に好きになってもらえない生活なんて送りたくもないし、第一、美晴と会うのが気まずくてしょうがない。
そんなことになるくらいならいっそ告白なんてしなければよかった。
今更後悔に苛まれたとしてもどうしようもない。人は前に進むことしかできないからだ。
僕は限りなく精神的に重い体を起こして、ベッドから降り立った。
「はあぁ…」
そして、いつものように階段をつたって、1階を目指した。
「どしたん?元気ないなぁ」
斗仁はいつものトーンで通学路に声を響かせる。朝日は目を細めたくなる程に光を放っていた。
「いや…なんにもない」
僕は何も斗仁には言わないと決めた。言ったら、言ったで絶対に笑われるだけだと思ったからだ。
「振られたんだろ」
斗仁は馬鹿にするような、にやけ顔で僕にそう言ってきた。
「…」
「図星じゃん!!」
この男の洞察力は、何故こんなにも高いのだろうか。
普通、人の顔見ただけじゃ、振られたなんてことは分からない。
この技術を是非とも勉強に活かして欲しいと思う。
「しゃあないよ。陰キャの力ってそんなもんさ」
斗仁は慰めるように肩をぽんぽんと叩く。
「あれだろお前。僕がリア充にならなくて安心してるだけだろ。」
僕は鋭い眼光で斗仁に言った。
「げっっ!いやいや、そんなわけないよ。」
げっっ!とか言うな。
「まぁさー。九牙にとってみれば告白をしたなんてすごいことだと思うよ。」
斗仁はポケットに手を入れた。
「でも振られた」
僕は苦しくなる胸を平常心で押さえつけてポーカーフェイスのような顔をしてそういった。
すると、斗仁は少し真面目な顔になって、言葉を放つ。
「九牙は振られたからって終わりなの?」
僕は反射的に斗仁の方を向いた。
「え?」
「一回振られたくらいで諦めてしまうくらいの浅い気持ちだったの?九牙の恋心って。」
「何だよ急に」
と言っている自分とは相対して斗仁の言葉にはっとしている僕が確実に存在した。
「いやーこれで終わりなのかなって」
斗仁はアスファルトに転がっていた小石をぎこちないフォームで蹴った。
終わったのか…僕の恋は。
「終わり…」
僕は恋が勝手に終わったのだと思い込んでしまっていた。
否、本当は違うんじゃないか?
僕はまだ全然美晴のことが大好きだ。その気持ちが残っているのであれば、僕は未だ恋の延長線に立っているということになるのではないか?
僕は昨日確かに振られた。だからと言って僕の気持ちが、想いが、振られたことによってさらっと流されたのかと問われると、まるっきりそんなことはない。
ずっと好きだったのに、そんな半日程度で切り替えられるわけがないのだ。
「僕だったら、本当に好きな人ができたら例え、何回振られてでもアタックをかけ続けるよ」
と、斗仁は言った。
「そうか…」
そうだ、振られたって関係ない。
振られたってもう一度チャレンジすればいいんだ。何回でも何十回でも美晴にアタックをかける。例え、100回告白して99回ダメだったとしても一回でも成功したらそれでいいのだ。
当たり前だが告白に回数制限なんてものはない。
「ありがとう、斗仁。気づかせてくれて」
僕は薄ら笑いを浮かべた。
「ん?なんのこと?」
「いや、何でもない」
僕の学校に向かう足はいつのまにか早くなっていた。
第2話 ~fin〜