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そんなのハーレムじゃないじゃんっ!

何回でも何回でも反芻される心無い機械音が今日も僕を起こしたようだ。
いつもの朝と何も変わらない。そりゃそうだ。逆に変わっていたら恐怖であろう。
僕は耳に優しくないアラームをしっかりと止めて、ベッドから体を起こした。まだ寝起きなので視界はぼやけににぼやけている。
それを治そうと目を大きく開いてみたものの、現状はさほど変わらなかった。
これは時間経過に任せることにしよう。
とりあえず、僕はベッドから立ち上がった。言うまでもなく、1階のリビングに足を運ぶためだ。足元のカーペットは、微妙なる冷たさをもたらしている。
まるで、あまりカーペットに歓迎されていないみたいだ。
僕はふらふらとした足取りで階段を降りた。途中で寝ぼけて転がり落ちそうになったけど、幸い手すりにつかまっていたので、大事には至らなかった。
なんやかんやあって僕はリビングに到着したのだが、ベッドにスマホを忘れてきたことを思い出してまた階段を登った。
朝から往復運動するととても足に負担がかかる。
最近になっていよいよ体力不足が深刻化してきた。まぁ、そりゃあそうだ。なんせ、僕は大した部活に所属しているわけでもないし、だからと言って各自で運動しているというわけでもないから体力が落ちて至極、当然であろう。
と言うか僕に元々体力なんてない。
得意のネガティブシンキングを巡らせながら、僕は今度こそスマホを持ってリビングに入った。
リビングに隣接されているキッチンでは母さんがフライパンを振っている。
それと対応するかのようにフライパンからはジュージューと音が聞こえてきた。つまり、料理とはコミュニケーションなのだろうか。
何言ってんだと自分に突っ込みを入れながら、リビングの一番大きなテーブルの椅子に座った。この椅子にはクッション性がないので、やけにケツが痛い。
最悪、痔になってもおかしくない位だ。
そういえば、痔って何が原因なのだろうか。しばらく、考えてみたものの無駄な時間だということに気づかされ、思考を停止した。
それと同じくらいの頃に母さんは僕に話しかけてきた。

「おはよう」

「おはよう」

そんな何気ない会話の中で、母さんは僕の顔を怪訝そうに眺めている。もしかして、僕の顔に何か付いているのだろうか。

「何?そんな見て。なんかついてる?」

僕は手で顔を触ってみた。しかし、特別何かが付いているというわけではなかった。

「いや…なんかいつもと違うって言うか…何て言うか」

母さんは僕の顔を不思議そうに眺める。まるで、電子レンジと初めて出会った原始人のようだ。

「なんか違う?」

「うん、なんかかっこよくなってる」

え?そんなわけがあるか。一晩でかっこよくなれるほどこの世は甘いもんじゃない。
そんなわけないでしょと言いつつも、洗面台の鏡に向かう僕がいた。別に本気でワンチャンあるかもとか思ってるわけじゃなくて、ただの確認のためだ。
例えるなら、六十歳のじじいがタバコを買う時に年齢確認の方をするのと同じだ。この顔で二十歳なわけがない。
それと同じ、今の状況は。
まぁなんやかんや言って期待している僕は、洗面台の鏡を覗いてみた。

「あれ?」

僕の顔は何ら変わっていなかった。僕はがっくりと肩を落とした。そうか、僕の顔がかっこよくなったんじゃなくて、母さんの目がおかしくなっただけなのか。
後で母さんに眼科すすめよう。
僕は落胆しながらリビングに戻ってきたのだが、母さんの目は相変わらずおかしいままだった。

「なんか…本当に違うよ」

母さんは、より一層深刻な顔をしてまた言い出した。変わったのは母の僕への態度だけだというのに。

「え?何で?鏡見たところ、あんまり変わってなかったよ」

「何言ってる!の昨日と今日では、もう天地の差くらいに違うよ!」

「それ、褒めてるの?」

少し複雑な気持ちになったが、母さんがあんなに本気で言ってることなので、だんだんと僕は本当に変わったのではないかと思い始めた。確かにあるかもしれない。朝起きたらイケメンになっていたみたいなラノベチックな展開。僕は心の片隅にそういう希望を残して今日も学校に向かった。
学校に行く途中で斗仁に「僕なんか変わったと思う?」と聞いてみたが反応は「いや全く」とイマイチだった。
やっぱり、母さんの目が悪いだけじゃないのかと思われたが、明らかに女子の目線はいつもと違っていた。通りすがりの女子校生はちらちらと恥ずかしそうにこちらを見てくる。
数名の女子グループはこちらを指差してジロジロと見ながらコソコソと何かお話している。
さっき通った小学生の子なんて僕に向かって「わぁーイケメンがいるー」とかをもろに言っていた。これは、これはあるんじゃないか?夢のようなことが今おこってるんじゃないか?
もしも、僕が本当にイケメンに変わっているんだとしたら僕の恋模様だって十分に変わる可能性がある。
もはや言う必要もないと思うが、顔がかっこいい人は他の人と比べても大きなハンディがある。
例えるならば、だるまさんが転んだのはじめの第一歩を一人だけ5回分できるようなものだ。
まだ完全にそうなったとは決まっていないが、仮にそうだとしたら僕の声は図らずとも大きく前進したことになる。
なんて、僕はラッキーなやつなんだ。まるで、宝くじを当てたような気分に僕は朝から酔いしれた。
学校に着いてみても、女子の目線はみんな僕に集中していた。
まだ教室にも入っていないというのに、既に8人に話しかけられた。しかも、その全員がそこそこ可愛い子。
まぁ、美晴には及ばないけどね。
僕はいつも通りに教室のドアを開けて中に入った。
入った瞬間空気が変わったのを肌で感じた。
まるで、僕にスポットライトが当たったかのように、女子の視線は僕という名のの一箇所に集中した。
とても入りずらかったけど、僕はイケメンのように堂々と自分の机に向かうことにした。
自分の机に向かうや否や、僕の周りには人だかりができた。
それも全員女子。

「九牙くん、おはよう」

この人は誰だ?全く喋ったことがない。失礼だが、存在も知らなかった。

「おはぴよ。九牙っち」

と言っているこいつも全くもって知らない人だ。

「おはようございます」

全くもって知らない声が飛び交う中、急に聞き馴染みのある声が聞こえてきた。こいつは、確か陰キャ風紀取り締まりコンビの、ポニーテールの方の幸江だ。
同級生に敬語の挨拶をする所あたりが、それを裏付ける 。
昨日は散々あーだこーだ言いやがってなんだ、今日に限って自主的に挨拶かよ。
今気づいたが僕は今、全方位360°女子に囲まれている。
どこぞのハーレムか!と突っ込みそうになったが、主観的事実なので口をつむぐことにした。
さて、この状況。
僕はイケメンに成り上がったということでいいのだろうか?
女子の僕への態度は昨日とはまるっきり違う。幸江の対応がとても良い例だ。でも、当時の対応はまた全く変わっていなかった。
そして鏡で見たところ、自分の顔も変化していなかった。本当に変わったのは女子の僕への態度だけだ。
頭をフル回転して今の状況を何とか噛み砕こうしていると、僕の周りにいる女子たちの一人がおもむろに話しかけてきた。

「あのぉー九牙くんって、彼女いるの?」

その女の子は、すごくもじもじしながら恥ずかしそうに言ってきた。多分この子はすごくシャイなんだろう。

「いや…いないけど…」

「えっ!?」

その女の子は、まるで雲に隠れていた太陽が雲から顔を出したかのように明るい顔になる。
よく僕に彼女がいないという事実だけでそんなに喜べるね。
すると、今度は違う女の子が話しかけてきた。

「じゃあ、私と付き合わない?」

だから誰なんだ君は。ほぼ初対面でよくそんな事言えるね。

「あぁ…あの…えっと…」

断りたいのだがうまく言葉が出てこない。陰キャの弊害だとも言おうか。
僕が突然の告白に慌てふためいていると、またも違う女の子が喋りかけてきた。

「いや、こんな女より私と付き合わない?」

「なによ!こんな女って!!」

先ほど告白してきた子は声を荒げて怒り出す。

「二人とも醜い喧嘩やめなさい」

お次はロングヘアのおしとやかな女の子が話に割って入ってきた。ロングヘアの子は僕の肩にポンと手を置いて耳元で囁くようにこう言う。

「私と付き合わない?」

吐息が直に聞こえてくる。これまた断りづらそうな案件が増えてしまった。

「耳元はずるいわぁ!」

「ボディタッチもおかしい!」

僕の周りからブーイングの嵐が巻き起こる。
僕はいつからこんな事になってしまったのだろうか。
というか、みんなどうしてしまったのだろうか。
と、ここで唐突にホイッスルが鳴る。
僕も含めた全員はそのホイッスルが聞こえてくるほうに目を向けた。
目線の先にはおなじみのあのコンビがいた。
そう、陰キャ風紀取り締まりコンビ。僕の敵だ。
幸江はさっきから居たが、居子は今日初めて見た。どうやらホイッスルを吹いたのは幸江のようだ。
そしてその横の居子は黄色のメガホンを抱えている。そのメガホンを居子は口元に持っていく。
まさかこいつ、この教室でメガホンを使う気か?
案の定、僕の予想は当たっていた。

「みんな陰キャとは5 M 以上離れないといけないっていうルールがあったでしょう?」

居子のメガホン付き大声は図らずとも耳がキーンとなってしまう。

「ほらほらみんな離れて!」

居子は両手を目一杯に広げて、強制的にみんなを僕から離れさせる。それに合わせて、幸江もホイッスルをピーピーと鳴らしながら、居子の手助けをした。
初めてこのコンビをありがたいと思ってしまう僕がいた。やはり、このコンビの力は偉大だ。
気がつくと、僕の周りにはいつも通り誰もいなくなっていた。少し寂しいようなそんな気もするが困っていたのでまあ助かった。
しかし、一人、否、二人の女の子だけは僕の周りを離れようとしなかった。
その二人は意外な幸江と居子だった。

「助けてあげたんだからお礼ぐらいしてよね」

居子は上から目線でそう言ってきた。
なんかあまり素直にお礼を言いたいとは思わないが、実際、助かってしまっているので軽くお礼ぐらいはしておこう。

「あ…ありがとう」

「まったく、それくらい自分で対処してよね」

そんな居子の言葉をさらっと聞き流す程度で聞いていると、ふいに肩に何かが当たったような感覚がした。何かと、肩の方を見てみると机に紙飛行機が置いてあるのに気がついた。

「何だこれ」

「何ですか?それ」

幸江は不思議そうに紙飛行機を眺めた。なんとなく僕はその紙飛行機をひらいてみる。
すると、突如として紙飛行機に書いてあったメッセージが目に見える形で出現したのだ。
そのメッセージには、「好きです。付き合って下さい」という主旨のものが書かれていた。まさかのラブレターかよ。
誰がそんなキザな真似をするのかと教室中を見渡してみると、一人だけ妙に目が合う女の子がいた。
その女の子は僕と目が合った瞬間に恥ずかしそうに目を逸らした。
うん、多分この子の仕業だろう。
初めてもらったラブレターをじっくり見ていると、居子がそののラブレターを取り上げてきた。

「何これ」

オリコは目を細めながら紙飛行機兼、ラブレターに目を通した。そして、それを読み終わったかと思えば、居子は唐突にそのラブレターを破ったのだ。

「え!?何してんの!?」

驚いているのは僕だけではなかった。幸江もそして、ラブレターの送り主も目玉が飛び出るほどに驚いていたのだ。

「こんな風紀の悪いものをほってはおけないわ」

そう言って居子は正真正銘、破れたラブレターをゴミ箱にポイと投げ入れた。
ラブレターの送り主は「あーー!」と言いながらゴミ箱の方へ走っていった。

「何やってるんだよ!」

僕は少し大きな声で言った。

「あなたにはふさわしくないわ」

居子はまるで嫉妬しているかのようなふてくされた態度でそう言った。
もしかして、こいつ、居子。僕のことが好きなのか?
いや、絶対そうだ。
他の女に僕を取られたくなかったからそんなことをしたんだ。
じゃなければ、普通そんなことはしない。
今、よく考えてみると女子達を僕から話した理由は他のライバルたちから僕を遠ざけたかったからなのではないのだろうか。
僕は今一度、居子の顔をしっかりと見てみた。
なんと言うか、乙女の顔と言うか…頬がほんのり赤くなっているのだ。
やっぱり、居子にも僕の謎の魔法がかかってしまったのかもしれない。
まぁ、あくまで僕の主観からであるが。
と、ここで教室のドアが開いた。
まさか、この時間帯。
僕は首を寝違えてしまうんじゃないかと思われるくらいのスピードでドアの方を振り向いた。すると、そこにはやっぱりあの子がいた。
そう、美晴だ。
美晴は教室に入るとすぐにいつも通りみんなにおはようと置いていく。
もう一歩歩くごとに天使だ。
いつも可愛いし、前髪も整っているということにも安定感を覚える。やっぱり、美春は他の子とは存在がまるっきり違う。
そして、美晴はいつも通りに僕の真後ろに座った。後ろに来られるとやっぱり心臓がドキドキする。
でも、今日の僕はいつもの僕ではない。
朝からの女子たちの反応を見た限り、僕は昨日とは全く違う新しい自分になったと言っても過言ではないはずだ。
つまり、今アタックすべきであろう。
この女子に異様に好かれる確変のような状況もいつまで続くかは分からない。だったら、今すぐこれが変わってしまわないうちにアタックをかけるしかない。
僕が本当に好きなのは美晴なのだ。
僕はそう決心して4回転アクセルをするような勢いで美晴の方へ体を向けた。

「美晴さんおはよう」

僕はあたかもイケメンのようににっこりと微笑んだ。よし、これで惚れてくれただろう。

「おはよう」

返事はいつもと変わらずノーマルであった。
あれ?思っていたより普通の反応だな。
すかさず僕は次の言葉を紡いだ。

「僕、なんかいつもと違うと思わない?」

少し調子に乗って僕はこんなことを言ってしまった。
裏を返せば僕はそれくらい変にハイになっているということだ。
人はハイになってしまうと正確な判断はなすことができなくなってしまう。故に、ハイは愚行を引き起こすもととなるのだ。
今も、そしてこれからも。

「いや、別に違わないけど」

美晴は少し困った顔をしながらそう言った。
見たところ、美晴の困った顔には好きから由来したものは含まれていなかった。
なぜだろうか。皆は見た瞬間、僕に惚れてくれるのにも関わらず、美晴にだけはそういったものが一切感じられない。
いや、でも美晴が好きという感情を隠すのが上手いだけという可能性も大いにあり得る。
やはり、そういうものは告白してみないと分からないものなのかもしれない。
僕はこの短い時間であることを決断した。
それは今日美春に告白をするということ。
僕の見たところ、告白にかけてみる価値は十分にあると思う。なんせ、今の僕なら何でもできる気がしてならないからだ。
よし、ではここで美晴に約束をつけておこう。

「あの…美晴さん…」

「なに?」

僕の急な真顔を美晴は不思議そうに首を傾げながら眺める。
ここまで来るともう後戻りはできない。言うんだ!

「放課後…校舎裏に来てくれませんか?」

僕は他の人に聞かれないように少し小さな声で言った。

「あー今日は何もないからいいよ」

「え?ほんと?」

「うん」

本当に嬉しい。嬉しすぎるぞ、これは。
もしかすると、僕は今日はあの子と付き合えるのかもしれない。天使のようなあのコが僕の横に…
想像しただけで期待と不安と興奮で胸がいっぱいになる。
やっと僕にも春が来る
もちろん付き合うことができたらの仮定の話であるのだけれども。

告白の事のせいで授業に手がつかなかった。国語も数学も英語も全て聞き流してしまった。今日はそれでいい。なぜなら、今日は運命の日なのだから。ずっと好きだったあの子のそばにいられるか、それとも、いられないか。今日ははっきりと品定めされるのだ。
僕は肩に乗ったプレッシャーを感じながら靴箱で靴を履き替えた。
運命の放課後が訪れたのだ。
今まで入っていたスリッパを靴箱に入れようとしたその時、僕はあることに気がついた。僕の目の前には驚愕の光景が広がっていたのだ。

「なんだこれは!」

なんと、僕の靴箱には入りきらないほどのラブレターが詰まっていたのだ。
軽く数十枚は超えている。
僕は慎重に一枚一枚ラブレターを取り出していたが、しかし、何かの拍子によってそのラブレターたちは靴箱から雪崩落ちてしまった。
刹那、 Love Letter は宙に舞う。

「うわぁー!!」

僕は急いでそれらを拾い集めて鞄の中にすべて詰め込んだ。
少し、これは異常すぎないか?この手紙の量ってもう郵便局クラスじゃねぇか。これじゃあ読もうにも時間が足りない。
そんなこの光景に若干の狂気を感じながら、僕は戦いの場である校舎裏に足を進めた。
校舎裏に着いてみるとそこには美晴がいた。
校舎裏にそびえ立つ木々が美晴の美しさを倍増させる。
時折、吹き抜ける涼しい風は美晴の髪も僕の心臓も寄らした。いつ見ようが、どこで見ようが、美晴はいつも可愛いな 。
サッカー部の掛け声が遠くからうっすらと聞こえてくる中、僕はぎこちなく美晴に挨拶をした。

「や…やぁ…」

まるで、陰キャのテンプレートのような挨拶だった。

「ヤッホー。私をここに呼び出してどうしたの?」

美晴は微笑みながら僕にそう言う。
心臓がはちきれそうだ。

「あの…僕は、今日美晴さんに伝えたいことがあって…」

僕は恥ずかしくって、目を至る所に泳がせる。

「ん?なに?」

僕は今から美晴に告る。僕にとっての唯一無二の存在である初恋の相手に告白をするのだ 。OK をもらう確証なんてものはどこにもない。
確定要素も何一つとしてない。
そんな中僕はイチカバチカ告白をする。リスクを冒してまでも手に入れたい子がいるからだ。
僕は美晴をずっと見てきた。他の男と喋っているのを見て、何回も落ち込んだりした。
その気持ちを、想いを、全身全霊で今美晴にぶつけるんだ。
例え、答えが No だったとしてもいい。
ここで言うことに意味があるんだ。僕は深海のように深い深呼吸をして、覚悟を決めてから大きな声で美晴に言った。

「好きです!!付き合ってくださいっっ!!」

僕は前傾姿勢を取りながらそう言ったのだ。
美晴の反応は?と、ちらっと顔を見てみると、どうやらとても驚いてるようだ。

「え…え!?」

美晴は声が出ないほどに驚いていた。それくらい、僕の告白が予期せぬものだったということなんだろう。
大抵の人は校舎裏に呼び出される辺りで察しがつくと思うのだが。
とにかく、今は答えが聞きたい。

「ダメかな?」

僕は申し訳なさそうな顔をして美晴を覗き込んだ。
美晴は俯きながら何かを考え始めた。そして、顔を上げたかと思うと急にこんなことを言い出した。

「ごめんなさい。私、好きな子いるの」

「え?」

僕は口をあんぐりと開けて突っ立っていたまま動くことが出来なかった。

「え、えーと、それは…」

まだ僕は現状を理解できないままだ。

「ごめんなさい!!」

そう言いながら、美晴はどこかへ駆け出してしまった。
そして、僕の視界から美晴が消えていく。
ふとここで我に返り、僕は振られたんだということを実感した。
僕は膝から崩れ落ちる。崩れ落ちた反動でバックに入っていた大量のラブレターが外に飛び出した。

「嘘だろ…」

なんだよ…みんな、僕のことが好きになる魔法を使えるようになったんじゃないのかよ。
ラブレターはいっぱいもらったじゃないか。
なのに、なんで僕のは好きな子にだけにはそっぽを向かれるんだ。
周期的に胸が苦しくなる。それと同時に、涙が流れ落ちた。

「そんなの…ハーレムじゃないじゃん…」

青すぎる空を見上げて僕はもう一度大きな声で言った

「そんなのハーレムじゃないじゃんっっっ!!」



第2話
〜 fin~

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